[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第129回―「環境汚染有機物質の運命を追跡する」Scott Mabury教授

[スポンサーリンク]

第129回の海外化学者インタビューはスコット・マブリー教授です。トロント大学化学科に在籍し、主にフッ素系化学物質の環境動態、分布、残留性について研究しています。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

農場で育ち中学校で科学を教えていた母と、ミズーリ州ポトシにある高校の素晴らしい化学教師(ビル・ネルソン)、そして大学で「環境化学」と呼ばれるコースを修了したことが、おそらくは「理由」の大部分だと思います。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

脳研究者か農作業員のどちらかでしょうが、現在、週1日は後者をしています。報酬のほとんどが精神的なものなので、農業の仕事を続けた方がいいかもしれません。人間の脳科学は魅力的で、非常にやりがいがあります。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

興味深いことはたくさんありますが、人類がなぜパーフルオロ酸に汚染されているのかの探求は特に興味をそそられます。具体的には、食品用紙の撥水性や撥油性を付与するために一般的に使用される様々なポリフッ化リン酸塩を合成し、その反応性を調べています。ヒト血清中にあるこれらの化合物濃度を ppb レベルで測定できるといういくつかの研究を、ちょうど発表しました。それらの代謝反応と、 PFOA および関連するパーフルオロ酸がどれぐらい身体的負荷に寄与しているかには、特に興味をもっています。反応性中間体に焦点を絞った調査と、生きた動物の代謝研究も含みます。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

ウィンストン・チャーチルです。私自身が大学の管理職を兼任して以来、リーダーシップの成功者として印象づけられています。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

実験のデザインは好きですが、助教授としてとりくみ始めた当初からそうではなかったかもしれません。そういえば、農業生態系において、食品接触紙の化学物質がどのような運命を辿るかについて、大規模なフィールド実験を行っています。John Deereのトラクターに乗って、20エーカーの私設農場に、600トンの製紙スラッジをディスク化し、大豆で埋めていきます。学部の研究生がいて、サンプルを採取し、最終的な分析に付き添ってくれています。私の実験的貢献はそれほど科学的なものではありませんが、実験としては必要なものです。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

研究を公表することと同様に、量より質が重要ですが、量もやはり重要です(特に無人島では)。ですから、『戦争と平和』を持っていきます。音楽は難しいのですが、トルストイの本にはレッド・ツェッペリンが似合うかもしれません。

[amazonjs asin=”B01N4OXRNZ” locale=”JP” title=”戦争と平和(一)(新潮文庫)”]

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

おっと、これは数が多すぎて、思っていたより難しいですね。マリオ・モリーナシャーウッド・ローランドは私にとっての科学的英雄なので、彼らのむき出しの個性を見てみたいと思います。

 

原文:Reactions – Scott Mabury

※このインタビューは2009年8月21日に公開されました。

 

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第25回「ペプチドを化学ツールとして細胞を操りたい」 二木史朗 …
  2. 第55回「タンパク質を有機化学で操る」中村 浩之 教授
  3. 第134回―「脳神経系の理解を進める分析化学」Jonathan …
  4. 第30回 弱い相互作用を活用した高分子材料創製―Marcus W…
  5. 第58回―「集積構造体を生み出すポリマー合成」Barney Gr…
  6. 第147回―「カリックスアレーンを用いる集合体の創製」Tony …
  7. 第54回―「ナノカーボンを機能化する合成化学」Maurizio …
  8. 第40回「分子エレクトロニクスの新たなプラットフォームを目指して…

注目情報

ピックアップ記事

  1. AZADOLR ~ 高活性なアルコール酸化触媒
  2. 基礎から学ぶ機器分析化学
  3. 白い粉の正体は…入れ歯洗浄剤
  4. 【書籍】すぐにできる! 双方向オンライン授業 【試験・評価編】
  5. 香りの化学1
  6. 光触媒ーパラジウム協働系によるアミンのC-Hアリル化反応
  7. 一流化学者たちの最初の一歩
  8. フロリゲンが花咲かせる新局面
  9. 「女性用バイアグラ」開発・認可・そして買収←イマココ
  10. 触媒的炭素–水素結合活性化による含七員環ナノカーボンの合成 〜容易な合成法、高い溶解性・凝集状態で強まる発光特性を確認〜

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年11月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

第18回 Student Grant Award 募集のご案内

公益社団法人 新化学技術推進協会 グリーン・サステイナブルケミストリーネットワーク会議(略称:JAC…

杉安和憲 SUGIYASU Kazunori

杉安和憲(SUGIYASU Kazunori, 1977年10月4日〜)は、超分…

化学コミュニケーション賞2024、候補者募集中!

化学コミュニケーション賞は、日本化学連合が2011年に設立した賞です。「化学・化学技術」に対する社会…

相良剛光 SAGARA Yoshimitsu

相良剛光(Yoshimitsu Sagara, 1981年-)は、光機能性超分子…

光化学と私たちの生活そして未来技術へ

はじめに光化学は、エネルギー的に安定な基底状態から不安定な光励起状態への光吸収か…

「可視光アンテナ配位子」でサマリウム還元剤を触媒化

第626回のスポットライトリサーチは、千葉大学国際高等研究基幹・大学院薬学研究院(根本研究室)・栗原…

平井健二 HIRAI Kenji

平井 健二(ひらい けんじ)は、日本の化学者である。専門は、材料化学、光科学。2017年より…

Cu(I) の構造制御による π 逆供与の調節【低圧室温水素貯蔵への一歩】

2024年 Long らは、金属有機構造体中の配位不飽和な三配位銅(I)イオンの幾何構造を系統的に調…

可視光活性な分子内Frustrated Lewis Pairを鍵中間体とする多機能ボリルチオフェノール触媒の開発

第 625 回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院 工学研究科 有機・高…

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール-アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール-アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP