[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第140回―「製薬企業のプロセス化学研究を追究する」Ed Grabowski博士

[スポンサーリンク]

第140回の海外化学者インタビューはエド・グラボウスキー博士です。メルク研究所プロセス研究部門で化学担当副社長を務め、39年間、同社が関心を寄せる化合物の実用的なプロセスの設計・開発に従事しました。現在は化学開発のコンサルタントであり、化学関連の諮問委員会の委員を多数務めています。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

人間の興味の対象は、成り立ちを構成する強力な遺伝的要素によって決まっているものだといつも信じてきましたが、私の場合は化学へと興味が向きました。1940年代のニューヨークで子供時代を過ごしましたが、今日の基準では大変興味深い化学セットを販売していたA.・C・ギルバート・カンパニーを知る機会に幸運にも恵まれました。セットを手に入れ、自爆して家を焼き払おうとする営みに青春時代の大半を使いましたが、幸いにしてどちらも成功しませんでした。大学で受けた最初の有機化学の授業をきっかけに、有機化学者になることを決意しました。博士号を取得した後、メルク研究所のプロセス研究部門へと参画する機会をいただきました。キャリアを通じて製品や製品候補の合成設計をおこない、使っている化学の理解に努めました。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

21世紀に入ってからは、遺伝学や生物学を勉強しています。それはもちろん、とても大きな分子を扱うだけの化学です。今こそこの職に就くべきでしょう。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

2004年にメルクを退職してからは、コンサルティングを行っており、多くの化学諮問委員会の委員を務めてきました。私の知識と経験の両方をコンサルティングの仕事に活かし、企業が化学品や化学開発に関する問題を回避できるようなお手伝いをしたいと考えています。最近では、化学開発は部品のように購入可能な商品だとする考え方が流行っています。複雑な化学品開発を成功させるには、創造性、多くの努力、受容的マインド、そして運が必要であることを忘れてしまっているようです。諮問委員会については最近、米国化学会の石油研究基金(PRF)の諮問委員会で14年間の任期を終えました。長い間、PRFに関わってきたことに大きな誇りと喜びを感じています。社会として、創造的で聡明な科学者や技術者が、彼らが重要だと考える研究分野を追求することを支援しなければなりません。私は現在、NSFの化学触媒における多分野プログラム・CENTCの諮問委員会の委員を務めています。今年のサマープログラムに参加し、学生と直接仕事をして、製薬業界における触媒作用の機会についての洞察を与えられることを楽しみにしています。これに従事していないときは、真面目な切手収集家であり、フランス植民地のものを専門としています。ここ数年で切手収集に関する論文を十数本発表しています。

Q.あなたがもし 歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

簡単です。チャールズ・ダーウィンです。彼の才気に、そしてツールが非常に原始的だった時代に科学の新しい分野を拓いたやり方に、ただただ畏敬の念を抱いています。彼が確立した進化の基礎は、今日でも検証され、拡張されています。進化は「地球上で最も偉大なショー」であるというドーキンス教授の見解に全面的に同意します。もしダーウィンが来られなくても、ドーキンス教授と一緒に食事できるならいいと思います。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

数年前までOrganic Synthesis (OS)の編集委員会にいました。OSは専門家や先駆者から重要な化学的手順を受け取り、編集者はそれらのチェックと検証を担当し、化学合成を行うための確立された作業手順のバイブルとして出版されています。私は、新しい有機金属手順のチェックを担当し、その時に4-ブロモフェニル塩化ジアゾニウムとモルホリンから生成される相当量のトリアジンが必要となりました。私のグループにいる若手修士号化学者が実際の化学合成を行いましたが、発がん性が懸念されたため、大量のトリアジンを準備させたくはありませんでした。そこで私は、3回実験をやって約75g用意しました。私のチェックは1900年のAnnalen誌、彼女のチェックは2005年のJACS誌の方法ですので、当然ながら技術と細部への注意をより多く必要としました。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

ああ、簡単な選択がもう2つありましたね。アルバムはベートーヴェンの『弦楽四重奏曲第14番』にします。これまで書かれた中で最も偉大な音楽ですが、自分が持っている7種類の演奏を全て持って行きたいと思います。

[amazonjs asin=”B07G1WXTNP” locale=”JP” title=”ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番(弦楽合奏版)&序曲集”]

本はダーウィンの『種の起源』にします。

[amazonjs asin=”B00H6XBDEQ” locale=”JP” title=”種の起源(上) (光文社古典新訳文庫)”]

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

ブラックモンド教授はブログ上で私とポール・ライダーの両方に言及していますね。こういった分野でも、ポールの見解を得る以上に適切なことはないと思います。ポールと私は20年以上一緒に仕事をしてきましたが、ローレル&ハーディアボット&コステロマーティン&ルイスのような素晴らしいチームでした。同じような誰が誰だかは、他の人が判断しなければならないでしょう。ポールは化学と産業についてユニークな視点を持っているので、彼の見解を誰しも読みたがるでしょう。彼は現在、プリンストン大学化学科に在籍しています。

 

原文:Reactions – Ed Grabowski

※このインタビューは2010年1月8日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第13回 化学を楽しみ、創薬に挑み続ける ―Derek Lowe…
  2. 第九回 タンパク質に新たな付加価値を-Tom Muir教授
  3. 第23回「化学結合の自在切断 ・自在構築を夢見て」侯 召民 教授…
  4. 第97回―「イメージング・センシングに応用可能な炭素材料の開発」…
  5. 第103回―「機能性分子をつくる有機金属合成化学」Nichola…
  6. 第110回―「動的配座を制御する化学」Jonathan Clay…
  7. 第143回―「単分子エレクトロニクスと化学センサーの研究」Non…
  8. 第10回 太陽光エネルギーの効率的変換に挑むー若宮淳志准教授

注目情報

ピックアップ記事

  1. 2013年就活体験記(2)
  2. 有機配位子による[3]カテナンの運動性の多状態制御
  3. ベンジルオキシカルボニル保護基 Cbz(Z) Protecting Group
  4. 春の褒章2010-林民生教授紫綬褒章
  5. 林・ヨルゲンセン触媒 Hayashi-Jørgensen Catalyst
  6. 改正特許法が国会で成立
  7. 大学院から始めるストレスマネジメント【アメリカで Ph.D. を取る –オリエンテーションの巻 その 1–】
  8. 元素川柳コンテスト募集中!
  9. アレノフィルを用いるアレーンオキシドとオキセピンの合成
  10. 自己治癒するセラミックス・金属ーその特性と応用|オンライン|

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年3月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

2024年の化学企業グローバル・トップ50

グローバル・トップ50をケムステニュースで取り上げるのは定番になっておりましたが、今年は忙しくて発表…

早稲田大学各務記念材料技術研究所「材研オープンセミナー」

早稲田大学各務記念材料技術研究所(以下材研)では、12月13日(金)に材研オープンセミナーを実施しま…

カーボンナノベルトを結晶溶媒で一直線に整列! – 超分子2層カーボンナノチューブの新しいボトムアップ合成へ –

第633回のスポットライトリサーチは、名古屋大学理学研究科有機化学グループで行われた成果で、井本 大…

第67回「1分子レベルの酵素活性を網羅的に解析し,疾患と関わる異常を見つける」小松徹 准教授

第67回目の研究者インタビューです! 今回は第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化す…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP