第62回目の研究者へのインタビューは鳥取大学の松浦和則 先生にお願いいたしました。
松浦先生はウイルスの構造に学んだペプチド断片を設計し、それを自己集合させた生体材料をつくる研究に長年取り組まれています。この「ウィルスレプリカ」とも呼べる人工構造体は、ドラッグデリバリーシステム(DDS)やワクチンなどへ応用が期待されています。筆者(副代表)もペプチドや生体関連化学に最近はどっぷり浸っていますが、松浦先生の傑出した分子設計と美しい自己集合の化学に触れるにつけ、毎度感嘆してやみません。
今回も、化学者になったきっかけに始まり、研究への想いまでを熱く語っていただきました。それではインタビューをご覧ください!
Q. あなたが化学者になった理由は?
高校3年(1986年)の時に「分子模型で自由に分子構造を造る」という授業があり、その時に何となく炭素で切頂二十面体構造を造ってみたのですが、先生に「それ最近発見されたフラーレンだよ」と教えられて、化学に興味を持ちました(それまではあまり好きな教科ではなかったのですが)。大学に入ってからは、Hammett 則やHückel近似分子軌道法などが好きになり、化学は楽しいなと思うようになりました。
Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?
高校までは数列・漸化式とか微分方程式あたりの数学が好きで、数学者になりたいと思った時期もありました(ならなくて良かったかも知れないが・・)。今は生物システムに興味があるので、違った人生を歩むとしたら、分子生物学者になってみるのも良かったかも知れないと思います。
Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?
分子設計したペプチドの自己集合により、ウイルスの殻(キャプシド)構造やエンベロープウイルスレプリカ(キャプシドを脂質二分子膜で覆ったもの)を創って、DDS材料やワクチン材料に応用することを目指しています。また、光により集合・解離するペプチドを用いて人工細胞骨格を創ったり、稲葉准教授と共同で微小管内部に結合するペプチドを用いて微小管の構造・機能を制御したりしています(参照:松浦研HPの研究概要)。詳しくは、月刊「化学」2022年1月号の「ウイルスができることを全て化学でやる!」や、2023年9月号の「我が研究の源流」に書いていますので、関連リンクの記事も併せてよろしければご覧ください!
Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?
歴史上の人物とは話が合わなさそうなので、あまり夕食を共にしたくはないですが、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が実在していたなら、見てみたいです。このころの時代は色々謎なので。
Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?
ついこの前、学生のいない時にこっそりと学生実験の予備実験のために、ラジカル重合でポリ酢酸ビニルを作ってみました。たまに(確実にできる)実験すると楽しいです。研究ではmgスケールのものばかりなので、10gくらいの有機化合物の再結晶をするとストレス解消になります。
Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。
もし砂漠の島に取り残されたら、寂しいのでハードなロックを聞きたいです。昔聞いていた、ザ・スターリンの「虫」とかGASTUNK の「Dead song」とかは、論文がリジェクトされた時に今でもたまに聞きます。
Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。
学生時代の同期で今も同じ分野で活躍中の芹澤武さん(東工大)や、さきがけの同期だった上野隆史さん(東工大)をお薦めしておきます。お二人ともペプチドやタンパク質関連で楽しいものを創っています。
関連書籍
有機機能材料 基礎から応用まで (エキスパート応用化学テキストシリーズ)
松浦教授の略歴
名前:松浦 和則
所属: 鳥取大学学術研究院工学系部門 応用化学講座
専門: 生体高分子化学・ペプチド化学・超分子化学
略歴: 1996年東京工業大学大学院生命理工学研究科 博士課程修了、博士(工学)取得。同年名古屋大学大学院工学研究科 助手、2001年九州大学工学研究院 助教授・准教授を経て、2012年より現職。2006~2010年JSTさきがけ「構造制御と機能」研究者兼任。主な受賞として、科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞(2008年)、日本学術振興会賞(2012年)、日本化学会学術賞(2016年)、高分子学会三菱ケミカル賞(2019年)などがある。主な著書として、「有機機能材料―基礎から応用まで」(講談社サイエンティフィック)がある。
*本インタビューは2023年8月18日に行われたものです