[スポンサーリンク]

日本人化学者インタビュー

第142回―「『理想の有機合成』を目指した反応開発と合成研究」山口潤一郎 教授

[スポンサーリンク]

第142回の化学者インタビューは日本から、皆さんご存じ、山口潤一郎教授の登場です。名古屋大学理学部化学科に所属(訳注:現在は早稲田大学理工学術院に所属)し、C-H官能基化を用いた生物活性分子・天然物の合成に取り組むとともに、「理想の有機合成」につながる新しい化学反応の発見と開発を目指しています。日本国内で有名な化学サイトChem-Stationを共同運営してもいます。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

大学に入学した当初、化学には全く興味がありませんでした。しかし、幸運なことに、当時の私の考えを一変させてくれた林雄二郎先生と出会い、最終的に博士課程の指導教員となりました。化学、特に有機化学に並々ならぬほどの情熱を持っていて、純粋な好奇心から楽しんでいたようです。とんでもなく面白いと彼が思っていることは一体何なのか、知りたく思って化学を始めたのですが、その時にはもう彼の情熱は伝わっていました!

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

どこかの企業や医療関係会社の営業マンになるだろうと思います。対人コミュニケーションの強力さに惹かれていますし、商品販売は人と人との信頼関係や関係性の上に成り立っていると思うので。そういう意味では、ウェブの仕事にも興味があります。独立的なオンライン会社を立ち上げたいと思っていましたが、成功していたかはわかりませんね。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

伊丹健一郎教授のもとで合成化学分野の助教として働いています。これまでに天然物の全合成に携わり、大学院やポスドクの研究では幸いにも沢山の生物活性天然物の合成に携わることができました。しかし、天然物合成には複雑な戦略が数多く必要であり、それがどれぐらい面倒で複雑なものであるかは、分野にいる仲間うちの研究者でなければ理解できません。私は「理想的な化学合成」を実現すべく、難解な合成的課題を解決できる新しい合成法、合成戦略、合成コンセプトの開発に重点を置いて研究を行っています。レゴブロックを使って建物を作るように分子を作ってみたいと思っています。

Q.あなたがもし 歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

20世紀最高の合成化学者として広く認知されているロバート・ウッドワード教授と夕食を共にしたいと思います。限られた精製技術や分光分析しかなかった時代に、こういう驚異的全合成を成し遂げており、まさに桁違いだと思います。彼からは化学合成と有機化学の未来についてお話を伺えればと思います。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

今でも研究室では日常的に実験を行い、ドラフトで学生と時間を共にしようとしています。そのため、最後にやった実験は何かという具体的イメージすらできず、実際に考えたくもありません!時が経つにつれ、ドラフトに向かうことは少しずつ減っていくと思いますが、できるだけ自分の手を動かして化学をやっていきたいと思っています。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

ズルをしてノートパソコン、せめてiPhoneくらいは持ってきてもいいでしょうか?もし世界と縁を切らねばならいなら、単純に、様々な文学作品、音楽、そして科学論文も、時の終わりがくるまで少しずつ楽しみたいと思っています。

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

その化学者が実は二人います。

一人目はスクリプス研究所のフィル・バラン教授で、ポスドク時代のアドバイザーであり、親友でもあります。私よりも1歳しか年上ではありませんが、天然物の合成能力で化学界を驚かせ続けています。

二人目の化学者は、日々一緒に過ごしている伊丹健一郎教授です。彼との出会いがなければ、また彼の素晴らしい人柄と知的才能がなければ、日本に戻ることはしなかったでしょう。

 

原文:Reactions – Junichiro Yamaguchi

※このインタビューは2010年4月9日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第79回―「高分子材料と流体の理論モデリング」Anna Bala…
  2. 第21回「有機化学で生命現象を理解し、生体反応を制御する」深瀬 …
  3. 第151回―「生体における金属の新たな活用法を模索する」Matt…
  4. 第145回―「ランタニド・アクチニド化合物の合成と分光学研究」C…
  5. 第170回―「化学のジョブマーケットをブログで綴る」Chemjo…
  6. 第74回―「生体模倣型化学の追究」Ronald Breslow教…
  7. 第94回―「化学ジャーナルの編集長として」Hilary Cric…
  8. 第60回「挑戦と興奮のワイワイ・ワクワク研究センターで社会の未来…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ビオチン標識 biotin label
  2. 第96回―「発光機能を示す超分子・ナノマテリアル」Luisa De Cola教授
  3. AlphaFold3の登場!!再びブレイクスルーとなりうるのか~実際にβ版を使用してみた~
  4. 歪み促進逆電子要請型Diels-Alder反応 SPIEDAC reaction
  5. 不斉配位子
  6. エッシェンモーザーカップリング Eschenmoser Coupling
  7. 【大阪開催2月26日】 「化学系学生のための企業研究セミナー」
  8. 化学メーカー研究開発者必見!!新規事業立ち上げの成功確度を上げる方法
  9. ニルスの不思議な受賞 Nils Gustaf Dalénについて
  10. ミドリムシが燃料を作る!? 石油由来の軽油を100%代替可能な次世代バイオディーゼル燃料が完成

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年4月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

注目情報

最新記事

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

2024年の化学企業グローバル・トップ50

グローバル・トップ50をケムステニュースで取り上げるのは定番になっておりましたが、今年は忙しくて発表…

早稲田大学各務記念材料技術研究所「材研オープンセミナー」

早稲田大学各務記念材料技術研究所(以下材研)では、12月13日(金)に材研オープンセミナーを実施しま…

カーボンナノベルトを結晶溶媒で一直線に整列! – 超分子2層カーボンナノチューブの新しいボトムアップ合成へ –

第633回のスポットライトリサーチは、名古屋大学理学研究科有機化学グループで行われた成果で、井本 大…

第67回「1分子レベルの酵素活性を網羅的に解析し,疾患と関わる異常を見つける」小松徹 准教授

第67回目の研究者インタビューです! 今回は第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化す…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP