[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第136回―「有機化学における反応性中間体の研究」Maitland Jones教授

[スポンサーリンク]

第136回の海外化学者インタビューはマイトランド・ジョーンズ Jr.教授です。プリンストン大学を退職し、現在ニューヨーク大学化学科で教鞭をとっています。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

12歳か13歳の時、ウィリアム・デーリングと出会いました。その夏は、12歳専用テニスサーキットでプレーさせてほしいと両親にしつこく頼んでいました(そう、れきとした12歳でした)。両親は「仕事の時間だ、小僧」と答えました。パーティーでデーリングと出会った両親は、強引に、買収のような形で、今で言うヒックリルという民間基礎研究所でのインターンシップを息子にさせたのです。ヒックリルでは、その後10年ほど一緒に働くことになるデーリングと出会っただけでなく、皿洗いや筆記役として直接関わったラリー・ノックスをはじめとする素晴らしい有機化学者たちと出会いました。私はもちろん何も知りませんでしたが、職場の雰囲気はしびれるものであり、仕事ぶりも熱心で、情熱が伝わってきました。科学に少しでも興味を持つ人なら、何も変わらずに去れるはずがないと思います。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

生涯を通じてジャズが大好きで、過去50~60年間の膨大な時間を薄暗いクラブで過ごしてきました。音楽には詳しいですし、ニュージャージー州プリンストンでジャズ・シリーズを催してもいます。ミュージシャンにはなれないでしょうが、クラブは経営できますし、批評家にもなれるかもしれません。今でも、その手のことをしているのかもしれませんね。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

ええと、プリンストンからNYUに移った時に研究室を閉鎖したので、振り返り話としてしか答えられませんが。研究室では、反応性中間体、カルベン、ベンザインなどの化学を研究していました。また、ホウ素カゴ化合物の化学や、反応性中間体と三次元芳香族化合物との相互作用研究にも手を出していました。分子がどのように反応するのか、”電子同士がどのように語り合うのか “についての理解を深めることにつながればと願っています。

Q.あなたがもし 歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

セロニアス・モンクです。子供の頃からモンクのことは見聞きしていました。実際、モンクがジョン・コルトレーンと共演した時も何度かファイブ・スポットに足を運びました。当時はまだ音楽というものを十分に理解していなかったので、モンクと彼の音楽について話をしてみたいというか、彼の演奏をもう一度見てみたいと思っています。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

はるか昔のことで、おそらく1970年代、いや1960年代だったかもしれません。セメスター授業のため、ピーター・ガスパーがプリンストン大学を訪問していました。私たちはビル(フロリダ)・ジョーンズの結果に偶然遭遇し、それがフェニルカルベンの化学にとって重要な意味を持つと考えました。そうして私は実験を行い、熱せられた熱分解チューブを介してp-トリルジアゾメタンを蒸発させ、生成物であるスチレンとベンゾシクロブテンをピーターと期待し望んだとおり集めることができました。是非紙に書きだして見てください―凄い変換です。そうしたら、反応機構を考えて見て下さい。驚くべき化学です。ハロルド・シェクターの学生が同様の実験を行っていたことが分かったのですが、何らかの理由でハロルドはそれを当時公表しておらず、学位論文の抄録作りに頭を悩ませていました。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

無人島でのチャンスは逃せないので、これまで読んだ本にしようと思いますが、トマス・ピンチョンの『Gravity’s Rainbow』を選ぶでしょうか。たとえ全ての参考文献を理解していなくても、あるいはまったく意味を理解していなくても、文章の輝きだけで、一ページ一ページ、一文一文、読み進められる本です。そしてとても長い本です。もしもう一冊が許されるとしたら、デビッド・フォスター・ウォレスの『Infinite Jest』がいいでしょう。あるいは、ヴィクラム・セスの『A Suitable Boy』もいいかもしれません。あるいは….。

[amazonjs asin=”B005CRQ3MA” locale=”JP” title=”Gravity’s Rainbow (Classic, 20th-Century, Penguin) (English Edition)”][amazonjs asin=”B004TSKKE0″ locale=”JP” title=”Infinite Jest (English Edition)”][amazonjs asin=”B00FRKPC9C” locale=”JP” title=”A Suitable Boy: THE CLASSIC BESTSELLER AND MAJOR BBC DRAMA (English Edition)”]

音楽は簡単です。チャーリー・パーカーのDials and Savoys全集にします。

[amazonjs asin=”B003GHFVCG” locale=”JP” title=”The Complete Savoy & Dial Master Takes”]

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

偉大な物理有機化学者を選ぶにしても、デーリングロバーツくらいしか残っていません。残念ながら、今の人達のほとんどは彼らのことを知りません。彼らに再び語れるチャンスを与えてあげたいものです。

原文:Reactions – Maitland Jones

※このインタビューは2009年11月20日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第26回「分子集合体の極限に迫る」矢貝史樹准教授
  2. 第113回―「量子コンピューティング・人工知能・実験自動化で材料…
  3. 第130回―「無機薄膜成長法を指向した有機金属化学」Lisa M…
  4. 第160回―「触媒的ウィッティヒ反応の開発」Christophe…
  5. 第168回―「化学結晶学から化学結合を理解する」Guru Row…
  6. 【第一回】シード/リード化合物の創出に向けて 2/2
  7. 第16回 教科書が変わる心躍る研究を目指すー野崎京子教授
  8. 第19回「心に残る反応・分子を見つけたい」ー京都大学 依光英樹准…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 「無機化学」とはなにか?
  2. ダイセルが開発した新しいカラム: DCpak PTZ
  3. 第144回―「CO2を捕捉する多孔性金属-有機構造体の開発」Myunghyun Paik Suh教授
  4. マンダー試薬 Mander’s Reagent
  5. π電子系イオンペアの精密合成と集合体の機能開拓
  6. マイクロ波プロセスの工業化 〜環境/化学・ヘルスケア・電材領域での展開と効果〜(2)
  7. 不斉ディールス・アルダー反応 Asymmetric Diels-Alder Reaction
  8. 中村 浩之 Hiroyuki Nakamura
  9. 非古典的カルボカチオンを手懐ける
  10. 機能指向型合成 Function-Oriented Synthesis

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年1月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー