[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第148回―「フッ素に関わる遷移金属錯体の研究」Graham Saunders准教授

[スポンサーリンク]

第148回の海外化学者インタビューは、グラハム・サウンダース准教授です。ニュージーランドのハミルトンにあるワイカト大学化学科に所属し、主にフッ素系配位子(最近ではN-ヘテロ環状カルベン)を有する遷移金属錯体の化学研究と、遷移金属錯体を用いたC-F結合の切断に関する研究を行っています。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

学校の化学実験室での最初の数日があったからです。実験室の匂いは刺激的で、装置はとても神秘的に見えました。最初はバラの花びらとインクのペーパークロマトグラフィーからスタートしましたが、すぐに爆発や匂いを体験することができました。そして、不思議な名前を持つ有名な化学者たちを紹介してもらいました。化学の先生であるディルウィン・デイヴィスは、彼らが全員ウェールズ人であると信じていましたが、実際はそうではありませんでした。数年後、アメデオ・アボガドロMerthyr Tydfil生まれではないことを知り、とてもがっかりしました。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

もし、弱い身体能力不足が問題にならなければ、地元のサセックス州でプロのクリケット選手としてプレーしていたでしょう。 私が”草クリケット”を愛する理由のひとつに、チームスポーツでありながら、個人の役割がはっきりしていることがあります。ひとつのスキルしか持っていなくても、誰もが役割を果たすことができるのです。また、考えることが重要なスポーツでもあるので、学業面にもよい効果があります。私は地元のチームで定期的にプレーしていますが、下手です。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

現在の主な研究テーマは、無機化学からの脱却です。数年前、私は同僚とともに、銅と亜鉛を非常に撥水性の高いものにするシンプルな方法を開発しました。これは無知から生まれたプロジェクトで、もしその分野をよく知っていたり、文献をよく読んでいたなら、この方法を試すことはなかったでしょう。幸運なことに、私たちの方法で、最高クラスの超撥水性表面ができました。地理的に離れていますが今も共同研究は継続しており、この方法をさらに調べ、発展させています。多くの化学者は自分の研究が学術的に価値あるものと疑いませんが、産業や家庭で直接利用できるものではないように思います。私たちの研究を学生実験向けに発展させた高校生がカリフォルニアにいたと分かったときは喜びましたが、もっと広く使われるようになればとても満足です。それがきっかけで今は工学の道に進んでいます。

Q.あなたがもし 歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

化学者は探検家であり、新しい化合物、新しい反応、新しい特性を探し、発見します。今回は、一般的に言うところの探検家と食事をしてみたいです。ジョン・フランクリン卿は、19世紀前半にカナダの北極圏を探検しました。彼の最後の航海は、もう少しで北西航路の発見に至りましたが、失敗に終わりました。しかし彼は、アムンセンをはじめとする多くの極地探検家にインスピレーションを与えました。きっと彼は、良い小話や有益なアドバイスをいくつか教えてくれるでしょう。彼の名を冠したカモメの一種や、彼を歌った民謡もあります。この栄誉を彼がどう思っているか、知れれば面白いですね。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

今日です。研究室に行って何もいじらない日はめったにありません。残念ながら通常は結晶成長だけをしていますが、それでも新しい化合物を作ったり、出発物質を準備したりするのは楽しいですね。NMRスペクトルの測定は非常に癒しになるので、できるだけ頻繁に行うようにしています。今日行ったことは、イミダゾリウム塩の結晶成長だけです。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

私はあまり小説を読みません。小説を読み終えた後、もっと有意義な時間の使い方ができたのではないかと思うことがよくあるからです。しかし、『Moby-Dick』は、実際に起きた素晴らしい出来事を題材にしており、事実に基づいた内容でもあるので、特に気に入っている作品です。島にクジラが漂着したら、きっと役に立つでしょう。

[amazonjs asin=”B08PTHTP5D” locale=”JP” title=”MOBY-DICK (English Edition)”]

音楽のアルバムは、インディーズロックグループのブリティッシュ・シー・パワーによる『The Decline of British Sea Power』にします。情熱と混沌、美と騒乱、好戦性と静寂がエネルギッシュに混ざり合い、さまざまな強い感情を私に呼び起こしてくれる作品です。

[amazonjs asin=”B07TBFGZD3″ locale=”JP” title=”The Decline of British Sea Power”]

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

デヴィッド・レマル(ダートマス大学)です。彼は、高度にフッ素化された低分子有機化学の分野で活躍しています。彼の仕事はエレガントでインスピレーションに満ちています。フッ素は水素と大きく異なるため、合成上の難しさと理論上の珍しさを併せ持っています。彼は私が出会った中で最も賢く、そして最も親切な人です。彼を化学に導いた理由と、もし化学者でなかったらどんな仕事をしていたのかを知りたいですね。

 

原文:Reactions – Graham Saunders

※このインタビューは2011年3月25日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第83回―「新たな電池材料のモデリングと固体化学」Saiful …
  2. 第17回 音楽好き化学学生が選んだ道… Joshua…
  3. 第44回「100%の効率を目指せば、誤魔化しのないサイエンスが見…
  4. 第142回―「『理想の有機合成』を目指した反応開発と合成研究」山…
  5. 第47回―「ロタキサン・カテナン・クラウンエーテルの超分子化学」…
  6. 第61回「セラミックス粉体の合成から評価解析に至るまでのハイスル…
  7. 第129回―「環境汚染有機物質の運命を追跡する」Scott Ma…
  8. 第109回―「サステイナブルな高分子材料の創製」Andrew D…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 低分子ゲル化剤・増粘剤の活用と材料設計、応用技術
  2. コルベ電解反応 Kolbe Electrolysis
  3. アデノシン /adenosine
  4. 有機合成化学協会誌2017年8月号:C-H活性化・アリール化重合・オキシインドール・遠隔不斉誘導・ビアリールカップリング
  5. 「遷移金属を用いてタンパク質を選択的に修飾する」ライス大学・Ball研より
  6. 最も引用された論文
  7. “マイクロプラスチック”が海をただよう その2
  8. アルミに関する一騒動 ~約20年前の出来事~
  9. オピオイド受容体、オレキシン受容体を標的とした創薬研究ーChemical Times 特集より
  10. 研究室の安全性は生産性と相反しない

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年5月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー