第137回の海外化学者インタビューはスチュアート・ウォーレン教授です。ケンブリッジ大学化学科に所属し、新しい合成法、特にリンや硫黄を含む合成法と、転位や不斉合成に取り組んでいます。残念ながら昨年3月に亡くなりました。
それではインタビューをどうぞ。
Q. あなたが化学者になった理由は?
チェルシーのチードル・ハルム学校に通い、デビッド・グッディソンから化学を教えてもらえたのは幸運でした。早くから科学が大好きでしたが、デビッドの思慮深いアプローチと、「どのように」ではなく「なぜ」を重視する姿勢から、科学のうち他の何よりも化学を好むようになるまでに、そう時間はかかりませんでした。彼が有機化学を紹介してくれた日のことは、今でも鮮明に思い出すことができます。彼はカルボン酸を例に挙げていたのですが、私はこれに腹を立て、「あんなものは酸ではない」と彼に抗議しました。彼は微笑んで、続きが何なのかを待つように提案しました。ものごとに対しかなり激しく反抗していても、一転してそれを好きになることがあります。それに深く関わるからこそです。私が有機化学を好きになった理由はそういうものです。しかし、確固たる知的基盤を有した有機化学を教えてくれたのはケンブリッジ大学の学部時代に出会ったデニス・マリアン、ピーター・サイクス、マルコム・クラークであり、それゆえ一生、有機化学をやりたいと思うようになりました。
Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?
プロのクリケット選手になろうとしたかもしれませんが、自分には無理でした。ハーバード大学で フランク・ウェストハイマーに 師事して生化学をやろうとしましたが、 有機化学のほうが好きだったので辞めました。他の科学には手を出しませんでした。あとは俳優か小説家か聖職者でしょうか。
Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?
私はもう研究グループを持っていませんが、執筆活動は続けています。今は、Jonathan Claydenと一緒に、Oxford University Pressの教科書『Organic Chemistry』の第2版に取り組んでいます。Paul Wyattと、Wiileyの有機合成シリーズ本の4冊を完成させ、最終巻が今年(訳注:2009年)発刊されます。Paulとはまた、産業界で「Advanced Heterocyclic Chemistry」などのコースを担当しており、次はこの題名で本を作ろうかと思っています。私にとってはおそらく最後のプロジェクトになるでしょう。反応のリストを示すというよりは反応を説明している、メカニズムに立脚したとっつきやすい複素環化学の本は大いに必要とされているように思います。
[amazonjs asin=”4807908715″ locale=”JP” title=”ウォーレン有機化学〈上〉”][amazonjs asin=”0471929638″ locale=”JP” title=”Organic Synthesis: Strategy and Control”][amazonjs asin=”0470712368″ locale=”JP” title=”Organic Synthesis: The Disconnection Approach”]Q.あなたがもし 歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?
ウェリントン公爵は切れ味鋭い言葉を使う達人で、支配するだけでは我慢できず、現場の結果こそが真に重要だと考えていました。半島戦争でのイギリス、スペイン、ポルトガルの支配をどうやって切り抜けたのか、 カトリックの奴隷解放法案に 執着した理由は何だったのか、 知りたいものです。もちろん、彼は招待を断るでしょうから、そうなったらクリケット選手としての長きにわたるキャリアを語ってくれるペラム・ワーナーが良いかもしれませんね。もしくはチャールズ・リースを蘇らせて、彼の死によって突然に中断されてしまった会話をたくさん続けたいです。
Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?
1973年、ロビン・シェパードは、Ph2PO転移における立体特異性を解明する一連の実験を終えました。彼は出発物のX線像を持っていましたが、生成物を結晶化することができませんでした。そこで私がそれを行い、ルイジ・ナシンベニからX線像を入手し、その結果をNature誌に発表しました(Nature 248, 670–671 (1974))。
Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。
『大いなる遺産』、『高慢と偏見』、HardyまたはWordsworthの全詩集、 『新約聖書』の中から選ぶでしょうが、とても難しいですね。
[amazonjs asin=”B01JGCEPBC” locale=”JP” title=”大いなる遺産 上 (河出文庫)”][amazonjs asin=”B079BF6KGF” locale=”JP” title=”高慢と偏見 (中公文庫)”][amazonjs asin=”B013JKUFDO” locale=”JP” title=”聖書 新共同訳 新約聖書”]音楽は簡単です。Ian BostrichやFinziによって歌われるシューベルトやヴォーン・ウィリアムズの曲にします。Ian Partridgeが歌う『Ode on the Intimations of Immortality』も良いです。素晴らしい人間の声楽を一番求めるのではないかと思います。
[amazonjs asin=”B003NEXQ10″ locale=”JP” title=”Ode On Intimations Of Immortality”]Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。
ガイ・ロイド・ジョーンズ(ブリストル大学)です。というのも彼の仕事は、最高の反応機構解析と、最新の有機金属化学と不斉触媒を組み合わせているように思えるからです。今日の有機化学界において最も鋭い思想家の一人です。
※このインタビューは2009年11月27日に公開されました。