[スポンサーリンク]

元素

フッ素 Fluorine -水をはじく?歯磨き粉や樹脂への応用

[スポンサーリンク]

 猛毒の気体から単離されたフッ素。水や油をはじくテフロン樹脂に利用されているほか、医薬品の重要な置換基でも有り、多種多様な利用があります。

 

フッ素の基本物性データ

分類 ハロゲン
原子番号・原子量 (18.9984)
電子配置 2s22p5
密度 1.696kg/m3
融点  –219.62℃
沸点 –188.14℃
硬度
色・形状 淡黄色・気体
存在度 地球 950ppm、宇宙843ppm
クラーク数  0.03%(17位)
発見者 ジョセフ・アンリ・モアッサン(1886年)
主な同位体 19F(100%)
用途例 フッ素樹脂(テフロンなど)、歯磨き剤(NaF)、冷媒(フロン)、医薬品(有機フッ素化合物)
前後の元素 酸素ーフッ素ーネオン

単離が困難で反応性が高い元素

自然界には蛍石(フッ化カルシウム:CaF2)や氷晶石(Na3AlF3)などのフッ素化合物が存在します。このようなフッ素化合物は、シェーレらによっても発見されていましたが、フッ素字体の単離は非常に困難を極めました。その理由は、単体のフッ素が毒性が高く、非常に危険な物質であったためです。

2016-06-13_05-26-16

 

1886年にフランスの化学者モアッサンが、フッ化カリウム(KF)をフッ化水素(HF)に溶かし、それを電気分解することでようやくフッ素の単離に成功しました。フッ素は電気陰性度が元素の中で最も大きく、ヘリウムとネオン以外のすべての元素と反応する非常に反応性の高い元素です。

 

ジョセフ・アンリ・モアッサン

2016-06-13_05-27-34

1852–1907年。フランスの化学者。パリ大学教授。多くの化学者が挑戦し失敗したフッ素の単離に成功。しかし、その実験中に片目を失明した。この他、3500℃という高温まで加熱することができる炭素電極を用いたアーク式電気炉の開発者としても知られている。フッ素単離の功績により、1906年ノーベル化学賞を受賞した。

 

虫歯を予防するフッ素

フッ素(正確にはフッ化物。フッ素のナトリウム塩。フッ化ナトリウム)は現在売られているほとんどの歯磨き剤の中に入っています。虫歯予防、すなわち歯質と歯垢細菌に対して効果があるといわれているからです。歯の表面に作用し、虫歯菌の作る酸に溶けにくい抵抗性のある歯質にします。

また、虫歯の極初期では、フッ素が再石灰化を促進し、酸に溶けた部分のエナメル質を補修し、耐酸性を向上させます。

もっとも、フッ素は日常の食べ物にたくさん含まれています。特に日本食にはフッ素が豊富です。高濃度のフッ素は体に害があるため、食事とは別にフッ素を取ることはかえって体によくないという意見もあります。また食べたからといって虫歯になりにくいなんてことはありません。

フッ素をよく含む食品(これら以外にも多くの食品に含まれている)

フッ素をよく含む食品(これら以外にも多くの食品に含まれている)

 

 

水や汚れをはじくテフロンコーティング

テフロンは米国デュポン社の登録商標で、ポリテトラフルオロエチレン(フッ素樹脂の一種)です。構造的には、食品容器や放送用フィルムで使われているポリエチレン(エチレンが重合したもの)の水素が、すべてフッ素原子に置き換わった構造をしています。フッ素原子が隙間なく埋め尽くす構造が他の分子を寄せ付けないのです。また炭素とフッ素の原子間結合力が大きいため、相対的に相手分子とのくっつきやすさ(分子間力)が小さくなります。つまり、分子間力が小さいため滑りやすく、ものがくっつきません。それ以外にも熱に強い、耐腐食性、耐摩耗性があるなどさまざまな特徴があります。

テフロン加工のフライパンは焦げ付きにくく、水や汚れを弾くので洗うのも簡単です。それ以外にも、水を弾く傘、キャンプや建築用のテントなどにも、テフロン加工がなされています。

2016-06-13_05-48-01

医薬品にも含まれる

フッ素は医薬品にもよくみられる元素です。実に市販の医薬品の30%近くにフッ素がはいっており、大活躍。フッ素は水素と原子半径が近いにも関わらず、電気陰性度が全く異なり、かつ安定であるという性質をもっているため、医薬品候補化合物の改善に効果的です。

 

2016-06-13_06-00-44

フッ素を含む医薬品の代表例

 

フッ素に関するケムステ記事

関連書籍

[amazonjs asin=”4782707274″ locale=”JP” title=”フッ素化学入門2015″]

 

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 172番元素までの周期表が提案される
  2. 交響曲第6番「炭素物語」
  3. MEXT-JST 元素戦略合同シンポジウム ~元素戦略研究の歩み…
  4. 【予告】ケムステ新コンテンツ「元素の基本と仕組み」
  5. 硫黄 Sulfurーニンニク、タマネギから加硫剤まで
  6. いつ、どこで体内に 放射性物質に深まる謎
  7. 新元素、2度目の合成成功―理研が命名権獲得
  8. クリスマス化学史 元素記号Hの発見

注目情報

ピックアップ記事

  1. 分子モーター Molecular Motor
  2. ブラシノステロイド (brassinosteroid)
  3. Ming Yang教授の講演を聴講してみた
  4. 「誰がそのシャツを縫うんだい」~新材料・新製品と廃棄物のはざま~ 1
  5. 2023年度 第23回グリーン・サステイナブル ケミストリー賞 候補業績 募集のご案内
  6. ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン:Benzo[1,2-b:4,5-b’]dithiophene
  7. ショウリョウバッタが吐くアレについて
  8. ウラジミール・ゲヴォルギャン Vladimir Gevorgyan
  9. 塩化ラジウム223
  10. ケンダール・ハウク Kendall N. Houk

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年6月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

先端の質量分析:GC-MSおよびLC-MSデータ処理における機械学習の応用

キャラクタライゼーションの機械学習応用は、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)およびラボオートメ…

原子半径・電気陰性度・中間体の安定性に起因する課題を打破〜担持Niナノ粒子触媒の協奏的触媒作用〜

第648回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科(山口研究室)博士課程後期2年の松山…

リビングラジカル重合ガイドブック -材料設計のための反応制御-

概要高機能高分子材料の合成法として必須となったリビングラジカル重合を、ラジカル重合の基礎から、各…

高硬度なのに高速に生分解する超分子バイオプラスチックのはなし

Tshozoです。これまでプラスチックの選別の話やマイクロプラスチックの話、およびナノプラスチッ…

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー