第49回の化学者へのインタビューは、学習院大学の秋山隆彦先生にお願いしました。
キラルブレンステッド酸として代表的なリン酸ビナフトール(秋山・寺田触媒)をもちいた不斉反応の開発の先駆けです。また、来週放映される第5回ケムステVプレミアレクチャーの講師です。
それではどうぞ!
Q. あなたが化学者になった理由は?
大学に入った時には、分析化学を専攻して南極観測船に乗り込みたいと思っていたことがありましたが、実際に実験をしてみると有機化学が一番面白く、有機化学を専攻しました。向山光昭先生から、オリジナルな仕事を行うことの重要性を叩き込まれ、その精神は今でも大事にしています。薬の合成に興味があり、一度企業(塩野義製薬株式会社)に入社し、メディシナルケミストリーに従事していましたが、反応開発の仕事がやりたかったことおよび大学での独立した研究に憧れて、退社して愛媛大学工学部の助手に異動しました。Stanford大学のTrost先生の研究室に留学させてもらって、海外での生活を1年経験しました。Trost研では、Stephen Hashmi (Heidelberg)、Mike Krische (UT, Austin)、Chao-Jun Li (McGill)、Chulbom Lee (Seoul National)らの研究者と知り合うことができ、世界が大きく広がりました。
Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?
歴史に興味があるので、歴史学者になって、ヨーロッパを回って、中世・近世史の研究を行なってみたい。
Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?
ブレンステッド酸を炭素―炭素結合形成反応の触媒として用いることができないかと考え、キラルリン酸が優れた不斉触媒能を有することを2004年に見出しました。その後は、キラルリン酸を用いた不斉触媒反応の開発を中心に研究を進めています。キラルリン酸を開発した当時は、幅広い種類の反応に適用できる汎用的な触媒になるとは全く想像できませんでした。未だに新たな不斉触媒反応が世界中から発表されています。リン酸の反応から手を引こうかと何度か考えたこともありますが、実験をすると様々な反応が見出され、常に驚き・新しい発見があり、ます。今後も、大量合成等の実用的に用いることができる反応、触媒の開発、並びに、金属触媒・光触媒等と組み合わせた反応の開発も行いたいと考えています。
Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?
ミケランジェロに会って、システィーナ礼拝堂の天井画や、祭壇のフレスコ画である「最後の審判」を作製した時の苦労話等を聞いてみたい。
Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?
1994年に38才で学習院大学理学部に助教授として赴任した後、4、5年は自分でも実験を行なっていました。1998年頃にアリルシラン、アリルゲルマンを用いた反応を行なったのが最後だと思います。
Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。
過去に途中で挫折した「ローマ人の物語」(塩野七生著)全17冊を読破したい。
[amazonjs asin=”B01LTI1Z0K” locale=”JP” title=”ローマ人の物語 全17冊セット (全15巻+「ローマ亡き後の地中海世界」上・下巻2冊)”]Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。
日本人では、長澤和夫先生、内山真伸先生。外国人では、Paolo Melchiorre (ICIQ, Spain)です。
秋山教授の略歴
学習院大学理学部化学科 教授
専門は有機合成化学
1980年に東京大学理学部を卒業後、東京大学大学院理学系研究科に進学、博士課程を1985年に修了。塩野義製薬株式会社に入社し、研究所においてβ-ラクタム系抗生物質の合成に従事。1988年より愛媛大学工学部資源化学科助手(尾崎庄一郎教授)。1992年より1993年に米国Stanford大学博士研究員(B. M. Trost教授)。1994年に学習院大学理学部助教授。1997年より現職。2018年より日本学術振興会 学術システム研究センター 主任研究員 兼任,2021年より有機合成化学協会会長。
日本化学会学術賞(2009年)、有機合成化学協会 第一三共・創薬有機化学賞(2009年)、名古屋シルバーメダル(2012年)、アメリカ化学会Arthur C. Cope Scholar Award(2016年)、フンボルト賞(2016年)、有機合成化学協会賞(2017年)
関連動画
2021年8月24日18時から秋山先生が講師である第5回ケムステVプレミアレクチャーが放映されます。ぜひ御覧ください。