食塩の成分としてよく知られているナトリウム。しかし、単体のナトリウムは非常に反応性の高い金属であり、化合物は意外と知らないところにも多用されています。
ナトリウムの基本物性データ
分類 | アルカリ金属、ミネラル |
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原子番号・原子量 | 11 (22.98977) |
電子配置 | 3s1 |
密度 | 968kg/m3 |
融点 | 97.81℃ |
沸点 | 863℃ |
硬度 | 0.5 |
色・形状 | 銀白色・固体 |
存在度 | 地球2万3000ppm、宇宙 5.74 x 104 |
クラーク数 | 2.63%(6位) |
発見者 | ハンフリー・デービー(1807年) |
主な同位体 | 23Na (100%), 24Na(β, 14.9590時間) |
用途例 | 食塩(NaCl)、高速増殖炉の冷却材(Na)、旨味成分(グルタミン酸ナトリウム)、漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)、石鹸、メタルハロゲンランプ |
前後の元素 | ネオンーナトリウム−マグネシウム |
ナイフで切ることができる金属
ナトリウム化合物は古代から食塩(NaCl)として知られていましたが、実際に単離されたのは1807年です。デービーが、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム, NaOH)を電気分解することで単離しました。
金属ナトリウムは銀白色光沢のある固体で、軟らかく、ナイフで切ることができます。
金属であるにも関わらず、室温で水よりも軽く(比重0.97)、温度が上昇することでさらに軽くなります。水と接触すると激しく反応し、水素と水酸化ナトリウムになります。その激しさは、ナトリウムをひとつかみ川に放り込むと大きな水柱が立つほどです(やってはいけません)。そのためナトリウムは、水と触れないように石油中で保存されます。
食品に使われるナトリウム化合物
食品に使われるナトリウム化合物といえば、代表的なものはやはり塩化ナトリウム(NaCl)でしょう。よく食品の栄養成分に[ナトリウム Xg]と記載されています。ほとんどが食塩なのですが、[食塩 Xg]と記載しないのは、医学的、栄養学的にみて私達の体に影響をあたえるのはナトリウムであるからです。
ナトリウムの分子量は23、塩素の分子量は35.5ですから、記載されているナトリウム量から食塩NaClの量を知るためには、
食塩=ナトリウム量✕2.54*
*[ナトリウム(23)+ 塩素(35.5)] / ナトリウム(23) = 2.54
で算出できます。
と、今まではこのように表示されていましたが、2015年4月の食品表示法の改定により、ナトリウムの食塩相当量とその他を別に表示するように改定されました。つまり、食塩表示に逆戻りし、算出式もいらなくなりました。ナトリウム表示があまり受け入れられなかったのかもしれません。ただ、ナトリウム塩を添加していない場合は、任意でナトリウム量と食塩相当量を記載することができます。
ナトリウムはミネラルの一種で、カリウムと同様に細胞外壁の浸透圧が一定になるように調整するほか、神経伝達、筋肉の収縮、体液のpH値を調節するといった働きがあります。ただし、過剰摂取は高血圧などの原因となります。
食品に使われるナトリウム化合物としては食塩のほかにも、アミノ酸のナトリウム塩である、例えば昆布などの旨味成分であるグルタミン酸ナトリウム、アスパラギン酸ナトリウムがあります。また、ベーキングパウダーで知られる膨張剤として、炭酸水素ナトリウムもあります。
さらに、食品ではありませんが、漂白剤として次亜塩素酸ナトリウムが、ベーコンの色を鮮やかにみせる発色剤として亜硝酸ナトリウムが使われています。
高速増殖炉の冷却材として
ナトリウムの沸点は約880℃です。金属としては低い沸点ですが、もちろん水の沸点(約100℃)よりは高い値です。
軽水炉と呼ばれる原子炉では冷却材として水を使用していますが、水の沸点は低いため、原子炉に圧力をかけて水の沸点を抑えなければなりません(圧力釜と同じ仕組みです)。そこで、福井県敦賀市にある高速増殖炉「もんじゅ」では、冷却材として水の代わりにナトリウムを用いています。高速増殖炉は発熱量が多く、水では冷却が間に合わないからです。ナトリウムの場合は高温で運転できると共に、沸騰を防ぐために高い圧力をかける必要もありません。さらに、中性子が衝突してもあまり減速しないため、中性子を高速に維持することができます。
素晴らしい技術で一方で、1995年に起きたナトリウム漏れ事故以来、ほとんど動いておらず、維持費は年間200億円。「夢の原子炉」と謳われたこの高速増殖炉の進退について現在も議論が続いています。
石鹸をつくるために
石鹸は高級脂肪酸*とナトリウム(カリウム)の化合物です。石鹸は古代から、動植物の油に水の灰(アルカリ)を混ぜあわせて作られていました。最も標準的なものはステアリン酸のナトリウム塩である、ステアリン酸ナトリウム。
一般的な石鹸の作り方は、油(グリセリンなど)に水酸化ナトリウム水溶液を加えて煮ます。これにより、油の末端のエステル基カルボン酸はカルボン酸の塩となります(けん化)。これはカルボン酸の酸素とナトリウムがイオンとなっているので、水に溶けやすくなります(親水基)。炭素鎖の長い油の方は、そのままなので油に親しみやすい(親油基)。つまり親水基と親油基を有する物質(界面活性剤)となり、油汚れを取り込んで汚れを落とします。
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