ペニシリン(penicillin)は、もっとも有名かつ歴史のある抗生物質の一つです。
- 歴史・用途
イギリスの科学者A.Flemingによって青カビの一種Penicillium属から単離されました。
ペニシリンはβ-ラクタム構造と呼ばれる特徴的な構造を有し、これを含むL-Cys-D-Val構造が細菌細胞壁のD-Ala-D-Ala架橋構造に酷似しています(下図)。架橋酵素(トランスペプチダーゼ)の活性部位にD-Ala-D-Alaの代わりに結合し、酵素を失活させて細胞壁の架橋を妨げます。結果、細胞壁の脆弱化が起こり、菌は溶菌・死滅します。
人間に存在しない細胞壁合成プロセスを標的とするため、細菌に対する選択毒性は非常に高いとされています。 しかし、変異によってβ-ラクタマーゼという酵素を生産するようになったペニシリン耐性菌は、このβ-ラクタム構造を加水分解してしまい、ペニシリンの効力を無効化してしまいます。こういう菌には、別の抗生物質が必要になります。
ペニシリンは副作用が極めて少なく非常に有用な薬物ですが、しばしばペニシリン・ショックと呼ばれる急性アレルギー反応を引き起こすことがあります。ペニシリン代謝物が生体内タンパクと結合してアレルゲンとなり、発症すると考えられています。
- 関連書籍
身近な存在である抗生物質に関する話題を提供
- 関連リンク
抗生物質の危機 (1)(2) (有機化学美術館)
抗生物質、β-ラクタム系抗生物質(Wikipedia日本)
ペニシリン(Wikipedia日本)
Penicillin (Wikipedia)
Alexander Fleming (Wikipedia)
抗生物質の話 (有機って面白いよね!!)
分子の重ね合わせ(6)/ペニシリンとD-アラニル-D-アラニン (生活環境化学の部屋)