[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第169回―「両性分子を用いる有機合成法の開発」Andrei Yudin教授

[スポンサーリンク]

第169回の海外化学者インタビューは、アンドレイ・K・ユーディン教授です。トロント大学化学科に所属し、機能的に重要な分子の化学合成に取り組んでいます。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

化学に興味を持つ前から、絵を描き始めていました。当時も今も(科学以外で)情熱を傾けているのはこの分野です。有機化学を学ぶようになってからは、自分の絵のスキルが授業にとても役立っていることに気づきました。化学構造物のようにきれいに描かれた抽象物を使って化学的性質を表現可能だと知ったとき、完全な納得感がありました。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

間違いなく、ファインアートです。今でも、トロント・スクール・オブ・アーツやアーツ・ギャラリー・オブ・オンタリオで毎週行われているライフ・ドローイングのセッションに定期的に参加しに行っています。引退することがあったら、100%やるでしょうね。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

いわゆる「両性分子」を研究しています。両性分子とは、相互に排他的な官能基(例えば、アミンとアルデヒド)の反直感的組み合わせを含む分子です。単純な概念ですが、結果として得られる試薬は、高い結合形成効率を持つ効果的合成法の設計に役立ちます。応用面では、「シクロインフォマティクス」と呼ばれるものに注目しています。これは、大規模な大環状分子から機能的に重要な折り畳み構造を出現させる事象を扱うものです。タンパク質の標的選択性と細胞透過性の両方を支配するルールの定義に役立つような、合成プロセスを提供したいと考えています。

Q.あなたがもし、歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

きっとポール・セザンヌにします。セザンヌには、異なる色の中から似たような色調を見分けられるという稀有な才能がありました。彼は作品中で、色の小さなブラシストロークのモザイクを作りあげ、色調だけで完璧な奥行き感を作り出すことができました。彼のタッチにはリズムがあり、それは目で見て感じられます。長い年月を経ても、彼の色づかいはダイナミックであり、静的な作品はありません。晩年のセント・ヴィクトワール山の絵を見ればわかるように、彼からはトーン・バリューを使ったキュビスムが予感されます。ピカソ(好きですが、あまり熱心なファンではありません)がキュビスムを学んだのはこの人です。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

電気化学合成が大好きです。最後に反応を行ったのは(悲しいことです)9年ほど前です。2つの白金電極をアセトニトリル溶液(補助電解質を含む)に差し込み、酸化された複素環を作りました。すぐにでも実験に戻りたいと思っています。というのも、学生たちは電気合成を敬遠しているので。大して難しくないんだよと説き続けたく思っています(9年ごとにですけどね!ハハハ)。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

音楽では、プロコフィエフの『ヴァイオリン協奏曲』(オイストラフとの共演)と、ショスタコーヴィチの『24の前奏曲とフーガ』(ニコラエバとの共演)です。

本では、ショーロホフの『Tihii Don』(ロシア語では「Quiet Flows the Don」、英語では「Quiet Flows the Don」)ですね。

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

Bruce Maryanoffを推薦します。創薬化学がどのように行われているかについて、素晴らしい科学的ストーリーをたくさん持っている人です。また、ワインの愛好家でもあるので、その逸話も聞かせてくれることを期待しています。

また、親友であるChristophe Coperetも推薦しておきます。不均一系触媒分野で研究しており、素晴らしい仕事をしています(偶然にも、真のワイン専門家でもあります!)。

 

原文:Reactions – Andrei K. Yudin

※このインタビューは2011年8月18日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第136回―「有機化学における反応性中間体の研究」Maitlan…
  2. 第27回 「有機化学と光化学で人工光合成に挑戦」今堀 博 教授
  3. 第134回―「脳神経系の理解を進める分析化学」Jonathan …
  4. 第115回―「分子機械と天然物の化学合成」Ross Kelly教…
  5. 第171回―「超分子・機能性ナノ粒子で実現するセラノスティクス」…
  6. 第101回―「高分子ナノ構造の精密合成」Rachel O’Rei…
  7. 第30回 弱い相互作用を活用した高分子材料創製―Marcus W…
  8. 第83回―「新たな電池材料のモデリングと固体化学」Saiful …

注目情報

ピックアップ記事

  1. モーリス・ブルックハート Maurice S. Brookhart
  2. カルベンで挟む!
  3. 光触媒水分解材料の水分解反応の活性・不活性点を可視化する新たな分光測定手法を開発
  4. 部分酸化状態を有する純有機中性分子結晶の開発に初めて成功
  5. 多摩霊園
  6. カーボンナノチューブの分散とその応用【終了】
  7. 安定なケトンのケイ素類縁体“シラノン”の合成 ケイ素—酸素2重結合の構造と性質
  8. 【書籍】ゼロからの最速理解 プラスチック材料化学
  9. AIが作った香水、ブラジルで発売
  10. マスクをいくつか試してみた

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年2月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28  

注目情報

最新記事

中村 真紀 Maki NAKAMURA

中村真紀(Maki NAKAMURA 産業技術総合研究所)は、日本の化学者である。産業技術総合研究所…

フッ素が実現する高効率なレアメタルフリー水電解酸素生成触媒

第638回のスポットライトリサーチは、東京工業大学(現 東京科学大学) 理学院化学系 (前田研究室)…

【四国化成ホールディングス】新卒採用情報(2026卒)

◆求める人財像:『使命感にあふれ、自ら考え挑戦する人財』私たちが社員に求めるのは、「独創力」…

マイクロ波に少しでもご興味のある方へ まるっとマイクロ波セミナー 〜マイクロ波技術の基本からできることまで〜

プロセスの脱炭素化及び効率化のキーテクノロジーとして注目されている、電子レンジでおなじみの”マイクロ…

世界の技術進歩を支える四国化成の「独創力」

「独創力」を体現する四国化成の研究開発四国化成の開発部隊は、長年蓄積してきた有機…

四国化成ってどんな会社?

私たち四国化成ホールディングス株式会社は、企業理念「独創力」を掲げ、「有機合成技術」…

アザボリンはニ度異性化するっ!

1,2-アザボリンの光異性化により、ホウ素・窒素原子を含むベンズバレンの合成が達成された。本異性化は…

マティアス・クリストマン Mathias Christmann

マティアス・クリストマン(Mathias Christmann, 1972年10…

ケムステイブニングミキサー2025に参加しよう!

化学の研究者が1年に一度、一斉に集まる日本化学会春季年会。第105回となる今年は、3月26日(水…

有機合成化学協会誌2025年1月号:完全キャップ化メッセンジャーRNA・COVID-19経口治療薬・発光機能分子・感圧化学センサー・キュバンScaffold Editing

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年1月号がオンライン公開されています。…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー