[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第24回 化学の楽しさを伝える教育者 – Darren Hamilton教授

[スポンサーリンク]

第24回は米マサチューセッツ州マウント・ホリヨーク・カレッジ化学科のダレン・ハミルトン教授です。ハミルトン教授は有機化学のの授業を多く担当する傍ら、分子認識や超分子化学などの研究にも取り組んでいます。学部教育に特化した大学での研究生活とは如何なるものか、化学教育者として国に何を思うのか、ハミルトン教授のインタビューをどうぞ。(※このカレッジの大学院は、教育学と心理学の修士過程2コースだけで化学科は設置されていないようです。)

Q. あなたが化学者になった理由は?

何か想像を掻き立てるような子供の頃のとっておきの出来事でもあればよかったのですが、そういうことはありません。イギリスの教育システムでは16歳の時に重要なイベント、つまりA-Level(※)の受験がありますが、この3教科のうちの一つに化学を選びました。大学入学までの時点で、化学は面白いということにかなりの確信がありました。そして学部が終わるころにはいくらかのラボワークも経験し、完全にハマっていたのでした。生物をデザインしている化学のしくみを知り、新たな分子を合成することができる、これは(化学者の)特権であると今でも思っています。私の教え子の多くもこれに賛成してくれているようです。

※訳者注:イギリス版センター試験のようなもの。

 

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

私は8年間、このアメリカに住み、働いてきましたが、ここの政治家という連中はイギリスのそれよりもずっと酷い人種です。ロビイストや政治家を裏で支える大手資本の介入無くして、ワシントン(DC)では何も起きません。本当に大切な仕事(雇用)、それを支える政治体制、というものが私に思いつくのであれば、政治家達に本物のサイエンティストとの本物のサイエンスについての話し合いを持たせることは吝か(やぶさか)ではありません。そして彼らがそこから学んだものについて、賢明に行動を起こしてもらいたい。少なくとも政治家達のパブリックアナウンスメントから明らかなのは、彼らの多くはサイエンスを軽んじているということ。これは大変気の滅入ることであり、(国にとって)損害です。たとえほんの僅かでも、政治、あるいは政治家達にサイエンスの重要さを理解させる、サイエンスへの心を開かせるという役目を担うことは、非常に価値のあることだと思います。

 

Q.概して化学者はどのように世界に貢献する事ができますか?

これは全くオリジナリティの無い回答なのですが、サステイナビリティ(※1)、でしょう。今の世代の化学者にとって、サステイナブルな方法で必要なモノを生産する手法の開発以上に急を要するテーマなど無いと思います。もう一歩踏み込めば、エネルギー問題もそうです。これらの分野に投入すべきR&D(※2)予算はさらに増大すべきでしょう。洗練された合成テクノロジー、エネルギーマネージメント、これら世界が求める取り組みの中で、化学者がその中心的役割を担うことでしょう。

 

sustainability_studies

訳者注
※1 持続性。高TON、リサイクル可能な触媒、副生成物の少ない(もしくは無毒な)環境低負荷型の反応など、いわゆるグリーンケミストリーを指向する現代用語。Sustainable Development=持続可能な開発、という用語はビジネス雑誌でよく登場しますね。
※2 Research and development、アールアンドディー。研究開発。

 

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

私はストーンヘンジからそう遠くない場所で育ちましたから、多くの人がそうであるように、あの場所に未だ惹かれています。そういうわけで特に誰という名前を上げることはできませんが、「あのストーンヘンジの石を立てることを思いついた人」です。あの場所は誰かのアイデアによるものに間違いありません。だからこそ当時の人達は、あの驚くべき建築プロジェクトに辿り着いたのです。この誰かなら、現代の我々のリーダー達にもきっと良いレッスンを付けてくれることでしょう。私はウチの母が作ったバタープリンとパンを(この誰かに)差し出して、レッスンがすらすら続くようお手伝いしたいです。

Stonehenge

Stonehenge

 

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

今日です。ギーク(オタク)なので。割りとシンプルで、対称なジエステルを合成しているところでして、結果待ちです。

 

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

そこにしばらくいることになるのでしょうから、これはちょっと大変ですね。私が今までに読んだ本の中で最も美しい文章で書かれ、しかし痛々しい程の描写をされている本。Charles PalliserのQuincunxです。最後の一文で解ったことは、それまでの800ページ余りも、多くの登場人物たちの相関関係も、私が完全には理解し切れていなかったということです。これは驚くべき本で、数年は暇を持て余すことはないでしょう。CDですが、CDプレイヤーを組み立てて…これはもう持っているのでしょうか?とにかく必要なプレイヤーは持っているとして、新しい一枚。といってもいろんな意味でこれは時間を超越していますが、HemのRabbit Songsにします。聞いたことありません?

[amazonjs asin=”B00IBZ5ZL0″ locale=”JP” title=”Quincunx”] [amazonjs asin=”B00BHJPISC” locale=”JP” title=”Idle (The Rabbit Song) (Album Version)”]

 

原文:Reactions – Darren Hamilton
※このインタビューは2007年8月3日に公開されたものです。

Avatar photo

せきとも

投稿者の記事一覧

他人のお金で海外旅行もとい留学を重ね、現在カナダの某五大湖畔で院生。かつては専ら有機化学がテーマであったが、現在は有機無機ハイブリッドのシリカ材料を扱いつつ、高分子化学に

関連記事

  1. 【第一回】シード/リード化合物の創出に向けて 1/2
  2. 第三回 ナノレベルのものづくり研究 – James …
  3. 第59回―「機能性有機ナノチューブの製造」清水敏美 教授
  4. 第36回「光で羽ばたく分子を活かした新技術の創出」齊藤尚平 准教…
  5. 第19回 有機エレクトロニクスを指向した合成 – G…
  6. 第67回―「特異な構造・結合を示すランタニド/アクチニド錯体の合…
  7. 第52回―「多孔性液体と固体の化学」Stuart James教授…
  8. 第19回「心に残る反応・分子を見つけたい」ー京都大学 依光英樹准…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 有機ELディスプレイの最新技術【終了】
  2. 有機合成化学協会誌2023年4月号:ビニルボロン酸・動的キラル高分子触媒・ホスホニウムイリド・マイクロ波特異効果・モレキュラーシーブ
  3. ロゼムンド・リンドセー ポルフィリン合成 Rothemund-Lindsey Porphyrin Synthesis
  4. 第41回ケムステVシンポ「デジタル化社会における化学研究の多様性」を開催します!
  5. いざ、低温反応!さて、バスはどうする?〜水/メタノール混合系で、どんな温度も自由自在〜
  6. クノール キノリン合成 Knorr Quinoline Synthesis
  7. カーボンナノチューブの毒性を和らげる長さ
  8. 複雑な生化学反応の条件検討に最適! マイクロ流体技術を使った新手法
  9. 第62回「分子設計ペプチドで生命機能を制御する!!」―松浦和則 教授
  10. 第80回―「グリーンな変換を実現する有機金属触媒」David Milstein教授

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年6月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

ペーパークラフトで MOFをつくる

第650回のスポットライトリサーチには、化学コミュニケーション賞2024を受賞された、岡山理科大学 …

月岡温泉で硫黄泉の pH の影響について考えてみた 【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい! というわけで、硫黄系温泉を巡る旅の後編です。前回の記事では群馬県草津温泉をご紹…

二酸化マンガンの極小ナノサイズ化で次世代電池や触媒の性能を底上げ!

第649回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院環境科学研究科(本間研究室)博士課程後期2年の飯…

日本薬学会第145年会 に参加しよう!

3月27日~29日、福岡国際会議場にて 「日本薬学会第145年会」 が開催されま…

TLC分析がもっと楽に、正確に! ~TLC分析がアナログからデジタルに

薄層クロマトグラフィーは分離手法の一つとして、お金をかけず、安価な方法として現在…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー