半年ぶり、そして第34回目の日本人化学者インタビューは 忍久保洋 教授 (名古屋大学大学院工学研究科)より頂きました。第11回にインタビューを受けた金井求先生のご紹介です。
忍久保先生は、有機金属反応の開発のバックグラウンドをもちながら、有機π電子化合物の合成とくにポルフィリン様な化合物に注目し、π共役有機分子の効率的変換反応の開発と、新規π電子化合物の設計と機能性・反応性の開拓を行っています。研究室HPの研究概要にある言葉、
どんなに優れた分子をデザインしても、合成できなければ絵に描いたもちです。忍久保研では、様々な反応を駆使し分子を実際に手にする有機合成を重視します。また、自らが合成した分子の構造を明らかにし、その物性や機能を開花させるための研究を行います。
が、忍久保先生の研究を物語っており、共感できます。今回、忍久保研究室の研究結果がプレスリリースされており、スポットライトリサーチに博士学生の野澤さんにお願いしたため(記事はこちら)、back to backでの公開となります。いつもながら、化学者になった理由からお聞きしていますので、ぜひ御覧ください。
Q1. あなたが化学者になった理由は?
テレビと本の影響が大きいです。小学校低学年の頃、よく風邪を引いて学校を休んでいました。
そんな時は、よくテレビを見ていたのですが(寝てろというツッコミはおいといて)一番好きだったのが、NHK教育テレビの高校化学でした。もちろん意味は分かりませんでしたが、色が変わったり、ものが燃えたり、本格的な実験の映像を見ることができたからです。実験って面白そうやなぁと思いました。それで、なんとなく白衣を着て実験する人に憧れたわけです。あとは、中学生のときにブルーバックスだったか、元素についての本を読んで、元素や化学について興味をもったのも大きいです。
[amazonjs asin=”4062578050″ locale=”JP” title=”元素111の新知識 第2版増補版 (ブルーバックス)”]Q2. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?
以前に某ジャーナルのインタビューでも答えたのですが、「料理人」ですね(しかし、ラーメン限定ではありません)。
料理は単に栄養があるというだけでなく、人を幸せにしたり、感動させたりできます。化学と同じように創造性に富んでいます。素材と調味料と料理法により広がる無限の可能性は、有機化学と同じだと思います。しかも、生成物が食べられる!
研究室のメンバーに一年に2回手料理を振る舞うのですが、どのように素材を料理しようか考えていると楽しいです。研究者も料理人もこの人でなければという「味」が出せるかというのが勝負みたいなところがありますね。その点も似ていると思います。
Q3. 現在、どんな研究をされていますか?また、どのように展開していきたいですか?
現在の主な研究はポルフィリンに似て非なる化合物の合成、構造、機能の研究です。有機金属や反応開発をやってきてポルフィリンをやっているのはちょっと変わっていると思います。その立ち位置を活かして、本流の研究者がやらないようなことをやりたいと考えてきました。これまでは新しい化合物を生みだすことを目指してきましたが、今後は有機合成にこだわりつつ、材料や医療も含めていろいろな分野に挑戦したいと思っています。
Q4.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?
反芳香族π電子系間の相互作用に興味があるので、化学結合の本質ということでポーリングにはご意見を伺いたいです。あと、芳香族・反芳香族の研究をしているのでヒュッケルですね。その後の、π電子科学の発展をみてどう思うでしょうね。
Q5. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?
数ヶ月前にちょっとアイディアがあって反応を仕込みましたが、後処理にすらたどりつけませんでした。もう一度トライしたいです。
ちゃんとやったのは名大に移ってきたときに、学生実験でクロスカップリング反応を取り上げたくて、実験手順を検討したときです。学生実験で実施できるレシピを作るのは本当に難しいです。今でもスタッフや学生さんが毎年試行錯誤してます。
Q6.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。
ベートーヴェンの交響曲がどれも好きですが、1つだけ選べというと第九でしょうか。何回聞いても飽きませんし、一緒に歌うこともできますから(以前合唱をやって今でも歌詞は覚えています)。
[amazonjs asin=”B00UI9C75E” locale=”JP” title=”ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」”]Q7. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。
一回インタビューを受けた人はダメなんですか・・・伊丹さんなんか一回じゃ足らないでしょ?学者として尊敬する大須賀先生とか。学者ってこうでなくてはと思います。近くだと浦口さん。反応と触媒に対する美学がハンパない。
関連リンク
- 忍久保研ホームページ [Shinokubo’s lab HP]
- Author Profile – Hiroshi Shinokubo. Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201207020
忍久保 洋先生の経歴
1992年京都大学工学部卒業後、同大学院に進学し、1994年に 修士課程修了(大嶌幸一郎教授)。1995年に 同大学院工学研究科博士課程中退、 京都大学工学部助手となる。1998年 博士(工学)の学位取得(京都大学)。2003年に京都大学大学院理学研究科助教授(大須賀篤弘教授)となり、2008年より名古屋大学大学院工学研究科教授、現在に至る。受賞は、1999年有機合成化学協会研究企画賞、2001年Bulletin of the Chemical Society of Japan賞2001年日本化学会「若い世代の特別講演」2004年日本化学会進歩賞、2008年 Banyu Young Chemist Award 2008、2009年平成21年度文部科学大臣表彰若手科学者賞、2012年平成23年度日本学術振興会賞 2013年有機合成化学協会DIC機能性材料賞など多数。専門は構造有機化学・有機金属化学。遷移金属触媒反応を活用した有機π電子化合物の創成・新規π電子化合物の設計と機能性・反応性の開拓・光エネルギーの効率的変換を指向した機能性分子の設計など。