[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第42回―「ナノスケールの自己集積化学」David K. Smith教授

[スポンサーリンク]

第42回の海外化学者インタビューは、デヴィッド・K・スミス教授です。英国ヨーク大学の化学科に所属し、ナノ化学に取り組んでいます。彼は、構造化マテリアルへと自己集積したり、特定の生物学標的と相互作用できるナノスケール分子を作ることに興味を持っています。彼の研究は、スマート材料(ゲル)の開発やナノ医療(遺伝子治療と標的抗がん剤)に応用されています。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

英国ストックポートにある地元の総合学校には、非常にタイプの違う2人の刺激的な教師がいました。1人は完全に外向的で、常に刺激的な化学実験を実演し、実用化学の力で教室を興奮させていました。もう一人は本物の学者でした。彼は私を王立化学会に登録し、ライナス・ポーリングの本 「The Nature of the Chemical Bond」 をくれました。2人の先生が合わさることで、化学によって何ができるか分かり、自分の満足いく仕事になるだろうことを確信し、本当に重要な問題に取り組むチャンスを得ました。

[amazonjs asin=”0801403332″ locale=”JP” title=”The Nature of the Chemical Bond and the Structure of Molecules and Crystals; An Introduction to Modern Structural Chemistry. (George Fisher Baker Non-Resident Lectureship in Chemistry at)”]

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

自分のレストランをもち、シェフになりたいです。合成化学は調理とつながりがあり、メニューデザインは分子デザインに似ています。私は料理が大好きだし、おいしいものを食べるのも大好きです。特に、他人のためにおいしいものを作るのが大好きです。友人たちに料理を作ってあげるときの感覚は、ユニークな性質と興味深い振る舞いを示す新しい分子の合成が終わったときの感覚に似ています。

Q. 概して化学者はどのように世界に貢献する事ができますか?

化学者は時に、大きな問題に近づくことを少し恐れ、達成可能なより小さな目標に取り組むことを好んだのではないかと思います。これは化学者がしばしば潜在的力量を過小評価してきたということでもあり、ゆえに化学は大衆メディアにはめったに登場しません。しかし、新たな物質を合成する化学者の能力は、他のいかなる科学分野とも比類ないものです。この主題における創造的で想像力豊かな面は、大きな強みの1つです。さらに、分子世界の理解は、私たちを取り巻く世界を理解する上で、私たちをユニークな立場に置いてくれます。化学者は合成と分子レベルの理解を統合することにより、広く関心を集める大きな問題―複雑な化学混合物からの生命の進化、ナノ医療への分子アプローチ、エネルギー危機への潜在的な解決策―の解決に関われる可能性を秘めています。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

チャールズ・ダーウィンであるべきでしょう。彼の理論は、科学と宗教が分裂したために長く議論の的となっている唯一の理論です。同じような理由から、できればガリレオを連れて行きたいです。オーソドックスな信念を持つことについて、彼らがどう感じていたかを知りたいです。私はまた――主には彼らの努力の結果なのですが――宗教より科学を信じる人が多くなっているという現代世界に対し、彼らがどういう反応をするかにも興味があります。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

私は研究室でものいじりをしていることが多く、たいていは学部生・学生・一般人へ見せるに適した実験を開発しています。良くない日を過ごしているようなら、実験をしながら研究チームとおしゃべりする――それを一番やりたいですね。本当に最後の実験は、学生向けの実際的課題を啓発すべく、カラフルなセンサーアレイを検討することだったと思います。その際、学生たちは化学版「人間の舌」を作り、パターン認識によって特定の分析物を検出することに成功しました。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

CDはマリリオン作の「Marbles」であるべきでしょう。そう、彼らは80年代に「Kayleigh」という曲をリリースしました!しかし、「Marbles」は2004年にリリースされた驚くべき2枚組アルバムで、この上ない音楽の旅に連れて行ってくれるのです。これは、大理石を失い、自分自身を失い、そしておそらく最終的には愛を見つけるアルバムです。本選びは本当に大変ですが、村上春樹の「海辺のカフカ」でなくてはならないでしょう。この本は全く魔法じみており、正直なところ説明がつきません。ストーリーの中で迷子になり、生々しいキャラクターと運命が絡み合っていきます――無人島の亡命者にとっては、理想的な気晴らしでしょう。

[amazonjs asin=”B078P3JM9Z” locale=”JP” title=”Marbles”] [amazonjs asin=”B01G4DFRRC” locale=”JP” title=”Kayleigh by Marillion”]

原文:Reactions – David K. Smith

※このインタビューは2007年12月7日に公開されました。

 

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第165回―「光電変換へ応用可能な金属錯体の開発」Ed Cons…
  2. 第66回―「超分子集合体と外界との相互作用を研究する」Franc…
  3. 第74回―「生体模倣型化学の追究」Ronald Breslow教…
  4. 第34回 生物学と合成化学のハイブリッド高分子材料を開発する―J…
  5. 第18回「化学の職人」を目指すー京都大学 笹森貴裕准教授
  6. 第27回 生命活動の鍵、細胞間の相互作用を解明する –…
  7. 第129回―「環境汚染有機物質の運命を追跡する」Scott Ma…
  8. 第91回―「短寿命化学種の分光学」Daniel Neumark教…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 輸出貿易管理令
  2. 【ジーシー】新たな治療価値を創造するテクノロジー -BioUnion-
  3. スイス医薬大手のロシュ、「タミフル」の生産能力を増強へ
  4. 第28回「ナノバイオデバイスが拓く未来医療」馬場嘉信教授
  5. フィッツィンガー キノリン合成 Pfitzinger Quinoline Synthesis
  6. トリニトロトルエン / Trinitrotoluene (TNT)
  7. 「触媒的オリゴマー化」によるポリピロロインドリン類の全合成
  8. トム・スタイツ Thomas A. Steitz
  9. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無電解めっきの還元剤編~
  10. あなたの体の中の”毒ガス”

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年12月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

有機合成化学協会誌2025年2月号:C–H結合変換反応・脱炭酸・ベンゾジアゼピン系医薬品・ベンザイン・超分子ポリマー

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年2月号がオンライン公開されています。…

草津温泉の強酸性硫黄泉で痺れてきました【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい!  というわけで、硫黄系の温泉であり、日本でも最大の自然温泉湧出量を誇る草津温泉…

ディストニックラジカルによる多様なアンモニウム塩の合成法

第643回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の木之下 拓海(きのした …

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー