第52回目の研究者へのインタビューは東京理科大学の和田猛先生にお願いいたしました。第23回ケムステVシンポの講師です。
昨今の核酸医薬の注目度の高さから、第一人者である同先生は大忙し。そんななかでも考古学や、音楽などの趣味を忘れない、大変アクティブな先生です。ベンチャー企業2社の創設者でもあり、一人何役こなしているのだろう?とただただ感嘆するばかりです。
それでは化学者になった理由からご覧ください!
Q1. あなたが化学者になった理由は?
少年時代は鎌倉の野山を駆け巡り、昆虫採集に明け暮れ、豊かな自然に囲まれて育ちました。理科が大好きで、将来理科の先生になりたいと思っていました。化学者となり、大学で有機化学を教えているのでその夢は叶ったと言えます。研究も教えることも大好きです。
Q2. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?
考古学者か地質学者か音楽家(フルーティスト)ですね。実は現在も趣味でこれらの活動、たとえば縄文時代の貝塚の調査や数十万年前の貝化石の発掘、楽器(独自に設計、開発した竹笛=東風笛)の製作と演奏を続けています。東風笛のYouTubeチャンネルを是非ご覧ください。考古学、地質学では遺物や化石から太古の人類の営みや当時の地球環境を知ることができ、実に雄大なロマンを感じます。音楽は自己表現とコミュニケーションの手段であり、私に生きる喜びを与えてくれます。
Q3. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?
核酸医薬の開発研究をしています。すなわち、「薬として働く人工核酸を有機化学的に創製する」研究です。新しい構造と機能を有する化学修飾核酸を合成し、様々な分野の研究者や企業と協力しながら最終的には医薬としての実用化を目指しています。大学の研究室で開発した有機合成反応をもとにベンチャー(Chiralgen社及びWave Life Sciences社)を起業し、日米で創薬研究を展開しています。現在、臨床研究段階にあるものも複数あり、これらが上市されれば研究者としての夢が実現することになります。
Q4. あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?
ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685-1750)です。バッハの音楽が何より好きで、どのようにしてあの芸術が生み出されたのか、夕食を共にし、ワインを飲みながら語り合いたいです。
Q5. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?
手元にある実験ノートを見てみたら1998年7月28日の記載がありました。助手時代最後の合成実験です。グリニャール反応で新しい保護基の原料となるアルコールを合成しており、収率は85%でした。実は、この時の構想が実現したのはつい先日のことです(RSC Adv. 2021, 11, 38094-38104. DOI: 10.1039/d1ra06619f)。我ながら執念深いです(笑)。
Q6. もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。
この質問には迷うことなく自作の竹笛(東風笛)と自分が編曲したバッハの楽譜を持って行くと答えます。私にとって音楽は生活の一部です。
Q7. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。
私と同年代の先生では、糖化学の梶原康宏先生(大阪大学)とタンパク質化学の津本浩平先生(東京大学)を推薦します。少し若手ですと、核酸化学の分野から、齊藤博英先生(京都大学)と阿部洋先生(名古屋大学)を推薦します。いずれの先生方もそれぞれの分野で超一流の研究をなさっています。
研究者の略歴
名前: 和田猛
所属: 東京理科大学 薬学部 生命創薬科学科
専門: 有機合成化学、核酸化学、糖化学、ペプチド化学
略歴: 1986年 東京理科大学理学部応用化学科卒, 1988年 東京工業大学大学院総合理工学研究科生命化学専攻修士課程修了, 1991年 東京工業大学大学院総合理工学研究科生命化学専攻博士課程修了(理学博士), 1991年東京工業大学生命理工学部生命理学科助手, 1999年 東京大学工学部化学生命工学科助教授, 1999年 東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻助教授, 2004年 東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻准教授, 2008年 (株)キラルジェン科学顧問(ファウンダー), 2013年 東京理科大学薬学部生命創薬科学科教授, 2013年 Wave Life Sciences取締役(ファウンダー), 2017年 Wave Life Sciences科学顧問, 2020年日本核酸化学会会長.