[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第二回 水中で超分子化学を探る-Bruce Gibb教授-

[スポンサーリンク]

第二回はニューオリンズ大学のBruce Gibb教授です。
Gibb教授は超分子化学を研究しており、水溶液中で新しい、または異常な性質を発現する分子システムの構築に取り組んでいます。

Q. あなたが化学者になった理由は?

私はいつも科学に魅力を感じていた。科学の裏には深淵と本質がある。そして最もビール任せなものさ。ブログじゃなくてね。 なぜ化学を選んだかについてだけど、おそらくは化学が変化をもたらす力を持ちつつも、現場の実感がわくものだったからだと思う。 例えば核物理学。原子を加工できるけど、大学生にとってはそこまで実感がわくものではないよね。放射活性種の崩壊を”見ている”ことを除いては。 私にとってこれはやや今ひとつで、残念なことだったよ。そう、年を経るに助産婦ではなく看護婦になっているかのようで。 その一方で、化学の研究室に入れば実際にものをつくることができた。AをBに変換し、色の変化を眺め、変化を他に幾つも測定する・・・これはすごい! 化学の中でも、私は特に有機化学にひきつけられた。反応機構の美しさや神々しさがあったから。有機分子を描く幾何的方法、電子の”流れ”のダイナミズム―ともに美的な魅力があった。 無数に行き来できる可能な反応経路、機構的な行き止まり、各段階における可逆性や不可逆性・・・本当に素晴らしい言語じゃないか。 おそらくは必然なんだろうけど、新しくできた研究領域のシステム化学(と生物学)も魅力的だと思うね。

 

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

それは簡単だ。気象学者だよ。 気象系のダイナミズムと複雑さに、私はとても魅力を感じている。しかしそれ以上に、気象現象のスケールというものは神々しく、我々に謙虚さな気持ちを思い出させてくれる。特に激しい気象ほどそうだ。 2005年8月29日にやってきたハリケーンのカトリーナ(ニューオリンズの人々ならそれぞれに体験があるだろう)は、上陸するまでの5時間のあいだに、54兆ワットものエネルギーを放出したという話だよ。そんな量のエネルギーなんで、本当に感じるところが大きかった。

200px-Hurricane_Katrina_August_28_2005_NASA

 

Q.概して化学者はどのように世界に貢献する事ができますか?

すべての人々同様、化学者は良識的でありつつ積極的であることで、最もよく貢献できる。 我々は皆、短期的なことと同じぐらい長期的なことを重く見るよう努めるべきだろう。 道がよくわからないときはゆっくり歩み、これは行けると思えば勇気を持って行動する。 これらはすべて健全たる倫理の枠組みに収まるものだよ。

 

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

私は因習というものを破壊したく思うようなところがあるので、心から会いたいと思う歴史上の人物などはいないね。加えて、歴史というものは精神的高揚もしくは悪魔化をもたらすことによってパーソナリティを歪める傾向がある。そして得てして期待を裏切るものだ。 優れた教育を受けた未来人とすぐにでも会える、となればそれは別の話。人類が行う実験がどうなっているのか尋ねることは、美味しいチキン・サーグ以上に、とても魅力的だろうね。

 

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

最後にラボで実験をしたとき・・・その直後に私のグループのメンバーが、くだらない質問をあまりにたくさんするので面食らったんだね。丸底フラスコはどこですか、だって? 残念なことだが、私が研究室の地理を無視してきたことが、質より量に過剰な重きをおく傾向を強める根源となっているようだ。考えるに、量というものは定義が容易なのだね。豆を数えるだけのようなことに、皆が全幅の信頼を寄せている。 我々は皆、当然ながら質を追い求めて最大限の努力をしている。しかし往々にして論文数だとかグラントの額などの話になってしまっている・・・そんなことばかりだ。そんなものは科学者のモノサシ(また小切手の額面)でしかない。

同世代(私は41歳)の人々と同じく、私は管理的な細々したことを取り扱っているし、論文を出せとプレッシャーもかける、その上マネージメントにも心を砕いている。もしデッキをすこしばかり綺麗にして、ラボで時間を過ごせれば、よりよい教師たりえ、もっと良いアイデアが得られるのだろうか?―それは全くその通りだね。そうであれば、きっともっと楽しくもなるだろうね。

 

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

もしCDとCDプレイヤーを島に持って行ってよいというなら、私はその代わりにDVDとDVDプレイヤーに交換したい。私は音楽愛好家というよりは映画マニアなんでね。それがチャチャっとできるなら、ポール・トーマス・アンダーソンの”マグノリア”を持って行きたいね。あまり評判が良くなかったそうで悲しいけど、あれは魅力あふれる芸術作品で、美しいシーンや素晴らしいクオリティたる役者たちの宝庫なんだ。 もし二つめのディスクを入れても良いなら(たいていは一つ以上のディスクを入れられるよう設計されてるものだよね)、デヴィッド・リーンの”ローレンス・オブ・アラビア”を持って行くね。傑作だよ! しっかりしたストーリ立て、深淵でたまに得体のしれないキャラクターが映像的・音楽的に完璧なフレーム構成にて収められている。彼らはかつての彼らとは全く違うものたろうとしている。 本に関してだけど、私が本当に没頭したものをきっと選ぶだろうね。例えばシェイクスピアの完全な作品。 読んで楽しめるような本(政治的・科学的・生態学的・経済的なものなんかが現在の関心だけど)は、島で取り残されてという条件からは少しかけ離れてしまうように感じている。 その条件でと言うなら、シェイクスピアの本をサバイバルハンドブックと交換すべきかも知れないね?

[amazonjs asin=”B002QFYJF4″ locale=”JP” title=”Magnolia Blu-ray”][amazonjs asin=”B009W7A5ZM” locale=”JP” title=”Lawrence Of Arabia (Da Capo Paperback)”]

 
原文:Rections – Bruce Gibb
※このインタビューは2007年5月2日に公開されたものです

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 第48回「分子の光応答に基づく新現象・新機能の創出」森本 正和 …
  2. 第165回―「光電変換へ応用可能な金属錯体の開発」Ed Cons…
  3. 第56回―「メタボロミクスを志向した質量分析技術の開発」Gary…
  4. 第一回 福山透教授ー天然物を自由自在につくる
  5. 第八回 ユニークな触媒で鏡像体をつくり分けるー林民生教授
  6. 第48回―「周期表の歴史と哲学」Eric Scerri博士
  7. 第61回―「デンドリマーの化学」Donald Tomalia教授…
  8. 第90回―「金属錯体の超分子化学と機能開拓」Paul Kruge…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ニトロンの1,3-双極子付加環化 1,3-Dipolar Cycloaddition of Nitrone
  2. 医療用酸素と工業用酸素の違い
  3. 第一回 人工分子マシンの合成に挑む-David Leigh教授-
  4. 結晶作りの2人の巨匠
  5. フィブロイン Fibroin
  6. 原子状炭素等価体を利用してα,β-不飽和アミドに一炭素挿入する新反応
  7. 化学と権力の不健全なカンケイ
  8. 錬金術博物館
  9. マテリアルズ・インフォマティクス解体新書:ビジネスリーダーのためのガイド
  10. 第五回 超分子デバイスの開発 – J. Fraser Stoddart教授

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年5月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

モータータンパク質に匹敵する性能の人工分子モーターをつくる

第640回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所・総合研究大学院大学(飯野グループ)原島崇徳さん…

マーフィー試薬 Marfey reagent

概要Marfey試薬(1-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル-5-L-アラニンアミド、略称:FD…

UC Berkeley と Baker Hughes が提携して脱炭素材料研究所を設立

ポイント 今回新たに設立される研究所 Baker Hughes Institute for…

メトキシ基で転位をコントロール!Niduterpenoid Bの全合成

ナザロフ環化に続く二度の環拡大というカスケード反応により、多環式複雑天然物niduterpenoid…

金属酸化物ナノ粒子触媒の「水の酸化反応に対する駆動力」の実験的観測

第639回のスポットライトリサーチは、東京科学大学理学院化学系(前田研究室)の岡崎 めぐみ 助教にお…

【無料ウェビナー】粒子分散の最前線~評価法から処理技術まで徹底解説~(三洋貿易株式会社)

1.ウェビナー概要2025年2月26日から28日までの3日間にわたり開催される三…

第18回日本化学連合シンポジウム「社会実装を実現する化学人材創出における新たな視点」

日本化学連合ではシンポジウムを毎年2回開催しています。そのうち2025年3月4日開催のシンポジウムで…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー