[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第128回―「二核錯体を用いる触媒反応の開発」George Stanley教授

[スポンサーリンク]

第128回の海外化学者インタビューはジョージ・スタンレー教授です。ルイジアナ州立大学化学科に所属し、新しい均一系バイメタル触媒と触媒プロセスの開発に取り組んでいます。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

小学4年生(1962年)の時にディズニーの『Our Friend the Atom』を読んで科学に魅了され、その後、小さな町の図書館で他の科学本をたくさんの読みました。一年後には化学のセットを手に入れ、標準的な「クックブック」に載っている反応を使って遊び始め、閃光剤や煙粉の混合物を花火のために自ら準備するようになりました。学校では毎年、大人になったら何になりたいかと聞かれ、4年生から11年生までは核物理学者と答えていました。高校3年の時に微積分を取ったことで、物理学者になるほどの数学力が自分にはないことに気付き、ますます楽しくなってきた化学に”ハマった”のです。

[amazonjs asin=”9999239706″ locale=”JP” title=”The Walt Disney Story of Our Friend the Atom”]

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

第一志望は、小学校/中学校での科学教師です。自分にはその才能があり、熱心な教師でもあり、科学に対し幅広く愛情を持っています。アメリカの小学校や中学校では、教師が科学をあまり理解していないため、一般的な科学教育を受けていない生徒が多いのを目にします。残念なことに、ほとんどの学校では、科学の体験的活動はほとんど行われていませんし、日常生活との関連性もありません。

もし科学や教師の仕事から離れるとしたら、ビジネスキャリアに興味があります。ビジネスの話題にはいつも興味を持ち続けており、小さな町の薬局、亜鉛精錬所、製鉄所で働いてきました。経営判断の悪さがいかにして会社を衰退させ、最終的には廃業に追い込んだかを見てきました(現在の経済状況にあるずっと前から)。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

私たちの最新プロジェクトは、アルケンを水と反応させて直鎖状のアルコールや他の含酸素物質を生み出す、アルケン水和遷移金属触媒の開発です。不活性アルケンに対する変換は例がありません。モンサント酢酸プロセスの発見者であるジェームス・ロス博士は、アルケン水和触媒を工業用触媒における未解決十大課題の一つにあげています。私たちは、Sasol North Americaに「青天の霹靂」(つまり予備的な結果がない)研究提案を提出したところ、ビッグチャンスを取り上げこの探索的プロジェクトに資金を提供してくれました。まだまだ研究の初期段階ではありますが、マイルドな条件で水と単純な1-アルケンの反応を触媒することができました。しかし当然のことながら、アルケンのオリゴマー化が併発し、全く予想外の一次生成物が得られるという複雑な状況になってしまいました。

この結果はどこに向かうのでしょう?実用的で環境に優しい工業用触媒は素晴らしいものです。しかし、学術的に発見された触媒が工業用汎用化学品に移行することは非常に稀です。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

難しい質問ですね!ベン・フランクリンを選ぶと思います(深く考えずに)。私はペンシルバニア州東部で育ち、子供の頃、フィラデルフィアにあるフランクリン研究所という素晴らしい科学博物館を何度も訪れました。ベン・フランクリンは科学者であり、政治家であり、実業家であり、外交官であり、生活者でもあるという素晴らしい人物でした。科学者として、独立宣言のために行われた政治についての彼の洞察と、憲法とそれに関わる妥協点、特に今日のアメリカに関連する修正第二修正条項(「武器を持つ権利」)についての考えを知りたいと思っています。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

先週です!もう合成はしていませんが、in situでの触媒分光研究(FT-IR & NMR)や新しいオートクレーブを動かそうとするときにお手伝いをしています。ある大学院生の時にはブタジエンを濃縮してオートクレーブに移し、ヒドロホルミル化を行うのを手伝い、別の大学院生のときはエチレンのヒドロホルミル化実験のセットアップを行いました。反応研究とクリーニングのためにセル内の結晶をマウントしたり取り外したりを、普通は1個あたり660米ドルでやっています。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

本:ウィリアム・マンチェスター著『The Glory and the Dream: A Narrative History of America, 1932-1972』 、もしくはボーイスカウトマニュアルにします。ボーイスカウトマニュアルは、サバイバルが困難そうだった場合に。そうでもなければ、この特別な時間に、『The Glory and the Dream』でアメリカの厚みある魅力的な歴史を。

[amazonjs asin=”0316544965″ locale=”JP” title=”The Glory and the Dream: A Narrative History of America, 1932-1972″][amazonjs asin=”0814254896″ locale=”JP” title=”William S. Burroughs’ “The Revised Boy Scout Manual”: An Electronic Revolution (Bulletin)”]

音楽:うーん、電池が長持ちしないですよね(太陽光発電でしょうか?)。『ベスト・オブ・ザ・ムーディー・ブルース』は好きなグループの一つで、聴いていて飽きませんね。

[amazonjs asin=”B000002GNC” locale=”JP” title=”THE Very Best of THE Moody Blues”]

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

マーガレット・キャバノー(国立科学財団-国立科学委員会)にします。マージはずっと前に私のNSFプログラムのディレクターを務めていて、私のキャリアに非常に良い影響を与えてくれました。彼女は化学から離れてしまったので、ここ10年はあまり話をする機会がありませんでした。マージはアカデミック(化学教授)とハイレベルなNSFの活動の両方に携わってきました。彼女に化学について考えてもらうべく『Reactions』は役立つかも知れません。

原文:Reactions – George Stanley

※このインタビューは2009年8月14日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第104回―「生体分子を用いる有機エレクトロニクス」David …
  2. 第79回―「高分子材料と流体の理論モデリング」Anna Bala…
  3. 第131回―「Nature出版社のテクニカルエディターとして」L…
  4. 第15回 触媒の力で斬新な炭素骨格構築 中尾 佳亮講師
  5. 第88回―「新規なメソポーラス材料の創製と応用」Dongyuan…
  6. 第24回「アルキル-πエンジニアリングによる分子材料創成」中西尚…
  7. 第15回 有機合成化学者からNature誌編集者へ − Andr…
  8. 第40回「分子設計で実現する次世代バイオイメージング」山東信介教…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 化学物質でiPS細胞を作る
  2. エステルを使った新しいカップリング反応
  3. 研究者へのインタビュー
  4. 白金イオンを半導体ナノ結晶の内外に選択的に配置した触媒の合成
  5. 有機色素の自己集合を利用したナノ粒子の配列
  6. 第22回 化学の複雑な世界の源を求めてーLee Cronin教授
  7. スケールアップのためのインフォマティクス活用 -ラボスケールから工場への展開-
  8. 博士課程学生の奨学金情報
  9. 酸窒化物合成の最前線:低温合成法の開発
  10. 【速報】Mac OS X Lionにアップグレードしてみた

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年11月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

ペーパークラフトで MOFをつくる

第650回のスポットライトリサーチには、化学コミュニケーション賞2024を受賞された、岡山理科大学 …

月岡温泉で硫黄泉の pH の影響について考えてみた 【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい! というわけで、硫黄系温泉を巡る旅の後編です。前回の記事では群馬県草津温泉をご紹…

二酸化マンガンの極小ナノサイズ化で次世代電池や触媒の性能を底上げ!

第649回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院環境科学研究科(本間研究室)博士課程後期2年の飯…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー