第33回の海外化学者インタビューは、スティーブ・マルスデン教授です。イギリスのリーズ大学化学科に在籍し、新規有機合成法の開発と複雑な生物活性分子への合成的応用に取り組んでいます。それではインタビューをどうぞ。
Q. あなたが化学者になった理由は?
高校で化学を学んだ最初の瞬間から夢中になりました。たとえ学び始めの段階でも、いくつかの簡単な「知識」や原理を使って、新たな反応や現象を思いつくことができる―そんな秩序と論理が私にとって魅力的だったのだと思います。化学を仕事にするという壮大な計画は、その頃は確かにありませんでした。家族の中に科学者はいないもので。次のレベルへと到達するために、化学を勉強し続けただけなのです。楽しく情熱的になれることを仕事にしているのは、幸せだと感じます。
Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?
自分の趣味や興味に没頭することでお金を貰える場所であれば、どれも夢のような仕事を保証してくれるでしょう。少年時代は、マンチェスター・ユナイテッドの右翼手でしたし、10代の頃はおそらくロックバンドギタリストでしたね。もともと才能がなく、年を重ねるにつれ戯言になってしまいました。ですので、ワイン作りをやるでしょうね。栽培者やブレンダーのもつ技術には畏敬の念を抱きますし、その根底にある化学プロセスにも魅力を感じています。最終的な仕上げにも、とても熱中するでしょう。
Q. 概して化学者はどのように世界に貢献する事ができますか?
これは以前の記事でも触れられていましたが、我々にとって最大の課題は技術的なものではなく、社会的なものだと言うべきでしょう。科学的/技術的進歩に伴う(地球温暖化からワクチンの不足に至るまで)世界の害悪が非難を浴び続けています―多くの場合、科学的なリテラシーを欠くか、故意に誤った事実を流す大衆メディアにかなり煽られることで。そんな時代に我々は生きているように思います。科学コミュニティは、自分たちが何をしているのか、それをなぜ行うのか、潜在的な利益(とリスク)は何なのかをもっとちゃんと説明し、公の信頼を取り戻していかねばなりません。それをしなければ、将来の研究費もそうですが、科学を学ぶ次世代の学生たちの発展をも脅かすことになるでしょう。
Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?
リチャード・ファインマン。 20世紀の決定的瞬間の大部分(科学的であれ他のものであれ)を通して生きた、真に特筆すべき賢人です。彼はまた、博識家であり、エンターテイナーでした。 存命の人物なら、キース・リチャーズを選びます。彼が覚えていれば、伝えるべき面白い話がいくつかあるはずです。 その夕食は固形物メインではなく、液体メイン(お酒)になるでしょうね。
Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?
5年前、プロジェクトの博士研究員の就職が決まりラボを去らねばならなくなった後、学会発表前に短工程合成を終わらせようとしました。 生成物のNMRスペクトルが戻ってきたとき、他のグループメンバーが不気味な様子で集まっていました。もし反応が上手く行ってなかったり、サンプルが汚かった場合に、私をダシにして楽しもうとしていたのです。運の良いことにスペクトルはとてもきれいだったので、私はプライドを傷つけられることなくオフィスに戻りました。 それ以来、私は二度と神を試みるような真似はしていません。
Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください
私はLPレコード/CDのちょっとした中毒者ですから、1枚だけCDを選ぶことは難しいです。 iPodを選ぶのはずるいでしょうか?それがダメなら、P.J.Harveyの “Stories from the Sea, Stories from the Sea”を持っていきます。 少なくとも数ヶ月間は私を満足させてくれる、折衷案としては十分なアルバムです。
[amazonjs asin=”B0000542OV” locale=”JP” title=”ストーリーズ・フロム・ザ・シティ、ストーリーズ・フロム・ザ・シー”]本であれば、クライヴ・ジェームズの自伝”Unreliable Memoirs”の第1巻を持っていくでしょう。戦争で父を亡くした若い少年の成長譚を描く美しい筆致は、笑いと同情の涙を誘います。
※このインタビューは2007年10月5日に公開されました。