[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第46回―「分子レベルの情報操作を目指す」Howard Colquhoun教授

[スポンサーリンク]

第46回の海外化学者インタビューは、ハワード・コルクホーン教授です。英国レディング大学の化学科に所属し、高性能芳香族ポリマーの設計、合成、構造化学および応用に取り組んでいます。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

家庭の事情もあったのでしょうね。1950年代を生きた父は、新興のエレクトロニクス産業で実験工学屋をしていたので、科学技術に関する人気の書籍を私はたくさん与えて貰っていました。ニューカッスルの地元の大学でも、子供向けに夜の科学講義をしており、時々なら兄やその友達と一緒について行くことを許されていました。その後のグラマー・スクールでは、賢明な科学教師のグループが毎週化学クラブを開いていました。ベークライトやナイロンなどを合成する実験が実際上手くいったときの興奮は、今でも覚えています。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

作家かも知れません―化学者ならいつでももちろん、作家たるべきではありますが。物語作りが得意だったのかどうかは分かりませんが、ビクトリア朝とエドワード朝の美術史の中で、さほど知られていない部分の探求を楽しんでいました。その頃から、知られざる画家や作曲家を扱う伝記作家としてのキャリアを何かしら積んでいたのかもしれません。

Q. 概して化学者はどのように世界に貢献する事ができますか?

それが分かっていればなあ!とはいえ、石油とガスが本当に枯渇し、核分裂の可能性がまだ議論されており、核融合が現実的なテーマになるまでにはまだ長い道のりがあるわけです。その中で、エネルギーの生産・変換・貯蔵のための新材料とプロセスの開発は、化学が今後20年にわたって大きな社会的影響を与える分野の一つになるだろうと考えています。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

前世紀で最も過小評価されていた科学者の一人、ローレンス・ブラッグと知り合えていたらよかったのに、と思います。彼の50年以上に及ぶ業績は驚くべきものです。結晶のX線回折を支配する基本法則を発見しただけでなく、この洞察を利用し、単純な塩から金属、ケイ酸塩鉱物、そしてついには生細胞内の最も複雑な分子の構造に至るまで、ほぼ全ての物質的本質を、文字通り初めて理解せしめたのです(彼はまた、あらゆる点で優秀な講師であり、真っ当な男性でもありました)。

William L. Bragg (1890-1971) (写真:Wikipedia)

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

つい昨日(確かにこれは5年ぶりのことですが)、研究室でタングステン-ルテニウム分子ワイヤーの合成と結晶化の検討実験をしていました。私はロンドンでBernard Aylettのもと、無機化学者として研究キャリアを始めました。今や仕事のほとんどはポリマーにフォーカスしたものですが、小規模ながら配位化学に関する研究プログラムを今でも続けています。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

本は、ジェームズ・ワトソンの「The Double Helix」です。この物語は、科学的競争と共同研究に関する重大な倫理的問題を提起していますが、同時に、過去なされた最も重要な科学的発見の一つを鮮やかに説き明かしています。さらに、1950年初頭の英国の知的生活の雰囲気をリアルに捉えています。この時期は、科学が戦時中の制約から抜け出そうとしていた魅力的な時期でもあり、バーナード・ラヴェルジョン・ランダルジェフリー・ウィルキンソンといった科学者がその原動力となっていました。こういった科学者の初期のキャリアは、いずれも戦争によって挫けていました。

CDは、ヴォーン・ウィリアムズの1913年の交響曲「ロンドン」です。時間と場所の精神を見事に捕えたもう一つの作品です。

[amazonjs asin=”4105068911″ locale=”JP” title=”二重螺旋 完全版”][amazonjs asin=”B006OGSS3U” locale=”JP” title=”ヴォーン・ウィリアムズ:ロンドン交響曲/音楽へのセレナード (Ralph Vaughan Williams : London Symphony Serenade to Music / Rochester Philharmonic Orchestra, Christopher Seaman) SACD Hybrid 輸入盤”]

原文:Reactions – Howard Colquhoun

※このインタビューは2008年1月4日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第88回―「新規なメソポーラス材料の創製と応用」Dongyuan…
  2. 第129回―「環境汚染有機物質の運命を追跡する」Scott Ma…
  3. 第69回「見えないものを見えるようにする」野々山貴行准教授
  4. 第82回―「金属を活用する超分子化学」Michaele Hard…
  5. 第55回―「イオン性液体と化学反応」Tom Welton教授
  6. 第33回「セレンディピティを計画的に創出する」合田圭介 教授
  7. 第85回―「オープン・サイエンス潮流の推進」Cameron Ne…
  8. 第八回 自己集合ペプチドシステム開発 -Shuguang Zha…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 【マイクロ波化学(株) 石油化学/プラスチック業界向けウェビナー】 マイクロ波による新事業 石油化学・プラスチック業界のための脱炭素・電化ソリューション
  2. フラーレンの“籠”でH2O2を運ぶ
  3. 細胞懸濁液をのせて、温めるだけで簡単に巨大ながんスフェロイドができる
  4. 化学反応を起こせる?インタラクティブな元素周期表
  5. お”カネ”持ちな会社たちー2
  6. 有機テルル媒介リビングラジカル重合 Organotellurium-mediated Living Radical Polymerization (TERP)
  7. 細胞内で酵素のようにヒストンを修飾する化学触媒の開発
  8. 研究のための取引用語
  9. 柴﨑正勝 Masakatsu Shibasaki
  10. Googleマイマップを持って学会に出かけよう!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年1月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー