[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第48回―「周期表の歴史と哲学」Eric Scerri博士

[スポンサーリンク]

第48回の海外化学者インタビューは、エリック・セリー博士です。英国で教育を受け、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の化学・生化学科で長年講師を務めています。大規模な一般化学クラスの他に、科学史と哲学のコースも教えています。化学の歴史哲学および化学教育を扱う書籍も多く出版しています。『Foundations of Chemistry』という学術誌の創設者兼編集者でもあり、『The Periodic Table: Its Story and Its Significance』(オックスフォード大学出版局、2007)というベストセラーも執筆しています。それではインタビューをどうぞ。

[amazonjs asin=”019091436X” locale=”JP” title=”The Periodic Table: Its Story and Its Significance”]

Q. あなたが化学者になった理由は?

高校で初めて化学に興味を持ちました。クラスの後ろでふざけていたら、デイビス夫人に前に座らせられました。こんな感じで講義を聴講せざるをえなくなったのですが、化学はかなり論理的でエレガントであることに気付きました。種々のイオン原子価と塩の基本的な命名法を勉強しました。大学に進学した当初は、化学と物理学を一緒に勉強したかったのですが、すぐ化学を選択しました。しかし、化学とはいえより物理的・理論的な側面に常に惹かれていました。私にとって化学とは、視覚化のしやすさ、抽象的思考、数学のちょうどいい組み合わせを有するものです。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

これは簡単な質問です!音楽バンドと一緒に世界を旅するブルース・ギタリストになるでしょう。ロンドンの高校時代から音楽を演奏しています。ロンドンは60年代後半~70年代前半にブルースのリバイバルが行われた場所でもあります。BBキング、エリック・クラプトン、フレディー・キング、ピーター・グリーン、アルバート・コリンズ・・・その他多くの偉人たちをまねして演奏を覚えました。いずれにしても、さまざまなグループで演奏し、公でパフォーマンスしたことは、昨今UCLAで350人の学生相手に一般化学を教えることに役だっています。こういったことをしたことのある人なら誰でも、クラスを面白くするには 「パフォーマンス」 が強力な秘訣になることに同意してくれるでしょう。

Q. 概して化学者はどのように世界に貢献する事ができますか?

私は化学史と化学哲学、そして化学そのものについての執筆を専門としているので、この問いかけに最適ではないでしょう。しかし、私自身の専門的観点からは、自分たち・他の化学者の仕事について一般人に説明できるよう、作文やコミュニケーションのスキルを磨くことが化学者にとって不可欠だと思います。たとえばダーウィンの理論のように、化学と科学全般に対する懸念の多くは、実際の問題に対する理解の欠如から生じているように思われます。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

周期系の発見に最も深く関わっている、ドミトリ・メンデレーエフがいいでしょう。科学の中心的象徴とも言うべき周期表の歴史と哲学的意義について考え、研究し、執筆することに多くの時間を費やしてきたからでもあります。喜ばしいことにごく最近、周期律についての決定版とも呼ぶべき書籍を出版できました。10章のうち2つの章でメンデレーエフだけを取り上げています。主な論点は、化学と物理学の関係についてです。例えば、量子力学がどの程度まで化学の周期律を説明しているのか、ロシアでは未だにメンデレーエフの周期律と呼ばれているのかなどです。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

大規模な一般化学の講義で、定期的にデモンストレーションを行っています。学生たちはそれを高く評価してくれているようです。現代の一般化学コースで化学を学ぶ学生たちにとって、数学的抽象概念を地に足の付いたものにするのに役立っていると思います。本格的な実験は、ロンドンでのユウロピウム化合物の合成でした。何週間にもわたって間違った着手をしたり、ガラス吹きを使う無駄な迂回をした後、ついにサンプルを手に入れましたが、建物を出る途中で床に落としてしまいました。そのとき、自分の強みは化学を実践することではなく、化学について考えたり書いたりすることだと痛感しました。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

簡単なので、まずCDについてお話しします。私なら「Fleetwood Mac’s Live in Chicago」にします。これは70年代初期に録音されたもので、ピーター・グリーンの絶妙なエレキギター演奏が特徴です。「Wach Out」という第1巻の冒頭曲を聴くと、私の言いたいことがわかるはずです。バックアップとしては、クラプトン、ブルース、ベイカーによる、魔法じみた即興演奏が収録された 「Live Cream」の CDをもっていかねばなりません。

[amazonjs asin=”B00000EZ3A” locale=”JP” title=”Fleetwood Mac in Chicago”][amazonjs asin=”B0045FTQG0″ locale=”JP” title=”ライヴ・クリーム”]

本については、少しズルしているかもしれませんが、「Encyclopedia Britannica」全巻を持って行けないか尋ねてもいいでしょうか。新しいことを学び、全く新しい分野の知識を発見するのが大好きなのです。しかし、仮に1冊だけという縛りが強いのであれば、強いて言うなら、CondonとShortleyの原子分光学に関する書籍か、Atkinsの物理化学に関する書籍になると思います。

[amazonjs asin=”B01FKSPG82″ locale=”JP” title=”The Theory of Atomic Spectra by E. U. Condon G. H. Shortley(1935-01-02)”] [amazonjs asin=”4807909088″ locale=”JP” title=”アトキンス物理化学〈上〉”]

原文:Reactions – Eric Scerii

※このインタビューは2008年1月18日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第72回―「タンパク質と融合させた高分子材料」Heather M…
  2. 第106回―「分子の反応動力学を研究する」Xueming Yan…
  3. 第52回―「多孔性液体と固体の化学」Stuart James教授…
  4. 第66回―「超分子集合体と外界との相互作用を研究する」Franc…
  5. 第13回 次世代につながる新たな「知」を創造するー相田卓三教授
  6. 第154回―「ランタノイド発光化学の生物・材料応用」Jean-C…
  7. 第54回―「ナノカーボンを機能化する合成化学」Maurizio …
  8. 第113回―「量子コンピューティング・人工知能・実験自動化で材料…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ケムステイブニングミキサー2017ー報告
  2. アントニオ・M・エチャヴァレン Antonio M. Echavarren
  3. 「発明の対価」8億円求め提訴=塩野義製薬に元社員-大阪地裁
  4. 2014年ケムステ記事ランキング
  5. ポリセオナミド :海綿由来の天然物の生合成
  6. 光触媒の活性化機構の解明研究
  7. 第五回 超分子デバイスの開発 – J. Fraser Stoddart教授
  8. ご注文は海外大学院ですか?〜選考編〜
  9. 「水素水」健康効果うたう表示は問題 国民生活センターが業者に改善求める
  10. 「銅触媒を用いた不斉ヒドロアミノ化反応の開発」-MIT Buchwald研より

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年1月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー