少し前ですが、スペインICIQのRuben Martinグループから面白い反応が報告されていました。論文はこちら。
分子変換自体はある意味なんということのない、CO2を使った臭化アルキルのカルボキシル化反応です。
以下のようにテストに出たら貴方はどうしますか?
Grignard試薬にすればえーやん、て感じでしょうか。
でも彼らの回答は、ニッケル触媒だったんです。
しかも、アルデヒドより先にCO2と反応したり、β水素脱離が遅かったり、ちょっと常識破りなんです。
Martinらの回答。(論文より引用)
おっとβ水素があるよ。テストならこの時点でバツなのでは。
遷移金属触媒を使っている人なら、アルキルパラジウムとかニッケルとかはすぐβ水素脱離するイメージがあるんじゃないでしょうか。
最近はNi触媒を使ったアルキル‐アルキルカップリングもよく見るので、まぁスピード勝負なのかなと思わないこともないですが、
それでも私にはなかなか高い壁のように感じます。
しかしMartinらは、おそらく経由するだろうアルキルニッケル種からのβ水素脱離を、かなり抑えることに成功しています。詳しくは論文を見ていただきたいのですが、配位子の効果が劇的。
ほうほう、じゃあアルキルニッケルが超反応性高くてβ水素脱離の前にすぐCO2と反応するんかいな、と思いきや、基質のテーブルにはエステルがずらり。
ケトン、果てはアルデヒド部分があっても耐えてる。
……いやいやちょっと待って。なんでそんな化学選択性がでるんすか。
CO2は不活性分子として載ってるくらいなのに。。。
少なくともアルデヒドよりは反応性低いと信じてたんですが。。。
触媒系は最近はやりの一電子還元(Niの一価を経由するタイプ)を基に設計されていて、その辺りにタネがあるのかもしれません。
実はNiの一価からβ水素脱離する系って見たことないし。
あるいはCO2とNiは酸化的付加することが知られているので、それが絡んでいて、そもそも私が想像しているような求核反応じゃないのかも。
いや、単純に配位子のチカラ?
すーぱーはいいし、ネオクプロイン属?
うーん。
CO2って実際のところ、どのくらいの反応性なんでしょうね。
熱力学的には安定なんですが、立体障害が少ないことを考えると、意外と速度論的には……?
そんな風にも思えてしまいます。そもそも有機溶媒中のCO2濃度っていかほどなのかしら。
昔かさ高いケトンを優先的に還元する銅触媒(というか配位子;こちら)がちょっと話題になりましたが、あんな風に、反応性の順序をひっくり返す仕掛けというのはいつも非常に興味がそそられます。
大きなことを言えば、こうやって反応機構とか、電子の動きに想いを馳せるのが有機化学者的ロマン……だったりするんですかね。
ロマンといえば余談ですが、ペルセウス座流星群は好天にめぐまれず私のところからはあんまりでした。
皆さんは見えましたか?