カルボラン(carborane)は、ホウ素原子Bと炭素原子Cを正多面体の各頂点に含む分子のことです。正二十面体のかたちをしたものがとくに安定です。
各頂点のうち、ひとつだけ炭素原子で他はみなホウ素原子であるようなものは、単にカルボラン(carborane)と呼ばれます。各頂点のうち、ふたつだけ炭素原子で他はみなホウ素原子であるようなものは、ジカルバドデカボラン(dicarbadodecaborane)と呼ばれるか、もしくは炭素原子の組が近いような分子から遠いような分子へと順にそれぞれ、オルトカルボラン(ortho -carborane)、メタカルボラン(meta – carborane)、パラカルボラン(para – carborane)と呼ばれます。
カルボランを構成する炭素原子およびホウ素原子は、6つの原子と隣接しています。これはホウ素原子が三中心二電子結合(three-center two-electron bond)したものに、炭素原子が一部を置き換わったもので、分子全体としてはパイ電子が三次元的に非局在化する超芳香族性(superaromaticity)によって安定化されています。
ホウ素中性子捕捉療法で期待
カルボランとその誘導体は、1分子中に多数のホウ素原子を含みます。この特性を活用し、ガン治療のためのホウ素中性子補足療法(boron neutron capture therapy; BNCT)に応用しようと研究が進められています[1]。これは、ホウ素原子に中性子があたったときに放出されるリチウム7(7Li)およびヘリウム4(4He)が、数ナノメートルの範囲にのみ高エネルギーな状態で進行し、細胞を傷害する性質を利用し、副作用の少ないガン治療を目指したものです。
最強の酸をかたちづくる
また、カルボランの水素原子を塩素原子に置き換えた物質は、単独の分子のうち最強の酸[2]としても知られています。この他、カルボラン誘導体は、触媒[3]など配位子としても、熱心に研究が進められています。
参考文献
- “The chemistry of neutron capture therapy.” Soloway AH et al. Chem. Rev. 1998 DOI: 10.1021/cr941195u
- “The Strongest Isolable Acid.” Juhasz M et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2004 DOI: 10.1002/anie.200460005
- “Perhalogenated Carba-closo-dodecaborate Anions as Ligand Substituents: Applications in Gold Catalysis.” Lavallo V et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2013 DOI: 10.1002/anie.201209107