[スポンサーリンク]

日本人化学者インタビュー

第41回「合成化学で糖鎖の未知を切り拓く」安藤弘宗教授

[スポンサーリンク]

さて、今回は第41回目の研究者インタビューです。今回も前回に引き続き第5回ケムステVシンポの講演者にお願いしました。今回は、安藤弘宗先生です。糖鎖化学を専門としており、これまでに実現できなかった複雑な糖鎖や糖脂質の合成、その機能を解明する研究も行われています(共同研究も含む)。

ペプチドや核酸医薬品が注目される中、専門外の人からすると、糖鎖の研究って重要なの?と思われる方もいるかも知れません。糖鎖の研究をする筆者からも一言いわせてください。重要なんです。第3の生命鎖と言われる糖鎖は、細胞表面上で分子の認識をしていたり、タンパク質や脂質と結合し(糖タンパク、糖脂質)様々な活性を示します。糖鎖はほとんどすべての生命現象に関わっていると言っても過言ではないわけです。第5回ケムステVシンポではその糖鎖の合成や機能に関する研究をご講演していただきます。Vシンポ併催の座談会では、今年から発足した東海国立大学機構の糖鎖生命コア研究拠点(iGCORE)の拠点長に就かれた安藤先生とで直接話せるめったに無い機会なのでこちらもぜひ応募してみてください!それではインタビューをお楽しみください!

 

Q. あなたが化学者になった理由は?

恩師である故長谷川明先生(岐阜大・農学部)との出会いです。大学入学当時は、流行だったバイオテクノロジーに興味があったのですが、三年生の時に有機電子論の講義を聞いて、本当の化学の面白さに触れた気がしました。その後、立体化学の講義で長谷川先生の威光に触れ、糖鎖化学の研究に進むことを決意しました。今の大学では想像できないのですが、先生の板書は長谷川文字と言われるほど解読に難渋しましたが、「研究で世界を目指す」という熱い思いが共鳴したのだと思います。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

「何故だろう」と深く考えたり、新しい知識に触れることは分野に関係なく昔から好きでした。しかし、これまで明確な将来像を持たずに、流れ重視でここに辿り着きましたので、すぐに思いつかないのですが、敢えて言えば、芸術家(歌手、演奏家、画家、書家など)でしょうか。自分にはその才能が無いので憧れます。または、興味から言えば、言葉が好きなので、言語学者でしょうか。でも、こちらも才覚に恵まれないと食べていけないので、憧れですね。唯一自信があるのは、ものまねですので、これならいけるかもと少し思います。学生時代まではもちろんのこと、アメリカに留学していたころは研究室の教授やスタッフのものまねで色々な国籍のメンバーを笑わせていました。芸術家というより芸人向きということですかね。でも、どの道も深く険しいのは間違いないと思います。

Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?

糖鎖の合成化学を基軸とした糖鎖機能の解明、応用を研究しています。と言っても、私の研究室は「つくる」専門です。糖鎖を自在に合成することで、糖鎖生物学の世界観を変えていくというスタンスです。自分自身は器用ではありませんので、「餅屋は餅屋」方式、パン作りやケーキ作りには手を出さないようにしています。ここ10年の熱いテーマの一つが、細胞膜の微小領域である「脂質ラフト」の実態と機能の解明研究です。1分子イメージングの先端研究者である楠見明弘先生(OIST)、鈴木健一先生(岐阜大)と進めています。複雑な糖脂質(特にシアル酸という単糖を含むガングリオシド)の合成技術を精錬したことで、未知の世界が垣間見えてきました。今後もやはり商店街方式で研究者の色々な強みを結合させた糖鎖研究を展開したいと考えています。本年度から名古屋大学と岐阜大学は東海国立大学機構という新しい大学法人の傘下となり、機構の研究力を強化するための機構直轄の研究拠点として、糖鎖生命コア研究拠点(Institute for Glyco-core Research: iGCORE アイジーコア)が設立しました。ここでは、糖鎖の分野に限らず、両大学から化学、生物、物理を始めとする様々な領域の研究者が結集しています。あろうことか、私が拠点長を仰せつかりましたので、各分野の妙味を上手くブレンドした糖鎖研究を展開したいと考えています。分子レベル→細胞レベル→個体レベルでの階層的視点から複雑な糖鎖の機能を読み解きたいと思います。「多様性に真理を観る」が目標です。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

