大好評の研究者へのインタビュー。第19回目は京都大学理学研究科准教授の依光英樹先生にお願いしました(2015年7月1日に同大学院教授に昇任されました。おめでとうございます。)。第10回の若宮先生、第18回の笹森先生からのご紹介です。個人的な意見ですが依光先生を含めたこの3人の京都大学の先生方は非常にアグレッシブで化学に熱く、次世代の有機化学をリードする研究者だと思っています(当然3人とも仲もとても良いです)。依光先生は主に有機合成反応の開発がご専門。最近では、所属している大須賀研究室の影響を受け、新反応を駆使した新規π電子系分子の創出にも力をいれています。いつも爽やかに化学を語る依光先生。慣例に習い、なぜ化学者になったのかその理由から聞きたいと思います。
Q. あなたが化学者になった理由は?
人生の分かれ目は3回あったと思います。3回というよりは3人ですかね。
一人目は高校一年の化学の先生。30歳ぐらいで某化学メーカーを退職してやってきた新任の先生で、一生懸命に授業をされるその姿に心を打たれてその先生を好きになり、それから化学はいいなと思いました。小さい頃から実験少年だった、とかいう理想的なことは全くありません。ただ、高知の田舎育ちなので、自然相手の遊びには事欠きませんでしたが。
二人目は父親ですね。私は中学校から英語が好きで(英語の先生に恵まれた)、将来は漠然と外交官になりたい、と思っていました。交渉とか情報収集とか全く向いていないので、やめといてよかったです。高校二年生になる直前に、ずっと単身赴任でほとんど顔を合わせることのなかった父親に「文系にするわ」と一言伝えると、「文系はアホが行くところやから理系にしとけ」という暴言を返され、くやしくて特に反論することもなく素直に理系に進みました。工業高校卒で建設の現場に携わっていた父には科学技術が日本を支えているというプライドがあったんでしょうね。そのあと大学に入るまでずっと「土木工学はどうや?」と言われ続けましたね。
まあ、それにはいつもの調子で反発して京大工学部工業化学科に進んで、大嶌先生にお会いできたのが化学者、研究者として生きることを決めた最終かつ最大の理由です。
Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?
なる願望でよければ、なんらかの芸術家でしょうね。人を驚かせたい、感動させたい。それに尽きます。ただ、美術も音楽も全くセンスがない。小学一年の息子の方が絵も歌もうまい。小説家の方がまだいいでしょうかね。現実的な路線だと、最先端技術開発に携わるエンジニアですね。リニアとかMRJとか聞くと日本の技術がんばれと心躍ります。
Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?
新しい有機合成反応の開発と新しいπ電子系分子の創出を両輪として研究しています。
反応開発の方では、今は主に硫黄の特性を活かした反応に注目しています。多様な酸化状態を安定にとり得る硫黄にはまだまだ潜在的な能力があると感じています。「硫黄の化学を温故知新」がマイブームです。もちろんラジカルや遷移金属触媒は引き続き大好きですので、いろいろ組み合わせて遊んでいます。
新分子創出の方では、ヘテロ原子を含んだ平面型π電子系骨格の創出と機能開拓を目指しています。まだこれと言って目新しいものはできていないのですが、π電子系分子を合成していて「こういう反応がない」と頻繁に気付かされるのが今の楽しみです。新反応にせよ、新分子にせよ、心に残るものを見つけたいですね。そんなに簡単に見つかるものではありませんが5年に1回ぐらいは新しい概念を生み出すようなものが見つかれば御の字と思っています。
Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?
山本五十六とか東郷平八郎とか、命を懸けて国家の存亡を担った人とお話ししたいですね。皆の命を預かる方はどのようなお人柄なのか、そのリーダーシップの源を感じ取りたい。日本の向かうべき方向性についてもお尋ねしたい。腹の据わったご意見をいただけるかと。最近だと松平容保も気になります。
Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?
実験ノートを片手にノスタルジーに浸れる機会を作っていただきありがとうございます。2006年11月にアリル化のための基質を作っていますね。最後の実験ノートではほとんど原料合成しかしていない。どこかの段階で、学生の実験にはかなわない、邪魔したらあかん、と悟り現役引退しました。大宮(現北大澤村研准教授)、平野(現阪大三浦研助教)を筆頭に鬼神のごとく実験をしていましたから。
Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。
最近O先生からお借りして読んだ「等伯 」は、感動のあまり自分でも買って二回目読み直しています。空から見える地上絵でも書いて、自分がこの島にいた証を残したいです。けどやっぱり30度きざみの線画しか書けないような気がします。
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Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。
ナンヤン工科大学の千葉俊介先生。東北大学の磯部寛之先生。大阪大学の三浦雅博先生。三者三様の魅力でインタビューにはもってこいかと。磯部先生とは同門なので推薦するのは少し躊躇しますが、きっと楽しい素顔を見せていただけると思います。
依光先生ありがとうございました。
関連リンク
- 京都大学理学研究科化学専攻集合有機分子機能研究室(大須賀研究室)
- 三井化学株式会社 | 研究・技術 | 三井化学 第5回 触媒科学国際シンポジウム(MICS2011)開催レポート
- ポルフィリン類の高効率自在合成法の開発(PDFファイル)
- 京都大学 教育研究活動データベース
依光英樹准教授の経歴
京都大学大学院理学研究科化学専攻 准教授 (2015年7月より同大教授)
主とする研究は新規有機合成反応の開発とそれに基づく新分子・新現象の創出
1997年京都大学工学部工業化学科卒業後、同大学院に進学し2002年修了(工学博士)。同年、東京大学大学院理学系研究科化学専攻JSPS博士研究員(中村栄一教授)を経て、2003年京都大学大学院工学研究科材料化学専攻助手となる。2008年同大学院准教授となり、2009年より現職、今に至る。主な受賞は2009年日本化学会進歩賞、2011年文部科学大臣表彰 若手科学者賞、三井化学触媒科学奨励賞など。
*本インタビューは2013年3月に行いました。