さて、今回は第40回目の研究者インタビューです。インタビューをお願いしたのは第5回ケムステVシンポの講演者、山東信介先生。バイオイメージング、非天然ペプチドやペプトイドを用いた創薬、人工増殖因子など幅広くケミカルバイオロジー研究を展開されています。
研究対象が非常に広いため、人によっては山東先生がやられていることに対するイメージが大きく異なるのではないでしょうか?第5回ケムステVシンポではそのうちの一つであるバイオイメージングに関する研究をご講演していただきます。過去には同位体標識分子のNMRを用いたバイオイメージング研究でCRESTの研究代表を務められています。研究もさることながら、非常に明るい人柄で、座談会を楽しみにしている学生さんも多いのではないでしょうか。本記事や今後掲載する世界の化学者データベース、関連記事も参考にして座談会に応募してください!それではインタビューをお楽しみください!
Q. あなたが化学者になった理由は?
化学者とは決めていなかったですが、小さい頃から何かものづくりの分野でプロフェッショナルな人になりたいと思っていました。これは、実家が鉄工所だったことに関係しているかもしれません。化学が好きで合成科学科に進学しましたが、学問としての化学に目覚めたのはかなり遅く、研究室に配属されてからです。新しいものを自分の手で作り出せる化学の魅力にとりつかれました。
Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?
もう一度人生をやり直すとしても、おそらく研究者を選ぶと思います。もし化学者でないなら、宇宙開拓に関する仕事につきたいですね。宇宙の大きさ、その中で人類が到達した範囲の小ささを実感するたびに、無限の可能性を感じます。重力を打ち破って宇宙に飛び出すロケットを間近でみたい!
Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?
一貫して、生体関連化学、特に生体系で働く機能分子のデザインに関する研究を進めてきました。分子レベルで生命の精巧な仕組みの本質を理解することが究極のモチベーションです。Richard Feynman先生の”What I cannot create, I do not understand”という言葉は、本質を大事にしたい研究室のコンセプトにぴったり当てはまります。
現在は、大きく分けて2つの研究を進めています。1つは体の中で起こっている化学反応(つまり代謝)を分子レベルで理解し、制御する分子技術の開拓です。例えば、核スピン偏極分子センサーなど、生体代謝を速度論で計測するための技術の開拓を目指しています。今後は、生体代謝を計測するだけでなく、制御する分子を開拓し、未知の生体代謝ネットワークを明らかにするとともに、その制御を目指した阻害剤・薬剤の開発を展開していきます。
もう1つは、生体機能分子の開発に関する研究です。生体分子の精巧さは、知れば知るほど感動ものです。研究室では、ペプトイドや細胞増殖因子など、PPI阻害や細胞工学などの応用に向けて多様な生体機能分子の開発を進めています。ただ、その本質は、生体系で実現できている生体相互作用や酵素活性などの「機能の本質」を理解し、De Novoでデザインしたいというところにあります。DNA Encodingをもとにした分子進化工学はもとより、近年のComputationの爆発的な発展は生体機能分子設計を加速させています。今後10年でこれらの研究は飛躍的な発展を遂げ、「生体機能」の本質の理解につながると期待しています。
Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?
またその理由は?
多すぎて絞ることが難しいです。あえて化学に関係がない人から選ぶとすると、天文学者のカール・セーガン。一緒にお酒を飲みながら、食事をしてみたいですね。「Pale Blue Dot」の話をかわきりに、サイエンスと思想の関わりについて議論してみたい。
[amazonjs asin=”B004W0I3LW” locale=”JP” title=”Pale Blue Dot: A Vision of the Human Future in Space (English Edition)”]Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?
実験をやろうとして手がけたことは最近でもありますが、本当に最後までやったのはずいぶん前だと思います。正確な日は覚えていないですが、実験を諦めた出来事は覚えています。学生にバイオ実験のTIPSを教えようと全員の前で実演していたのですが、あまりのブランクにうまくいかず。。。信じてもらえないかもしれませんが、昔は実験がうまかったんですよ。
Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。
星空は綺麗なはずなので、それにあうバックミュージックでしょうか。でも、そんな心の余裕は絶対にもてないと思います。
Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。
ケミカルバイオロジーの分野で同じ年代だと、清中茂樹先生(名古屋大)、三好大輔先生(甲南大)、花岡健二郎先生(東大)、後藤佑樹先生(東大)を挙げたいと思います。ケミカルバイオロジーの将来についてよく話すメンバーです。それと、大学時代からの腐れ縁というのがぴったりな植村卓史先生(東大)も是非。
関連リンク
*本インタビューは2020年6月12日に行われたものです