[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第51回―「超分子化学で生物学と材料科学の境界を切り拓く」Carsten Schmuck教授

[スポンサーリンク]

第51回の海外化学者インタビューは、カルステン・シュムック教授です。ヴュルツブルク大学の有機化学研究所で、超分子化学とその生化学(例えば薬剤やセンサーの開発)と材料科学(例えば自己組織化ナノ構造)への応用について研究しています(訳注・2019年に逝去されています)。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

子どもの頃から自然に魅了されていました。湖水や植物を顕微鏡で研究したり、外で星を観察したり、小さな電気回路を作ったり。もちろん地下室には小さな化学実験室を持っていました。これらすべての実験と経験が教えてくれた自然について楽しみました。のちに学校ではとても優れた化学の先生に当たり、国際化学オリンピック(高校生を対象とした国際大会)に参加するよう勧められました。初めての全国選抜大会では、完全に失敗しました。しかしそれによって、完全に化学に重きを置くようになったと思います。野心的になり、化学に関われば関わるほど、ますます化学が好きになりました。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

おそらくは医者でしょう。10代の頃にボランティアの救急救命士として働き始め、今でも時々やっています。人を助けることは、責任のともなう大変な仕事ですが、とてもやりがいのある仕事です。化学や自然科学を専門にしていなければ、医学を専門にしていたでしょう。子どもの頃は、料理人にも魅せられました。化学研究室におけるスキルほど、料理スキルには長けていないかもしれませんが、今でも料理は大好きです。

Q. 概して化学者はどのように世界に貢献する事ができますか?

第一に、ロナルド・ブレスロウがかつて述べたように、化学はCentral Scienceです。周りで起こっていることはすべて、何らかの形で化学と結びついています。生命の分子基盤、病気の発生、分子レベルでの薬物機能、あるいは材料特性が分子組成にどう依存しているか――こういった事柄を学べば学ぶほど、より良い生活を実現し、地球を脅かしている困難に対処できるようになるだろう。

第二に、周りで起こっていることを理解するだけでなく、創造もできる唯一の自然科学が化学である。かつて存在しなかった新しい分子、つまい極めて望ましい性質をもつ新しい分子を創り出せるのです。化学者は人々の生活と健康を改善するために、新薬を創り出します。化学者はまた、現代の世界における何千もの応用を志向し、改善特性を備える新材料を創り出します。化学は、エネルギー危機、食糧と水の供給、健康問題、環境問題など、今日私たちが直面している多くの問題を解決するのにも役立ちます。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

レオナルド・ダ・ヴィンチです。おそらく、地球上で最も魅力的な科学者でした。芸術と科学、化学と物理学、医学と生物学、建築と工学、その他多数――彼一人がどれだけ多様で異なる分野を樹立したかを考えると、驚くほかありません。彼は今日でも使われるものを本当に沢山発明しました。たとえ改良版だとしても、基本的には彼のアイデアに行き着きます。そしてこれら全ては、非常に困難で、時には生命を脅かすような政治的状況下で成し遂げられたのです。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

ええと、それはかなり昔のことです。少なくとも真性の科学研究という意味では。それは6年ほど前のことです。つまり、アカデミックキャリアを始めたばかりで、学位のために働き始めた共同研究者が3人しかいなかった時です。研究に必要だったビルディングブロックの一つ、グアニジニオカルボニルピロール誘導体の5段階合成をしました。

残念ながら、私にはもうラボで実験をする時間がありません。そして今では、共同研究者たちのほうが私よりずっと実験スキルが高いです。私の練習不足のせいでしょう。

しかし、年に1回、高校生向けに化学の日を設けています。そしてその日は、ナイロンや綿火薬の合成といった古典的実験を自ら行います。ラボコートを着て実験をしている私の姿を同僚が見ることは、いつも「ビッグショー」なのです。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

ココナッツからコーヒーを作る方法が載っている本はありますか?それが第一希望です。でなければ、おそらくニューヨーク市の電話帳でしょう。火を起こすのに適したページがたくさんありますね。

CDについてですが、ココナッツオイルでCDプレーヤーは動きますか?

もっとまじめに答えるなら、『ロード・オブ・ザ・リング』は何度でも読めますし、アンドリュー・ロイド・ウェバーの曲が入ったCDがあれば素晴らしいと思います。

[amazonjs asin=”4566023710″ locale=”JP” title=”文庫 新版 指輪物語 全9巻セット”]

原文:Reactions – Carsten Schmuck

※このインタビューは2008年2月8日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第17回 研究者は最高の実験者であるー早稲田大学 竜田邦明教授
  2. 第65回「化学と機械を柔らかく融合する」渡邉 智 助教
  3. 第82回―「金属を活用する超分子化学」Michaele Hard…
  4. 第126回―「分子アセンブリによって複雑化合物へとアプローチする…
  5. 第117回―「感染症治療を志向したケミカルバイオロジー研究」Er…
  6. Christoph A. Schalley
  7. 第90回―「金属錯体の超分子化学と機能開拓」Paul Kruge…
  8. 第31回 ナノ材料の階層的組織化で新材料をつくる―Milo Sh…

注目情報

ピックアップ記事

  1. なんとオープンアクセス!Modern Natural Product Synthesis
  2. いざ、低温反応!さて、バスはどうする?〜水/メタノール混合系で、どんな温度も自由自在〜
  3. ライオン、フッ素の虫歯予防効果を高める新成分を発見
  4. Al=Al二重結合化合物
  5. トリフルオロメタンスルホン酸2-(トリメチルシリル)フェニル : 2-(Trimethylsilyl)phenyl Trifluoromethanesulfonate
  6. BASFクリエータースペース:議論とチャレンジ
  7. 結晶スポンジ法から始まったミヤコシンの立体化学問題は意外な結末
  8. 二酸化セレン Selenium Dioxide
  9. 有機反応を俯瞰するシリーズーまとめ
  10. 「超分子ポリマーを精密につくる」ヴュルツブルク大学・Würthner研より

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年1月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP