[スポンサーリンク]

身のまわりの分子

カリオフィレン /caryophyllene

[スポンサーリンク]

caryophyllene.gif

 カリオフィレン(caryophyllene)は、チョウジ(Syzygium aromaticum)のつぼみ、および花の精油から単離された香気成分である。カリオフィレンは植物中にイソカリオフィレン(isocaryophyllene)との混合物として存在している。

 

  • 歴史・用途

 カリオフィレン・イソカリオフィレン両者を分離する有効な手段が無かったこと、先例のない特異な構造を持つ化合物であったこと、構造解析目的の反応を行っても転位/渡環反応が併発し、元の骨格とは似つかない生成物が得られることなどなど、諸々の理由によりカリオフィレンの構造解析は困難を極めた。

 1950年代、多くの化学者の努力とX線結晶構造解析法の導入により、カリオフィレンは4員環と9員環がトランス縮環したビシクロ[7.2.0]ウンデカン骨格を有する化合物であることが明らかにされた。また、カリオフィレンとイソカリオフィレンは互いに幾何異性体であることが化学的に証明された。すなわち、カリオフィレンは9員環内部オレフィンがE体であるのに対し、イソカリオフィレンはZ体である。

 その構造的ユニークさから、当時の合成標的としては相当にチャレンジングな化合物であった。1964年にE.J.Coreyら[1]が、1983年にJ.E.McMurryらが全合成を達成している。

 

  • 合成法

 以下のMcMurryらによるルート[2]McMurryカップリングによる環化を鍵工程とし、短工程でのカリオフィレン合成をを目指したものである。実際にはオレフィンの異性化をともないイソカリオフィレンが生成物となっている。

mcmurry_isocaryophyllene.gif  
  • 関連文献

[1] Corey, E. J.; Mitra, R. B.; Uda, H.  J. Am. Chem. Soc. 1964, 86, 485.
[2] McMurry, J. E.; Miller, D. D. Tetrahedron Lett. 1983, 24,1885.

 

  • 関連書籍
  • 関連リンク

Caryophyllene – Wikipedia

β-カリオフィレン

β-カリオフィレン (生活環境化学の部屋)

パックマン!? (有機って面白いよね!)

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. シスプラチン しすぷらちん cisplatin
  2. カルタミン
  3. ミノキシジル /Minoxidil
  4. デルフチバクチン (delftibactin)
  5. キニーネ きにーね quinine
  6. アントシアニン / anthocyanin
  7. ボルテゾミブ (bortezomib)
  8. カルボプラチン /carboplatin

注目情報

ピックアップ記事

  1. ブラン環化 Blanc Cyclization
  2. アレノフィルを用いるアレーンオキシドとオキセピンの合成
  3. 分子集合体がつくるポリ[n]カテナン
  4. エドウィン・サザン Edwin M. Southern
  5. トクヤマが参入へ/燃料電池部材市場
  6. 「フント則を破る」励起一重項と三重項のエネルギーが逆転した発光材料
  7. 毎年恒例のマニアックなスケジュール帳:元素手帳2023
  8. オゾンと光だけでアジピン酸をつくる
  9. 「誰がそのシャツを縫うんだい」~新材料・新製品と廃棄物のはざま~ 2
  10. ペプチドの精密な「立体ジッパー」構造の人工合成に成功

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年11月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

注目情報

最新記事

第57回若手ペプチド夏の勉強会

日時2025年8月3日(日)~8月5日(火) 合宿型勉強会会場三…

人工光合成の方法で有機合成反応を実現

第653回のスポットライトリサーチは、名古屋大学 学際統合物質科学研究機構 野依特別研究室 (斎藤研…

乙卯研究所 2025年度下期 研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

次世代の二次元物質 遷移金属ダイカルコゲナイド

ムーアの法則の限界と二次元半導体現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、…

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー