第57回の化学者インタビューは、塩野義製薬株式会社・前川 雄亮 博士にお願い致しました。
前川さんは大阪大学基礎工学部にて博士号を取得された後、塩野義製薬に入社しました。その後は創薬化学者として王道のキャリアを歩んでいた・・・はずなのですが、ある時期になんとVTuber運用担当に任命されてしまうという、他にはない唯一無二の経歴をお持ちです。
塩野義製薬は業界内でもいち早くVTuber活動に着目し、顧客コミュニケーションを広げていくための一助としています。先駆的かつ優れた活動として、以前から筆者(副代表)自身も、この活動がどのような発展を見せていくか、成り行きを注視しています。
自らの強みを活かして広報畑へとキャリアチェンジを果たされた経験談、他ではそうそう読めない化学者インタビューとなっています。このあたりのお話は、第32回ケムステVシンポでもご講演を頂くことになっています。是非、今回もお楽しみ下さい!
Q. あなたが化学者になった理由は?
子供のころからモノ作りと理科が好きでした。小学校の頃はバーベキューの炭から炭素電極を作って電気分解をするという「コアな」子供でしたね。高校のころに、単純な元素から無限の化合物ができる有機化学に興味を持ちました。大学は推薦入学だったのですが、後で見せてもらった高校の推薦状には「幼いころより薬品に親しむ」と書かれていました。・・・間違ってはないですね。
Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?
工業デザイナーになりたいです。長い間デザインの勉強をしていて、美しくて機能的な製品にあこがれがあります。「与えられた制約条件の中で、最も目的に適ったものを創り出す」という工業デザインは、製薬におけるプロセス化学とも通じるところがあるのでとても興味深いと思っています。
Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?
誠に恐縮なのですが、実は「現在研究をしていない」です。
元々は有機化学専攻から、製薬会社に研究者として入社しました。当初はプロセス化学、つまり有効成分となる化学物質 (原薬) の生産方法を設定するための研究をしていました。
プロセス化学は、生産方法を大スケールで実証しながら、同時に治験などの開発に必要な原薬を供給する役割もあります。そのためには製造委託会社に依頼して、原料や中間体を製造してもらうことも多いです。研究所のキャリアの最後の方は、この委託製造の管理、つまり、海外を含めて委託会社を探して、選んで、見積を取って、契約の交渉をして、会議を進めるための裏方をやって、というチームに異動しました。
そこからさらに、デジタルインテリジェンス部というIT技術をベースとした新規事業を企画する部署に移動しました。この部署で「ITを活用した社会との新規接点の創出」という社内事業の公募で通った企画が持ち込まれまして、なんと会社の「VTuber」を作るお手伝いをすることになりました。アイデアを出した方と一緒に働き、紆余曲折の末「シオノギカナデ」というヘルスケア情報と歌声で人々を癒す「バーチャル社員」を世に出すことができました。今は弊社のシオノギカナデと一緒に仕事をしているという状態です。
このような新しい形での社会との接点は幅広い可能性を秘めていると思います。シオノギカナデの活躍がどう広がっていくか、チャンネル登録と高評価をしながら見守ってください。
民間企業にいてもニーズは幅広く、仕事は予想がつかないものですね。
Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?
日本の化学の祖、宇田川榕菴ですね。その当時の知識水準を聞いてみたいですし、未来の日本の化学がとても発展していることを知らせてあげたいです。
Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?
2017年の12月、ある化合物を温度上限で反応させても不純物の問題が出ないか確認する、とっても地味な実験だったと思います。
Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。
音楽ですとBill Evansの『Waltz for Debby』、本だと森見登美彦の『四畳半神話体系』 を挙げます。砂漠でそんなに能天気でいいのかとも思いますが。
Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。
特定の方ではありませんが、産業界で研究する若手研究者にスポットを当てていただければと思います。
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*本インタビューは2022年10月11日に行われたものです