[スポンサーリンク]

日本人化学者インタビュー

第42回「激動の時代を研究者として生きる」荘司長三教授

[スポンサーリンク]

さて、第42回目の研究者インタビューです。今回は第6回ケムステVシンポの講演者である、名古屋大学の荘司長三先生にお願いしました。専門は生物無機化学で、金属酵素を用いるバイオ触媒反応の開発、人工金属酵素触媒の開発、細菌の鉄獲得阻害剤の開発などを研究されています。

インタビュー内でも述べていますが、デコイ分子を用いたP450の活性化によるP450酸化反応が特に有名です。名古屋大学時代の同僚だったので個人的にもよく知っているのですが、人柄よく、講演もうまいので、今回のケムステVシンポでも大変面白い講演が聞けるのではと楽しみにしています。

それではインタビューをどうぞご覧ください!

Q. あなたが化学者になった理由は?

子供のころからキラキラ反射して光る石や金属を見たり触ったりするのが好きで、よく拾って集めていたので、物質というものに惹かれていったのだと思います。

化学を選んだ理由は、やはり何かを作ることができるからで、モノを作り続けていきたいという思いから「化学者」を志したのだと思います。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

パイロットです。飛行機を操縦して空を飛びたいという思いは今も変わらないです。戦闘機も操縦してみたいです。

僕らの世代は、トップガン(トム・クルーズ主演の映画)の影響を受けていると思います。まだやったことはないですが、パラグライダーやパラセーリングなどもやってみたいと思っています。

[amazonjs asin=”B00G9U1518″ locale=”JP” title=”トップガン (字幕版)”]

Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?

酵素を誤作動させる分子(デコイ分子)の設計と誤作動状態を使った高難度物質変換に取り組んでいます。室温でベンゼンをフェノールに、エタンをエタノールに変換する酵素反応系を実現してきました。

細菌にデコイ分子を取り込ませることで、細菌をそのまま使う物質変換もできるようになりました。デコイ分子に構造がそっくりなホルモンが存在し、そのようなホルモンもデコイ分子として利用できることから、デコイ分子のような低分子化合物によって酵素が誤作動し、本来の反応とは全く異なる反応が促進されるということが、生体内でも普遍的に起こっているのでは?と期待しています。酵素反応系の開発を行いながら、細菌や植物などへのデコイ分子の影響を調べ、新しい切り口の研究を開拓しようとしています。

また、合成金属錯体を補足させた人工金属蛋白質の開発も行っていて、人工金属蛋白質を用いることで、合成金属錯体を選択的に細菌に取り込ませることができるようになってきました。合成金属錯体を細菌の中で利用する物質変換に展開し、上述のデコイ分子の化学と融合させることを目論見ながら、試行錯誤を繰り返しています。

Q. あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

なかなか一人に絞ることができないのですが、頭に浮かぶのは「戦国武将」や「明治維新(幕末)の志士」ですね。

「歴史上の人物と夕食を共にする」というのは、ある意味「タイムマシンを使って行ってみたい時代はいつ?」と解釈することもできるのかと思いますので、時代が大きく動いた時に戻って、その時代の人物たちと話してみたいなあと思います。時代が大きく動いているときは、既成概念が崩れ、何が正しいのか?すら分からなくなる状況であるわけで、自らの信念に従って生き、自分が信じた道が結果的に間違いとなってしまったとしても、後悔することがないぐらい突き進むという覚悟は必要なのかなと感じます。iPhoneなどのモバイル端末が急速に発展したこの10年間、新型コロナウィルスに苦しみ試行錯誤しながら新しい生活様式を模索している現在も、時代が大きく動いている最中だと思います。人の移動、情報の発信や伝達がこれまでの時代に比べて圧倒的に早い現代は、技術に適応する柔軟性、瞬時に判断し決断、実行する瞬発力、そして高い独創性と創造力が求められる時代であると思っています。

1000年後にあの人と夕食を共にしたいといわれるような研究者を目指して、自分が面白いと思うオリジナリティーの高い研究を進めていきたいと思っています。今は、映像を残すことができるので、未来の人に動画でメッセージを残すこともできるよい時代ですね。戦国時代にYouTubeがあったら相当個性的な動画が残っていることになっていたでしょう。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

蛋白質の結晶をループで拾って凍結させるという作業なのですが、2019年が最後だと思います。ただ、これからも必要に応じて蛋白質結晶を扱う実験はすると思っています。

Q. もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

音楽:長渕剛 小学生のころから聞いているので。苦しくなると聞きたくなります。

本:サバイバルの仕方の本 無人島での生活などには子供のころから憧れがありましたので、砂漠の島という状況で楽しく生きる方法を最後までしぶとく考えたいです。

[amazonjs asin=”B00JO25IQ6″ locale=”JP” title=”Tsuyoshi Nagabuchi All Time Best 2014 傷つき打ちのめされても、長渕剛。 (通常盤)”] [amazonjs asin=”B078YQSZGV” locale=”JP” title=”サバイバル読本 (サクラBooks)”]

Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

梅野太輔 先生(千葉大学)です。

関連リンク

荘司教授の経歴

名前:荘司長三

所属: 名古屋大学大学院理学研究科

専門: 生物無機化学、生体機能関連化学

略歴:1993年千葉県立木更津高等学校後、千葉大学工学部応用化学科に入学、1997年同大学卒業後、同大学大学院自然科学研究科に進学、2002年博士(工学)指導教官:中平隆幸教授,論文題目:ポリ(L-グルタミン)系高分子における側鎖発色団間配向と励起エネルギー移動。2002年より科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 博士研究員、2004年奈良先端科学技術大学院大学 物質創成化学研究科 博士研究員(小夫家芳明教授)2005年名古屋大学 物質科学国際研究センター 博士研究員(渡辺芳人教授)途中、日本学術振興会 特別研究員 SPDを経て、2007年 名古屋大学 物質科学国際研究センター特任助教 2008年同大学助教、2013年准教授に昇任、2019年より現職。2012年4-7月 ドルトムント工科大学(ドイツ連邦共和国)研究員 2015年12月~ 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(CREST)「多様な天然炭素資源を活用する革新的触媒の創製」研究代表も兼任

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 第44回―「N-ヘテロ環状カルベン錯体を用いる均一系触媒開発」S…
  2. 第50回「非二重らせん核酸は生物種を超えて生命を制御できるか」建…
  3. 第96回―「発光機能を示す超分子・ナノマテリアル」Luisa D…
  4. 第40回「分子設計で実現する次世代バイオイメージング」山東信介教…
  5. 第161回―「C-H官能基化と脱芳香族化を鍵反応とする天然物合成…
  6. 第13回 化学を楽しみ、創薬に挑み続ける ―Derek Lowe…
  7. 第18回「化学の職人」を目指すー京都大学 笹森貴裕准教授
  8. 第153回―「ネットワーク無機材料の結晶学」Micheal O&…

注目情報

ピックアップ記事

  1. Stephacidin Bの全合成と触媒的ヒドロアミノアルキル化反応
  2. 結晶格子の柔軟性制御によって水に強い有機半導体をつくる
  3. テトラメチルアンモニウム (tetramethylammonium)
  4. 山東信介 Shinsuke Sando
  5. 自在に分解できるプラスチック:ポリフタルアルデヒド
  6. レア RARE 希少金属の知っておきたい16話
  7. トムソン・ロイターのIP & Science事業売却へ
  8. 有機機能性色素におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用とは?
  9. 新しい選択的ヨウ素化試薬
  10. 人物でよみとく化学

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年7月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

硫黄と別れてもリンカーが束縛する!曲がったπ共役分子の構築

紫外光による脱硫反応を利用することで、本来は平面であるはずのペリレンビスイミド骨格を歪ませることに成…

有機合成化学協会誌2024年11月号:英文特集号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年11月号がオンライン公開されています。…

小型でも妥協なし!幅広い化合物をサチレーションフリーのELSDで検出

UV吸収のない化合物を精製する際、一定量でフラクションをすべて収集し、TLCで呈色試…

第48回ケムステVシンポ「ペプチド創薬のフロントランナーズ」を開催します!

いよいよ本年もあと僅かとなって参りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。冬…

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール–アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール–アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

【日産化学 26卒/Zoomウェビナー配信!】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 キャリアマッチングLIVE

3日間で10領域の研究職社員がプレゼンテーション!日産化学の全研究領域を公開する、研…

ミトコンドリア内タンパク質を分解する標的タンパク質分解技術「mitoTPD」の開発

第 631 回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院 生命科学研究科 修士課程2…

永木愛一郎 Aiichiro Nagaki

永木愛一郎(1973年1月23日-)は、日本の化学者である。現在北海道大学大学院理学研究院化学部…

11/16(土)Zoom開催 【10:30~博士課程×女性のキャリア】 【14:00~富士フイルム・レゾナック 女子学生のためのセミナー】

化学系の就職活動を支援する『化学系学生のための就活』からのご案内です。11/16…

KISTEC教育講座『中間水コンセプトによるバイオ・医療材料開発』 ~水・生体環境下で優れた機能を発揮させるための材料・表面・デバイス設計~

 開講期間 令和6年12月10日(火)、11日(水)詳細・お申し込みはこちら2 コースの…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP