第63回目の研究者へのインタビューは、埼玉大学の古川俊輔 先生にお願いいたしました。
古川先生はケムステスポットライトリサーチ企画にてこれまで複数回、お仕事を取り上げさせいただいてもいる、優れた若手研究者の一人です。一方で大学教員の枠に留まらない複業的な取り組みを行っておられる方でもあり、目立ったところでは株式会社MI-6 技術顧問、サイエンスバーFRACTAL CTO、ARchemisT 代表などを歴任されています。
ユニークそのものな人柄と取り組みがかねてより若手を中心とした耳目をあつめており、第41回ケムステVシンポにおいても、「しくじりまくり先生 俺みたいになるな!!〜大学で悩みを抱えている人へ〜」という刺激的なタイトルでご講演を頂ける事になっています。
それでは今回もインタビューをご覧ください!
Q. あなたが化学者になった理由は?
大学の研究室で、分子を作るのにハマって遊び倒していたらなっていました。昔から化学が好きだったかというとそういう訳でもなく、高校時代は部活(野球)と趣味(ギターとか)に明け暮れていて、化学も物理も(数学も、国語も、社会も、、)赤点だった気がします。どうやら「自身の創作物で人々にインパクトを与える」というのが私のモットーらしく、この世に存在しない分子を作る体験が性に合ったみたいです。
白川英樹先生がノーベル化学賞をご受賞されたのもきっかけの一つです。ご受賞の年(2000年)はちょうど私が高校3年生で、進路を決めなければいけない時期でした。部活も引退してバットを鉛筆に持ち換えられればよかったのですが、間違って全力でギターを握ってしまいました。毎日早朝から爆音で奏でられたギターの音色は、家族は愚か200m先の幼馴染宅にまで轟き、周辺地域に冷戦をもたらしました。いまではいい思い出です。そんな中、フラッと寄った本屋で購入したのが白川先生の著書「化学に魅せられて」。導電性高分子の発見の経緯が高校生にも理解できるように書かれていて、常識外れの発見をすることの楽しさを感じたのを覚えています。学問の「が」の字もなかった遊び人が、なんとなく大学では化学を専攻し、今に至ります。
Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?
社長業には興味があります。時に、科学の探求にはお金がかかります。ハイレベルな研究をスピード感をもってやろうとしたらなおさらです。一般に、日本国内でこれが実施できる環境を手に入れようとすると、数十年に上るレベル上げが必要になります。やっている間にレベル上げが目的化しそうです。一方、資本力・組織力のある民間企業のスピード感はエグいです。私は国税のお世話になっている化学者の端くれですが、強いチームを作るための工夫として学ぶ点がとても多い。イチから会社を作って上場させるような社長さんは、チームづくりが上手です。できるものなら経験してみたい。方法論としての社長業なので、結局知の探求してそうなのがどうしようもない性分なのですが。
Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?
機能性材料としての分子や、これまでにない電子状態を達成するための分子づくりをしています。詳しくは世界の化学者データベースをご覧ください。一度登った山に二回目登れない性格なので、研究は面白そうと思ったものを気の向くままにという感じでやっています。概して総花的になりやすく、小刻みに論文数を求められるアカデミアコミュニティでは戦力外です。戦略的に「どのように展開するか」を考えられたらもっと偉い人になれていたかもしれませんね。化学の研究を始めてから約20年。ドラクエⅢの設定では遊び人はレベル20で賢者に転職できるのですが、どうやら僕はまだ遊びの研鑽が足りないようです。
Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?
人ではないと思うのですが、最初に宇宙を創造したナニカに会ってみたいです。宇宙のはじまりは138億年前。無の状態からビッグバンを経て今でも宇宙は膨張しているそうです。普段、原子や分子を取り扱って物質を操っている気になっていますが、無から物質が生まれるとは何ぞや、と思うわけです。宇宙の外側で誰かが何らかの意図で生じさせたものなのか、はたまた何の意図もない一瞬の煌めきに過ぎないのか。人間の時間軸では大凡計ることができない何かに触れたいと思う方がいたら、それはきっと僕と同類です。
Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?
実験ノートには2019年8月7日と書いてありました。合成実験をしなくなって5年が経ちます。未公開データなので内容は詳しく触れられないのですが、未知物質の合成です。作ったその日にX線構造解析で分子構造まで決めていました。手慣れたもんです。そのうちまた実験始めると思います。YouTubeで公開予定です。
Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。
最近はLinkin ParkのNumbをよく聞いています。本だったら「ピラミッドの建て方」でしょうか。文明の気配のないところにポツンとピラミッドがあったら未来の考古学者は解釈に困惑することでしょう。自分の墓を一生懸命作ります。
Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。
化学界隈に友達が少ないのですが、同期で分野の近しい草本哲郎先生、酒田陽子先生、瀬川泰知先生、焼山佑美先生を挙げさせていただきます。
関連リンク
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<スポットライトリサーチ>
*本インタビューは2023年10月12日に行われたもので