第113回の海外化学者インタビューは、アラン・アスプル=グジック教授です。ハーバード大学 化学/生物化学科の助教授(訳注:現在はトロント大学化学科の教授)として、理論物理化学と量子情報科学の境界領域で研究を行っています。それではインタビューをどうぞ。
Q. あなたが化学者になった理由は?
メキシコの中学校の先生に感銘を受けたからです。彼は生化学者で、タンパク質や酵素の内部機構に情熱を注いでいました。その後、1994年にノルウェーのオスロで開催された国際化学オリンピックにメキシコ代表として出場する機会を得ました。
その当時私は、コンピュータサイエンスを学ぶか、化学を学ぶかという厳しい選択を迫られていました。しかし、コンピュータサイエンスへの思いは決して薄れることはありませんでした。博士課程では、量子モンテカルロ法を用いた大規模計算を行いました。ポスドク時代には、量子計算と化学の接点の研究を始めましたが、これは独立教員となった現在でも研究テーマの一つとなっています。
Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?
もし科学者でなかったら、他にもたくさん可能性が考えられます。映画製作者になったり、自主映画を作ったり、(非常に)進歩的な政治家になったりを夢みた日もありました。
Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?
現在、ハーバード大学の研究室でいくつかのプロジェクトを進めています。一見して多様なプロジェクトのように見えますが、すべては理論化学、量子情報、再生可能エネルギーの境界領域に位置しています。私たちは、光合成システムや有機太陽電池材料における電荷・励起輸送に興味を持っています。例えば、IBMと共同で「Clean Energy Project/World Community Grid」というプロジェクトを行っています。これは、世界中のコンピュータの余ったマシンタイムを使い、励起と電荷をできるだけ効率よく輸送する分子結晶を探索するたまめの分散コンピューティングプロジェクトです。私たちの理論研究が、いつの日か、より良い有機太陽電池や有機エレクトロニクスへの応用につながることを期待しています。
量子コンピューターの分野では、最近、アンドリュー・ホワイト(クイーンズランド大)のグループと共同で、プロトタイプの光量子コンピューターを用い、水素分の量子化学計算を初めて行いました。
また、量子情報と化学が融合する他の分野でも研究を行っています。例えば、プラズモニックナノ粒子に結合した分子をはじめとする複雑系の電子構造は、開放量子系の密度汎関数理論に関する我々の研究が恩恵をもたらすものです。
Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?
アイザック・ニュートンに会ってみたかったです。かなりの傑物で、彼の時代にあって革命的な科学者でした。彼に関する偉大な歴史的伝記、リチャード・ウェストフォール著『Never at rest』を読むことをお薦めします。
[amazonjs asin=”4582537103″ locale=”JP” title=”アイザック・ニュートン〈1〉”][amazonjs asin=”4582537111″ locale=”JP” title=”アイザック・ニュートン〈2〉”]Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?
私は理論屋なので、かなり前だと思ったんじゃないでしょうか! しかし、それは間違ってますよ。2ヶ月前、無機化学の同僚の一人であるTed Betleyと私で、子供向けの化学実験を行いました。理論屋である私が実験指導を受けていなかったわけではないことを、Tedは理解してくれました。
Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。
ヤン・ポトツキの『サラゴサ写本』やセルバンテスの『ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ』のような、複雑で何度も読み返さないとだめな本を持っていきます。
[amazonjs asin=”0140445803″ locale=”JP” title=”The Manuscript Found in Saragossa (Penguin Classics)”][amazonjs asin=”4001145065″ locale=”JP” title=”ドン・キホーテ (岩波少年文庫 (506))”]音楽については一秒たりとも考えること無く、マヌ・チャオの『クランデスティーノ』を選びます。『クランデスティーノ』は世間から隠れて過ごす過酷な生活を余儀なくされた移民たちを主題とした、数曲を1時間につなぎ合わせたアルバムです。曲はさまざまな言語で作られています。まだマヌ・チャオを聴いたことがない人は、YouTubeで彼の動画を見てみると、その趣が理解できるかもしれません。
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Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。
東京大学の相田卓三教授の話を読んでみたいと思います。ドイツのBayreuthで開催されたlight harvestingの学会で話を聞いたばかりで、すっかりファンになってしまいました。
原文:Reactions – Alán Aspuru-Guzik
※このインタビューは2009年4月24日に公開されました。