[スポンサーリンク]

日本人化学者インタビュー

第146回―「原子から社会までの課題を化学で解決する」中村栄一 教授

[スポンサーリンク]

第146回の化学者インタビューは日本から、中村 栄一 教授です。東京大学大学院理学系研究科化学専攻・物理有機化学講座の教授で、有機合成、物理化学、ナノサイエンスの分野で活躍しています。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

鉱山技師であった父・Goro Nakamuraが、鉱物や無機物の結晶の美しいサンプルを見せてくれたおかげでもあります。化学だけでなく、山歩きの楽しさや野の花の美しさを教えてくれた高校時代の恩師、Hisao Fukuoka先生のおかげでもあります。また、美術や音楽の先生であるHiroya Shiroki先生やIchiro Tada先生からは、芸術活動の楽しさを教えていただきましたが、これは化学者としての人生に欠かせない余暇活動になりました。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

真鍮板からHO型蒸気機関車などを作ることに興味があったので、建築家か機械技師になっていたかもしれません。実際に、 “分子 “建築家になりました。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

原子レベルの課題(電子顕微鏡による分子の研究)や社会的課題の解決(ユビキタス元素の触媒利用、塗布型有機太陽電池の工業化、遺伝子導入)に向けた化学の新分野を開拓することを行っています。

Q.あなたがもし 歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

紀元前323年、バビロンのアレクサンドロス大王です。東方への旅の途中で、ヨーロッパとアジアの統一を構想し、紀元前326年にインダス川を渡ったそうです。この歴史的な出来事の影響は、数百年後の日本にも及んでいます。10代のうちにアリストテレスから何を学んだかを聞いてみたいです。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

最後に実験したのは1980年代の後半で、そのときは自分のグリニャール反応溶液が研究室の天井に達しました。とはいえ、1990年代半ばまでは自分の計算機内で実験を続けていました。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

他人の音楽を聞くよりは、楽譜と楽器を持ってきて、ずっと演奏を楽しんでいるかでしょうね。

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

向山光昭先生とギルバート・ストーク先生です。彼らは、現代有機合成化学の黎明期を語ることができる最後の巨人です。彼らは私のメンターです。

 

原文:Reactions – Eiichi Nakamura

※このインタビューは2010年10月1日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 【第二回】シード/リード化合物の合成
  2. 第14回「らせん」分子の建築家ー八島栄次教授
  3. 第143回―「単分子エレクトロニクスと化学センサーの研究」Non…
  4. 第27回 生命活動の鍵、細胞間の相互作用を解明する –…
  5. 第22回「ベンゼン環の表と裏を利用した有機合成」植村元一教授
  6. 第87回―「NMRで有機化合物の振る舞いを研究する」Daniel…
  7. 第24回「アルキル-πエンジニアリングによる分子材料創成」中西尚…
  8. 第101回―「高分子ナノ構造の精密合成」Rachel O’Rei…

注目情報

ピックアップ記事

  1. リチウムを用いたメカノケミカル脱水素環化法によるナノグラフェン合成
  2. 高井・ロンバード反応 Takai-Lombardo Reaction
  3. 個性あるTOC その②
  4. 富山化学 新規メカニズムの抗インフルエンザ薬を承認申請
  5. 第八回ケムステVシンポジウム「有機無機ハイブリッド」を開催します!
  6. (–)-Vinigrol短工程不斉合成
  7. 化学者のためのWordマクロ -Supporting Informationの作成作業効率化-
  8. 武田薬の糖尿病治療薬、心臓発作を予防する効果も
  9. 実験ワイプとタオルをいろいろ試してみた
  10. 元素占いはいかが?

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年4月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

注目情報

最新記事

ジアリールエテン縮環二量体の二閉環体の合成に成功

第 654回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院松田研究室の 佐竹 来実さ…

【産総研・触媒化学研究部門】新卒・既卒採用情報

触媒部門では、「個の力」でもある触媒化学を基盤としつつも、異分野に積極的に関わる…

触媒化学を基盤に展開される広範な研究

前回の記事でご紹介したとおり、触媒化学研究部門(触媒部門)では、触媒化学を基盤に…

「産総研・触媒化学研究部門」ってどんな研究所?

触媒化学融合研究センターの後継として、2025年に産総研内に設立された触媒化学研究部門は、「触媒化学…

Cell Press “Chem” 編集者 × 研究者トークセッション ~日本発のハイクオリティな化学研究を世界に~

ケムステでも以前取り上げた、Cell PressのChem。今回はChemの編集…

光励起で芳香族性を獲得する分子の構造ダイナミクスを解明!

第 654 回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 協奏分子システム研究セ…

藤多哲朗 Tetsuro Fujita

藤多 哲朗(ふじた てつろう、1931年1月4日 - 2017年1月1日)は日本の薬学者・天然物化学…

MI conference 2025開催のお知らせ

開催概要昨年エントリー1,400名超!MIに特化したカンファレンスを今年も開催近年、研究開発…

【ユシロ】新卒採用情報(2026卒)

ユシロは、創業以来80年間、“油”で「ものづくり」と「人々の暮らし」を支え続けている化学メーカーです…

Host-Guest相互作用を利用した世界初の自己修復材料”WIZARDシリーズ”

昨今、脱炭素社会への実現に向け、石油原料を主に使用している樹脂に対し、メンテナンス性の軽減や材料の長…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー