最も基本的な元素として知られている水素。爆発性があり、なんだか危なそうなイメージもありますが、近年では「環境に優しいエネルギー源」としてたいへん注目されています。
水素の基本物性データ
分類 | 非金属 |
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原子番号・原子量 | 1 (1.00794) |
電子配置 | 1s1 |
密度 | 0.0899kg/m3 |
融点 | –259.14℃ |
沸点 | –252.87℃ |
硬度 | – |
色・形状 | 無色・気体 |
存在度 | 地球 1520ppm、宇宙2.79 x 1010 |
クラーク数 | 0.87% (9位) |
発見者 | ヘンリー・キャベンディッシュ(1766年) |
主な同位体 | 1H(99.9885%)、2H(0.0115%)、3H(β, 12.33年) |
用途例 | 代替エネルギー源(H2)、燃料電池の原料(H2)、冷却材(液体水素)、同位体のへの利用(D)、細胞の発光材料(T)、化合物間の水素結合、核融合反応(T)、アンモニア合成(H2) |
前後の元素 | なしー水素ーヘリウム |
最も小さな元素
水素は元素の中で最も小さな元素です。陽子は1つで、中性子を持っていません。1766年イギリスの化学者キャベンディッシュが単離し、ギリシャ語で「水を生ずるもの」という意味から名付けられました。地殻での元素の存在割合を表すクラーク数は全体で9位ですが、地球表面には酸素との化合物である水(H2O)として多く存在しています。
さらに、宇宙においては最も豊富に存在する元素で、総量数では約90%を占めており、宇宙空間だけでなく木星のような惑星も主成分は水素で構成されています。
ヘンリー・キャベンディッシュ
1731-1810年。水素が可燃性の気体で、燃焼時に水を生じることを証明した。その他クーロンの法則、オームの法則、ヒ素の合成など多くの大発見をしたが、全く発表を行わなかったという変わった人物。
彼の業績をたたえ、1874年英国ケンブリッジ大学にキャベンディッシュ研究所が設立された。歴代所長には電磁場方式で知られるマクスウェルや、原子核を発見したラザフォードなどがいる。
新しいクリーンエネルギーとして
現在多く使われているガソリン、石油などの化石燃料、その枯渇が叫ばれ初めて多くの年月がたっていますが、最近、化石燃料に変わる環境に優しいエネルギー源として水素エネルギーが注目されています。
水素の単体である、水素分子H2は最も軽い気体であり、酸素と反応しエネルギーを放出します。その際、生成物として水(H2O)しか放出しないので、環境に優しいのです。ただ現在、水素は主に化石燃料により作られています。これでは結局、化石燃料を用いていることと同じと言えるかもしれません。そのため、水素の製造から貯蓄、エネルギー変換技術までを含めた総合的な水素エネルギーシステムの確立が研究されています。
2014年に日本は、「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を発表して、2040年を目標にCO2フリーの水素供給システムを全国に展開する構想を明らかとしています。現在の用途は、工業プロセスへの利用がほとんどですが、今後、様々なところで水素をエネルギーとした新しい製品が実用化されていく予定です。
水の電気分解の逆ー燃料電池
燃料電池は、「電池」と呼ばれていますが、乾電池のように使い捨てでなく、原料である水素(H2)と酸素(O2)が供給されれば永久に使用することができるため、「発電機」と呼ぶ方が適切かもしれません。
燃料電池の発電原理は非常に簡単で、水の電気分解の逆の化学反応を利用します。水の電気分解は自ら水素と酸素を作り出すわけですが、燃料電池では、水素と酸素が化学反応を起こし、水と電気エネルギーを放出するわけです。
実はこのような原理は最近になって発明されたものではありません。遠い昔の1839年にイギリスのグローブ(W.Grove)が、白金を電極、希硫酸を電解質としたグローブ電池により、水素と酸素から電気を取り出す燃料電池の原理を発明しています。同じ原理を利用した電池は、1965年に人類を初めて月に送ったアプロ宇宙船にも搭載されていますし、工業的な大型燃料電池はすでに製品化されています。ではなぜいまさら注目されたかというと、やはり、水しか生成しない環境に優しいエネルギーであるということと、近年の携帯機器の発達に伴い、バッテリーの重要性が高まっているからでしょう。燃料電池は水素さえ供給すればいちいち発電せずとも長時間駆動できるからです。
空気中にある酸素O2と天然ガスなどから得られる水素を利用して化学反応を起こす。電池内では、空気極に酸素、燃料極に水素が供給され、電極中の触媒の働きで水素イオンとなり、電解中の触媒の働きで水素イオンになり、電解質中で水素イオンのやりとりが行われる。
2014年12月15日トヨタ自動車が「MIRAI(ミライ)」という世界初の燃料電池自動車(Fuel Cell Vehicle:FCV)を発売しました。水素タンクと燃料電池を車載し、水素ステーションから水素を補給する仕組みです。2016年3月にはホンダも「CLARITY(クラリティ)」というFCVを発売予定となっています。
2009年より発売されている、家庭用コージェネレーションシステム「エネファーム」も燃料電池を使った製品です。エネファームは「エネルギー」と「ファーム(=農場)」を合成した造語であり、都市ガスから取り出した水素と、大気中の酸素を化学反応させて電気をつくり、その熱を活用しお湯をつくる仕組みとなっています。
3つの同位体
水素(1H)は元素の中で唯一、中性子を持たない元素ですが、中性子をもつ重水素(2H:略号D)、トリチウム(3H:略号T)の3つの同位体が知られています。
重水素は1932年にアメリカの化学者ハロルド・ユーリー(Harold C. Urey)により発見され、この功績により、彼は1934年のノーベル化学賞を受賞しています。水素と比べて約2倍の重さがあるため、この重さの違い(同位体効果)によっておこる化学的・物理的効果を利用し化学反応への利用など様々な研究が行われています。
もうひとつの水素の同位体であるトリチウムは、天然からほとんど得ることができないため、原子炉内でリチウムに中性子照射して作られています。現在主に、分子生物学の実験において放射性同位体元素標識*として利用されています(トリチウムラベル)。
水素の同位体で現在もっとも力を入れて研究されているものは、重水素とトリチウムを利用することで莫大なエネルギーを得ることができる核融合反応です。核融合反応はほぼ無尽蔵のエネルギー源として、今世紀中の実用化が期待されています。
重水素とトリチウムの陽子である、重陽子dと三重陽子tを高速で衝突させると融合反応が起こり、17.3MeVもの大きなエネルギーが放出される。
*放射性同位体元素標識:トリチウムは非放射性の化合物とはほぼ同じ挙動を示すため、ある一部分を放射性同位体元素によって標識することで、いろいろなびっ質の生体内での代謝経路や試験管内での反応を追跡するために利用できる。
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