[スポンサーリンク]

日本人化学者インタビュー

第63回―「生物のコミュニケーションを司る天然物化学」矢島 新 教授

[スポンサーリンク]

第63回の海外化学者インタビューは日本から、矢島 新 教授です。東京農業大学応用生物科学部醸造科学科(訳注:現在は生命科学部分子生命化学科に所属)に所属し、化学と生物学の接点、特に微生物フェロモンやイネのファィトアレキシンに着目し、天然物や生合成中間体の合成に取り組んでいます。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

中学生の頃、周期表に魅せられました。その美しさゆえに、興味を失ったことはありません。あらゆる原子の性質を理解する必要がありました。今、私のオフィスには科学技術広報財団が制作した「一家に一枚周期表」の大きな日本語ポスターが貼ってあり、いつでも見ることができます。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

画家か農家です。祖父の一人は画家でした。彼は日本の伝統的な布に植物や動物の美しい絵を描いていました。もう一人の祖父は米作農家でした。彼はコシヒカリを栽培していました。コシヒカリは日本で非常に人気があり、最も高価な品種です。家族は、どっちの道であっても私が最有力後継者だと考えていたようです。

Q. 概して化学者はどのように世界に貢献する事ができますか?

教育によってです。人々は化学を遠ざける傾向があります。天然資源を原料とした製品は、人々から高く評価されています。言い換えれば「化学的に合成された化合物」を恐れる傾向があります。例えば、バニラビーンズから抽出されたバニリンと化学合成されたバニリンは、実質的には同じ化合物なのですが、合成バニリンより300倍も高価なバニリンを誰もが選んでいます。とんでもないことです!化学者の目標は、自らの化学の知識を生かし、科学・化学リテラシーの高い人を育てることだと思います。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

ノーベル賞受賞者のアドルフ・ブーテナント教授は、初の昆虫フェロモンであるボンビコールを発見した人物でもあります。昆虫や微生物のフェロモンやホルモンなどの、バイオレギュレーターに私は興味があります。ボンビコールの単離に関する彼の歴史的偉業について、プライベートでの講演を聞きたいです。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

昨日です。今でも研究室で働いています。師匠でもある森謙治 教授(インタビュー当時73歳)は、まだ研究室で活躍しています!だから引退などできません。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

映画、特にSF映画が好きです。ですから、スターウォーズのサウンドトラックを持っていき、昼間は音楽をバックに島を探検します。そして夜はドストエフスキーの『罪と罰』を読み続けます。

[amazonjs asin=”B00H6XBEK4″ locale=”JP” title=”罪と罰 1 (光文社古典新訳文庫)”]

原文:Reactions – Arata Yajima

※このインタビューは2008年5月9日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第75回―「分子素子を網状につなげる化学」Omar Yaghi教…
  2. 第43回―「均質ナノ粒子の合成と生命医学・触媒への応用」Taeg…
  3. 第60回―「エネルギー・環境化学に貢献する金属-有機構造体」Ma…
  4. 第135回―「量子電気力学から光と分子の相互作用を理解する」Da…
  5. 第175回―「酸素を活用できる新規酸化触媒系の開発」Mark M…
  6. 第111回―「予防・診断に有効なナノバイオセンサーと太陽電池の開…
  7. 第79回―「高分子材料と流体の理論モデリング」Anna Bala…
  8. 第27回 「有機化学と光化学で人工光合成に挑戦」今堀 博 教授

注目情報

ピックアップ記事

  1. KISTECおもちゃレスキュー こども救急隊・こども鑑識隊
  2. スケールアップのポイント・考え方とトラブル回避【終了】
  3. 林 雄二郎博士に聞く ポットエコノミーの化学
  4. 金属カルベノイドを用いるシクロプロパン化 Cyclopropanation with Metal Carbenoid
  5. ケムステの記事を導出しています
  6. Gabriel試薬類縁体
  7. 窒素 Nitrogen -アミノ酸、タンパク質、DNAの主要元素
  8. NMR管
  9. マテリアルズ・インフォマティクスにおける分子生成の基礎
  10. 蒸発面の傾きで固体膜のできかたが変わる-分散液乾燥による固体膜成長プロセスの新たな法則を発見-

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年2月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
242526272829  

注目情報

最新記事

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

有機合成化学協会誌2025年2月号:C–H結合変換反応・脱炭酸・ベンゾジアゼピン系医薬品・ベンザイン・超分子ポリマー

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年2月号がオンライン公開されています。…

草津温泉の強酸性硫黄泉で痺れてきました【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい!  というわけで、硫黄系の温泉であり、日本でも最大の自然温泉湧出量を誇る草津温泉…

ディストニックラジカルによる多様なアンモニウム塩の合成法

第643回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の木之下 拓海(きのした …

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP