周期表では炭素の隣にありますが、一般にはあまりなじみが無いホウ素。単体としてはあまり利用されていませんが、化合物になると多種多様な利用があるのです。
炭素の基本物性データ
分類 | 半金属、半導体 |
---|---|
原子番号・原子量 | 5 (10.811) |
電子配置 | 2s22p1 |
密度 | 2340kg/m3 |
融点 | 2092℃ |
沸点 | 3927℃ |
硬度 | 9.3 |
色・形状 | 黒色・固体 |
存在度 | 地球 10ppm、宇宙21.2 |
クラーク数 | 0.001% |
発見者 | ハンフリー・デービー、ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサック、ルイ・ジャック・テナール(1808年) |
主な同位体 | 10B(19.9%)、11B (80.1%) |
用途例 | 耐火ガラス(パイレックス)、ガラス繊維、うがい薬、ホウ酸団子、水素化ホウ素化合物、カップリング剤 |
前後の元素 | ベリリウムーホウ素ー炭素 |
白く、炭素に似ている元素?
人類は古くから、ホウ砂(Na2[B4O5(OH)4]・8H2O)をガラスやエナメルの原料として利用していましたが、その中に未知の元素が含まれていることに気づきませんでした。
ホウ素は、1808年にゲイ=ルサックとテナール、またデービーによってホウ砂から得られたホウ酸から同時に単離されました。ホウ素(boron)という名前はデービーによって、ホウ砂(borax:アラビア語の「白い」にちなむ)と炭素(carbon)に性質が似ているということから名付けらえました。ただ、単体のホウ素は黒色固体なので、いま考えればおかしな名前ですね。
もっとも、命名者のデービーよりもゲイ=リュサックとテナールの方が数日間早く発見しているので、本当の発見者はゲイ=リュサックとテナールになります。
ルイ・ジャック・テナール
1777-1857年。フランスの化学車。1800年代はじめ、ゲイ=リュサックとともにホウ素の発見、単離を行った。その他顔料のコバルトブルー(アルミン酸コバルト、テナールブルーとも呼ばれる)の開発者としても知られている(1802年)。
ゴキブリ退治に!ホウ酸団子
ホウ酸ダンゴは、ゴキブリなど雑食昆虫・小動物の好物であるジャガイモ・タマネギ・小麦粉、砂糖、米ぬかなどに、毒餌としてホウ酸を混ぜてダンゴ状に成形したものです。現在では市販品も多く、ホウ酸の含有量もさまざまです。作用機序についてはよくわかっていませんが、ゴキブリがは脱水症状をおこして死んでしまうともいわれています。その死骸や糞をまた他のゴキブリが食べることにより、同じ作用を及ぼすという、2次的な効果もあります。
このホウ酸ダンゴを有名にしたのは、岐阜県池田町の町ぐるみでのゴキブリ撲滅大作戦でした。
住民がタマネギ主体のホウ酸ダンゴを作り、一斉に各家においたところ、町内からゴキブリを一匹残らず追い払うことができたそうです。いまではその経験を元に会社を設立し「ゴキブリキャップ」というホウ酸ダンゴを発売しています。
[amazonjs asin=”B007QPAVVK” locale=”JP” title=”ゴキブリキャップ 15個入”]
ホウ素を混ぜると耐火ガラスに
石英ガラスの軟化点を下降させ、膨張係数をなるべく小さく保つために酸化ホウ素を添加したのがケイホウ素ガラスで、その代表がパイレックスガラスです。ガラス細工が容易で、急加熱、急冷却にも耐えるので、理化学実験用として優秀なガラスです。
ダイヤモンドにつぐ硬度ー炭化ホウ素
単体のホウ素も黒色固体で非常に硬い物質ですが、炭素Cとの化合物である炭化ホウ素(B4C)は、さらに硬い物質です。鉱物の硬度の基準にモース硬度*がありますが、ダイヤモンドが最高位の15であるのに対し、炭化ホウ素は14と、2番目の硬度を有しています。
その性質を利用して、武器の表面処理や、原子炉の中性子吸収材である中性子制御棒などに利用されています。
ホウ素でノーベル賞ーリプスコムとブラウンと鈴木章
ホウ素に関する研究によりノーベル賞を得た化学者はこれまで3人。アメリカの化学者リプスコム(Willam Nunn Lipscomb)はホウ素と水素の化合物であるボランの構造に関する研究により1976年に、同様にアメリカの化学者ブラウン(Herbert C. Brown)は酵素化合物を用いた有機合成反応の開発により、1979年にそれぞれノーベル化学賞を受賞しています。
そして、2010年には北海道大学名誉教授の鈴木章氏が有機ホウ素化合物をもちいたパラジウム触媒クロスカップリング反応(鈴木ー宮浦クロスカップリング)の開発でノーベル化学賞を受賞しました。
ホウ素に関するケムステ関連記事
- ボリルメタン~メタンの触媒的ホウ素化反応
- フッ素をホウ素に変換する触媒 :簡便なPETプローブ合成への応用
- インドールの触媒的不斉ヒドロホウ素化反応の開発
- 光学活性有機ホウ素化合物のカップリング反応
- メタルフリー C-H活性化~触媒的ホウ素化
- ハートウィグ・宮浦C-Hホウ素化反応 Hartwig-Miyaura C-H Borylation
- ホウ素-ジカルボニル錯体
- ホウ素ーホウ素三重結合を評価する
- ロジウム(I)触媒を用いるアリールニトリルの炭素‐シアノ基選択的な切断とホウ素化反応
- ホウ素から糖に手渡される宅配便
- ホウ素と窒素で何を運ぶ?
- 遷移金属を用いない脂肪族C-H結合のホウ素化
- このホウ素、まるで窒素ー酸を塩基に変えるー
- 触媒的C-H活性化型ホウ素化反応
- ピリジン-ホウ素ラジカルの合成的応用
- カルボン酸をホウ素に変換する新手法
- ホウ素は求電子剤?求核剤?
- 三核ホウ素触媒の創製からクリーンなアミド合成を実現
- この窒素、まるでホウ素~ルイス酸性窒素化合物~
- 宮浦・石山ホウ素化反応 Miyaura-Ishiyama Borylation
- 不斉アリルホウ素化 Asymmetric Allylboration
- ブラウンヒドロホウ素化反応 Brown Hydroboration
- 水素化ホウ素ナトリウムを使う超小型燃料電池を開発
- ボロン酸の保護基 Protecting Groups for Boronic Acids
- 炭素をBNに置き換えると…
- ボルテゾミブ (bortezomib)
- アクティブボロン酸~ヘテロ芳香環のクロスカップリングに~
- ウィリアム・リプスコム William N. Lipscomb Jr.
- ボリレン
- ジメシチルフルオロボラン:Dimesitylfluoroborane
- ハーバート・ブラウン―クロスカップリングを導いた師とその偉業
- ハーバート・ブラウン Herbert C. Brown
関連動画
- ホウ素単体を抽出してみる
- ホウ素の炎色反応
- ホウ素中性子捕捉法の動画(住友重機械)