[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第150回―「触媒反応機構を解明する計算化学」Jeremy Harvey教授

[スポンサーリンク]

第150回の海外化学者インタビューは、ジェレミー・ハーヴェイ教授です。ブリストル大学化学科(訳注:現在はルーヴェン・カトリック大学化学科)に所属し、計算論的電子構造法を用いて化学反応のメカニズムを解明する研究を行っています。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

大規模な爆発には興味がありませんでしたが(両目と両指はまだすべて健在です)、化学変換の手触り感ある不思議さには魅せられていました。10代の前半、鉄に硝酸をかけて二酸化窒素の煙を見るという遊びをしたことを今でも覚えています。物理学よりもずっと楽しかったですね。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

仕事をしないで、興味あるものを読んだり、それについて書いたり話したりしながら、のんびり過ごしたいと思っています。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

長年取り組んできた仕事の多くは触媒作用に関するもので、それは今でもグループを包括する研究テーマです。その中で、私たちはさまざまなことを行ってきていますが、どれも非常に刺激的だと思います。現在、最も興奮しているのは、非常に優秀なポスドクであるDave Glowackiと一緒に行った、複雑な反応系を記述するためのポテンシャルエネルギー面の開発と、これらの系が示す反応性に関する動力学探索技術の研究です。これにより、触媒反応を動かすものについての理解が深まり、触媒の改良につながると考えています。

Q.あなたがもし 歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

ヘンリー・アイリングの名前が頭に浮かびます。1930年代は、新たな量子論が化学反応の理解にどのような意味を持つのか考えられ始めたエキサイティングな時代であり、彼はその中心的人物でした。彼の方程式は、今でも私の化学的思考様式の一部となっています。彼とは時代も背景も異なりますが、これらについて幅広い議論を交わすことが私の夢でもあります。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

実験というと・・・つまりは化学物質を混ぜて反応を見るという本物の実験ですよね。もう何年も続けています。ベルリンのHelmut Schwarzのもとでポスドクをしていたときに、質量分析計でイオンの反応を「見る」ようになってから15年ほど経ちました。計算化学者としては、計算―特にシミュレーションは「研究室での実験」のようなものだと思いますが、嬉しいことに、今でも自らいくつか計算をしています。生体触媒のモデルとなる遷移金属種の結合エネルギーを計算していました。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

どちらも長時間のものでないと飽きてしまいます。バッハの「マタイ受難曲」の録音とプルーストの「失われた時を求めて」がいいと思います。

[amazonjs asin=”B07J35T8BW” locale=”JP” title=”バッハ:マタイ受難曲”][amazonjs asin=”4002012751″ locale=”JP” title=”失われた時を求めて 全14冊 美装ケース入りセット (岩波文庫)”]

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

博士課程の学生やポスドクなど、若い科学者のインタビューを読むのもいいかもしれません。

 

原文:Reactions – Jeremy Harvey

※このインタビューは2011年4月8日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第44回―「N-ヘテロ環状カルベン錯体を用いる均一系触媒開発」S…
  2. 第89回―「タンパク質間相互作用阻害や自己集積を生み出す低分子」…
  3. 第171回―「超分子・機能性ナノ粒子で実現するセラノスティクス」…
  4. 第三回 北原武教授ー化学と生物の融合、ものつくり
  5. 第71回―「化学のリーディングジャーナルを編集する」Stephe…
  6. 第11回 触媒から生命へー金井求教授
  7. 第54回「光を使ってレゴブロックのように炭素と炭素を繋げる」吉見…
  8. 第86回―「化学実験データのオープン化を目指す」Jean-Cla…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 結晶格子の柔軟性制御によって水に強い有機半導体をつくる
  2. 合成ルートはどれだけ”良く”できるのか?分子構造からプロセス質量強度を予測する SMART-PMI
  3. メソポーラスシリカ(1)
  4. 石油化学大手5社、今期の営業利益が過去最高に
  5. セメントから超電導物質 絶縁体のはずなのに
  6. C–C, C–F, C–Nを切ってC–N, C–Fを繋げるβ-フルオロアミン合成
  7. 免疫の生化学 (1) 2018年ノーベル医学賞解説
  8. ミズロウ・エヴァンス転位 Mislow-Evans Rearrangement
  9. 生物活性物質の化学―有機合成の考え方を学ぶ
  10. 元素記号に例えるなら何タイプ? 高校生向け「起業家タイプ診断」

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年5月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

ジアリールエテン縮環二量体の二閉環体の合成に成功

第 654回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院松田研究室の 佐竹 来実さ…

【産総研・触媒化学研究部門】新卒・既卒採用情報

触媒部門では、「個の力」でもある触媒化学を基盤としつつも、異分野に積極的に関わる…

触媒化学を基盤に展開される広範な研究

前回の記事でご紹介したとおり、触媒化学研究部門(触媒部門)では、触媒化学を基盤に…

「産総研・触媒化学研究部門」ってどんな研究所?

触媒化学融合研究センターの後継として、2025年に産総研内に設立された触媒化学研究部門は、「触媒化学…

Cell Press “Chem” 編集者 × 研究者トークセッション ~日本発のハイクオリティな化学研究を世界に~

ケムステでも以前取り上げた、Cell PressのChem。今回はChemの編集…

光励起で芳香族性を獲得する分子の構造ダイナミクスを解明!

第 654 回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 協奏分子システム研究セ…

藤多哲朗 Tetsuro Fujita

藤多 哲朗(ふじた てつろう、1931年1月4日 - 2017年1月1日)は日本の薬学者・天然物化学…

MI conference 2025開催のお知らせ

開催概要昨年エントリー1,400名超!MIに特化したカンファレンスを今年も開催近年、研究開発…

【ユシロ】新卒採用情報(2026卒)

ユシロは、創業以来80年間、“油”で「ものづくり」と「人々の暮らし」を支え続けている化学メーカーです…

Host-Guest相互作用を利用した世界初の自己修復材料”WIZARDシリーズ”

昨今、脱炭素社会への実現に向け、石油原料を主に使用している樹脂に対し、メンテナンス性の軽減や材料の長…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー