第46回目の研究者インタビューです。今回のインタビューは第10回目のケムステVシンポ講演者の一人である、北海道大学の谷野圭持先生にお願いしました。天然物の全合成における日本のトップランナーの一人であり、多環性骨格を持つ複雑な天然物をオリジナリティーの高い手法により(目的の天然物のために新たな反応を開発!)非常に美しく創り上げています。
ケムステ内でもブラシリカルジン、パラウアミンの全合成をはじめとする様々な研究が紹介されており、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
今回のVシンポは「天然物フィロソフィ」とのことで、谷野教授の天然物合成における理念、こだわりが拝聴できるのではないかと筆者も非常に楽しみにしております。Vシンポに先駆けて、谷野教授の哲学が垣間見えるインタビューをご覧ください!
Q. あなたが化学者になった理由は?
物心ついた頃から、NHK教育テレビの理科番組が好きでした。親に買って貰った「理科実験の図鑑」を繰り返し見るうち、自分でやってみたくなり、10才の時に試験管・ビーカー・フラスコ・アルコールランプなど一式を入手しました。実験を始めると自室は薬品臭くなり、絨毯にシミが多数ついて、母親から激しい迫害を受けました(止めるくらいなら死ぬと抵抗)。今にして思えば、危険な実験もやっており、机の上で炎上した時は、自分のベッドの毛布をかぶせて消したことがあります。それでも、実験さえしていれば楽しくて、趣味はこれのみに絞られました。高校でも化学部でしたが、コンクールや発表会には興味もなく、学校なら水流ポンプが使い放題(自宅ではもったいないと叱られた)なのが魅力でした。自然な成り行きから大学で化学科に進学し、研究さえできるなら企業でも全く問題なかったのですが、恩師の桑嶋先生から勧めて頂いて大学教員になりました。
Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?
理科以外では日本史や考古学に興味があったので、化学との出会いがなかったなら、そちらの進路もあったかと思います。今でも、中国やヨーロッパを中心に、歴史には関心があります。
Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?
天然物合成と反応開発が主です。当研究室では1テーマ1人なので、人数分の研究題目が走っています。最近は異分野との共同研究も増えてきました。興味が湧くとのめり込む性格なので、臨機応変(出たとこ勝負)でやっていくと思います。
Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?
お話を伺ってみたいのは後桜町天皇です。情報は少ないのですが、とても興味深いお方と思います。
Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?
31才で助手だった時です。末端アルキンのリチオ体が、Pd/Cで水素添加できないか試しました。今でも実験室に入り浸っていますが、実験はせずに見ているだけです。
Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。
フルメンバーだった頃のTOKIOです。
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未登場でしたら、化学的にもエンタメ的にも九州大学の友岡克彦先生をお勧めしたいと思います。
関連リンク
- 谷野研究室
- 第10回ケムステVシンポ「天然物フィロソフィー」
- 世界の化学者データベース「谷野圭持 Keiji Tanino」
- 3 回の分子内共役付加が導くブラシリカルジンの網羅的全合成
- 海洋天然物パラウアミンの合成
谷野教授の略歴
北海道大学 大学院理学研究院 化学部門 教授
専門は有機合成化学
1985年に東京工業大学理学部を卒業後、東京工業大学大学院理工学研究科に進学。博士課程を1989年に中退し東京工業大学理学部助手(桑嶋 功 教授)に着任。1994年に博士(理学)を取得。1998年北海道大学大学院理学研究科に助手(宮下 正昭 教授)として移られ、1999年同助教授を経て、2006年より現職。
有機合成化学奨励賞(2000年)、Mukaiyama Award(有機合成化学協会)(2007年)、名古屋シルバーメダル(2011年)、日本化学会 学術賞(2013年)、北海道大学研究総長賞(2013年)
*本インタビューは2020年8月22日に行われたものです