そうですね、岐阜ということで今年の場合は、明智光秀公と答えるのが満点解答なのかもしれませんが、西郷隆盛公です。歴史家の評価はどうであれ、日本人の精神を体現した傑出の大人物だと尊敬しています。外国であれば、お釈迦様です。私は仏教徒ではありませんが、科学の次元を超えて本質を見抜いた偉人の謦咳に接したいと思います。でも、何を口にされるのかも興味があります。本格インド料理屋かココイチかで迷います。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

平成30年の11-12月です。論文に加える実験例の為の基質合成をしました。フコースという単糖のグリコシド化と保護基変換、それからシアル酸誘導体の合成です。全部で7ステップくらいですかね。その時、合成した化合物を入れたバイアル瓶を失くしたと思い、大騒ぎしていたら、「これじゃないですか?」って、実験台の上で無造作に転がっている無記名のバイアル瓶を研究員が見つけてくれました。そこには、ちゃんとものが入っていました、、、、、、、、。何かを悟った瞬間です。「先生、そういうことありますよ」という慰めの言葉もかけてもらい、温泉で溺れるような気分でした。でも、やはり楽しかったです。研究室のスタッフや学生さんには嫌がられるかもしれませんが、まだ挑戦したい研究があるので、空いた時間と空いたベンチを虎視眈々と狙っています。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

広辞苑です。言葉の海の中で過ごします。想像力(妄想力?)には、自信がありますので。

Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

そうですね、恩師をはじめ尊敬する先生、先輩は沢山いらっしゃるので、敢えてこれまでに私に多大な刺激をくれた下の年代の研究者を申し上げると、九州大の平井剛さん、慶応大の高橋大介さん、京都大の古川修平さんです。

関連リンク

*本インタビューは2020年6月22日に行われたものです

Macy

投稿者の記事一覧

有機合成を専門とする教員。将来取り組む研究分野を探し求める「なんでも屋」。若いうちに色々なケミストリーに触れようと邁進中。

関連記事

  1. 第166回―「2次元量子材料の開発」Loh Kian Ping教…
  2. 第81回―「均一系高分子重合触媒と生分解性ポリマーの開発」奥田 …
  3. 第32回 液晶材料の新たな側面を開拓する― Duncan Bru…
  4. 第二回 伊丹健一郎教授ー合成化学はひとつである
  5. 第43回―「均質ナノ粒子の合成と生命医学・触媒への応用」Taeg…
  6. 第43回「はっ!」と気づいたときの喜びを味わい続けたい R…
  7. 第173回―「新たな蛍光色素が実現する生細胞イメージングと治療法…
  8. 第八回 自己集合ペプチドシステム開発 -Shuguang Zha…

注目情報

ピックアップ記事

  1. トマス・リンダール Tomas R. Lindahl
  2. カンプス キノリン合成 Camps Quinoline Synthesis
  3. 反応機構を書いてみよう!~電子の矢印講座・その2~
  4. 指向性進化法 Directed Evolution
  5. ゲームを研究に応用? タンパク質の構造計算ゲーム「Foldit」
  6. 第5回慶應有機化学若手シンポジウム
  7. 研究室でDIY!~エバポ用真空制御装置をつくろう~ ⑤ 最終回
  8. 含『鉛』芳香族化合物ジリチオプルンボールの合成に成功!②
  9. 「ELEMENT GIRLS 元素周期 ~聴いて萌えちゃう化学の基本~」+その他
  10. 辻 二郎 Jiro Tsuji

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー