[スポンサーリンク]

試薬

トリメチルアルミニウム trimethylalminum

[スポンサーリンク]

GREEN2013trimethylalminium.png

トリメチルアルミニウムは炭素・水素・アルミニウムからなる化合物。融点15度・沸点125度。常温液体の物質。水や空気に対して不安定であり自然発火性であり、不活性気体雰囲気下では取り扱うことができます。

 

ベンゼン溶液およびマイナス75度程度以下の低温[2]においては、多くがトリメチルアルミニウムの二量体として存在します。この二量体分子に見られるメチル橋かけ結合は、三中心二電子結合のひとつであり、炭素原子は5方向に結合の手をのばしていることになります[3]。

 

このようなメチル橋かけ結合は、同族の元素であっても見られるわけではなく、トリメチルアルミニウム特有のものです。トリメチルボランB(CH3)3の場合は、ホウ素原子が小さすぎて軌道相互作用にはスペースが足りず、それゆえに二量体化しません。ただし、ホウ素原子では、ジボランのように水素橋かけ構造ならば可能です。同族であっても、高周期のガリウム・インジウム・タリウムは、アルミニウムよりもさらに金属元素として振る舞う傾向が大きいです。トリメチルガリウムGa(CH3)3・トリメチルインジウムIn(CH3)3・トリメチルタリウムTl(CH3)3ではイオン結晶の性質が強く、二量体化の寄与は見られないか、とても弱いとされます[4]。

 

トリメチルアルミニウムが単量体の場合にはアルミニウム原子がオクテット則を満たさず電子欠乏の状態にあります。二量体化することで、これが満たされます。同族の元素でなければ、メチル橋かけ結合はジメチルベリリウム[1]等でも見られます。

 

かつてはトリメチルアルミニウムそのものが有機合成の試薬としても使われていましたが、取り扱いやすいトリエチレンジアミンとの付加体(bis(trimethylaluminum)-1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane adduct)のかたちで用いられる[5]ことも増えました。トリメチルアルミニウムはテッベ試薬の原料でもあり、ケトンやアルデヒドのアルケンへの変換に用いられます。


  • 参考文献
[1] “The structure of dimethylberyllium.” Snow AI et al. Acta. Cryst. 1951 DOI: 10.1107/S0365110X51001100

[2] “Proton Magnetic Resonance Spectrum of Aluminum Trimethyl Dimer.” Muller N et al. J. Am. Chem. Soc. 1966 DOI: 10.1021/ja01486a057

[3] “On the Crystal Structure of  Trimethylaluminum.” Vranka RG et al. J. Am. Chem. Soc. 1966 DOI: 10.1021/ja00989a008

[4] “Luminescence Phenomena and Solid-State Structures of Trimethyl- and Triethylgallium.” Mitzel NW et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2002 DOI: 10.1002/1521-3773(20020715)

[5] “Remarkably Stable (Me3Al)2·DABCO and Stereoselective Nickel-Catalyzed AlR3 (R=Me, Et) Additions to Aldehydes.” Biswas K et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2005 DOI: 10.1002/anie.200462569

Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. ブレビコミン /Brevicomin
  2. ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン / Hexanitrohe…
  3. メチルトリメトキシシラン (methyltrimethoxysi…
  4. 塩化ラジウム223
  5. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無電解めっきの原理編~
  6. 常圧核還元(水添)触媒 Rh-Pt/(DMPSi-Al2O3)
  7. 18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)
  8. ニトログリセリン / nitroglycerin

注目情報

ピックアップ記事

  1. 特許の効力と侵害
  2. 二段励起型可視光レドックス触媒を用いる還元反応
  3. 「もはや有機ではない有機材料化学:フルオロカーボンに可溶な材料の創製」– MIT・Swager研より
  4. 第88回―「新規なメソポーラス材料の創製と応用」Dongyuan Zhao教授
  5. 橋頭位二重結合を有するケイ素化合物の合成と性質解明
  6. DNAのもとは隕石とともに
  7. サリドマイドの治験、22医療機関で 製薬会社が発表
  8. 天然階段状分子の人工合成に成功
  9. 計算化学:DFT計算って何?Part II
  10. スマイルス転位 Smiles Rearrangement

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年6月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

最新記事

植物由来アルカロイドライブラリーから新たな不斉有機触媒の発見

第632回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院医学薬学府(中分子化学研究室)博士課程後期3年の…

MEDCHEM NEWS 33-4 号「創薬人育成事業の活動報告」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化する化学」を開催します!

第49回ケムステVシンポの会告を致します。2年前(32回)・昨年(41回)に引き続き、今年も…

【日産化学】新卒採用情報(2026卒)

―研究で未来を創る。こんな世界にしたいと理想の姿を描き、実現のために必要なものをうみだす。…

硫黄と別れてもリンカーが束縛する!曲がったπ共役分子の構築

紫外光による脱硫反応を利用することで、本来は平面であるはずのペリレンビスイミド骨格を歪ませることに成…

有機合成化学協会誌2024年11月号:英文特集号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年11月号がオンライン公開されています。…

小型でも妥協なし!幅広い化合物をサチレーションフリーのELSDで検出

UV吸収のない化合物を精製する際、一定量でフラクションをすべて収集し、TLCで呈色試…

第48回ケムステVシンポ「ペプチド創薬のフロントランナーズ」を開催します!

いよいよ本年もあと僅かとなって参りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。冬…

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール–アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール–アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

【日産化学 26卒/Zoomウェビナー配信!】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 キャリアマッチングLIVE

3日間で10領域の研究職社員がプレゼンテーション!日産化学の全研究領域を公開する、研…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP