[スポンサーリンク]

身のまわりの分子

シガトキシン /ciguatoxin

[スポンサーリンク]

CTX.gif

シガトキシン(ciguatoxin)は、渦鞭毛藻の一種が産生する化合物であり、シガテラ食中毒の原因物質である。

  • 歴史・用途

 海洋生物からは、非常に強い生物活性と特異な化学構造を有する大型の天然有機化合物が数多く見出されている。その中でも赤潮毒ブレベトキシン(BTX)、シガテラ食中毒の主要原因毒シガトキシン(CTX)およびマイトトキシン(MTX)に代表されるポリエーテル系海産毒は、従来の常識を超える巨大な化学構造、桁外れに強力な生物活性(毒性)と作用の特異性を有することから生命科学の分野で幅広い分野で注意を集めている。

 シガテラ(ciguatera)は、(亜)熱帯地域での魚類を摂取することによって生じる、神経性症状を伴う食中毒である。渦鞭毛藻が産生する毒成分が、食物連鎖を介した生物濃縮によって魚類に蓄積し、それを摂取することで中毒になる。

 その原因毒の一つ、シガトキシン(ciguatoxin;CTX)については4000kgのウツボから350μgが単離され、東北大・安元健らによってその構造が解明された[1]。ごく微量しか得られないサンプルを最大限に活用すべく、非破壊性のNMR測定や超微量測定可能な質量分析が駆使された。

 シガトキシン自体は熱的に安定なため、加熱処理ではシガテラ食中毒を防ぐことができない。有毒個体・無毒個体を簡便に識別する方法の開発が現在でも待ち望まれている。

 天然から得られる量はきわめて微量であるため、化学合成によるCTXの供給はこの分野の進展において大きな意味を持つ。この背景にあって2001年に東北大・平間正博らのグループにより、初の化学合成が達成された[2]

  • 関連文献
[1] Murata, M; Legrand, A. M.; Ishibashi, Y.; Yasumoto, T. J. Am. Chem. Soc. 1989, 111, 8929.

[2] Hirama, M.; Oishi, T.; Uehara, H.; Inoue, M.; Maruyama, M.; Oguri, H.; Satake, M. Science 2001, 294, 1904. DOI:10.1126/science.1065757

  • 関連書籍
生物毒の世界
大日本図書
日本化学会(編集)
発売日:1992-11
発送時期:通常3~5週間以内に発送
ランキング:520422
成山堂書店
塩見 一雄(著)長島 裕二(著)
発売日:2006-10
発送時期:通常24時間以内に発送
ランキング:443228
  • 関連リンク

シガテラ毒

シガテラ – Wikipedia

シガトキシン – Wikipedia

Ciguatera – Wikipedia

東北大学・平間研究室

シガテラ毒について (医薬品情報21)

海産物の毒(有機化学美術館)

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. フラーレン /Fullerene
  2. ジフェニルオクタテトラエン (1,8-diphenyl-1,3,…
  3. シコニン
  4. ビリジカタムトキシン Viridicatumtoxin
  5. ギンコライド ginkgolide
  6. ヘキサン (hexane)
  7. ITO 酸化インジウム・スズ
  8. カルタミン

注目情報

ピックアップ記事

  1. 実験教育に最適!:鈴木ー宮浦クロスカップリング反応体験キット
  2. たるんだ肌を若返らせる薄膜
  3. 2007年度ノーベル化学賞を予想!(2)
  4. タミフルの効果
  5. 自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間
  6. サイエンスアゴラの魅力-食用昆虫科学研究会・「蟲ソムリエ」中の人に聞く
  7. これならわかるNMR/二次元NMR
  8. JEOL RESONANCE「UltraCOOL プローブ」: 極低温で感度MAX! ①
  9. 東工大発、光を操るイミド化合物/光で創られるロジウムアート錯体
  10. 日本発元素がついに周期表に!!「原子番号113番」の命名権が理研に与えられる

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年10月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP