今年もノーベル賞とイグノーベル賞の季節がやってきました。今年もケムステではどちらについても全速力で記事を発表します。イグノーベル賞の受賞式は、昨年同様オンラインで9月15日朝に開催されました。まず今年は化学賞が復活しました!さらに各分野のユニークな研究がこのイグノーベル賞を受賞しましたのでそれぞれ紹介させていただきます。
化学・地質学賞(10:15から)
なぜ多くの科学者は岩を舐めるのが好きなのかの解明
Jan Zalasiewicz
分析機器が発達していなかった時代は、岩や化石を舐めて味によって分類を行うことが行われていたそうです。特に地質学者であったジョヴァンニ・アルドゥイーノは、いくつかの岩石について味について言及しており、ある岩は酸味のある辛味のような味と記録を残しています。
トロフィー授与は1993年にノーベル生理学・医学賞を受賞したリチャード・ロバーツが行いました。インタビューでは、受賞者に岩を舐める実演をしてもらったり、マークがロバーツ教授に化学者も岩を舐めるのが好きなのかと尋ねて、きっぱりとNOと答えていたりと面白いやり取りがありました。
栄養学賞(56:10から)
食べ物の味を変えることができる電気を流した箸とストローに関する実験
東京大学学際情報学環 中村裕美 特任准教授と明治大学総合数理学部 宮下芳明 教授
本研究では、微弱な電流を流すストロー・箸・フォークによって飲食物の味を変えることを行いました。その後の研究では、実際に減塩の食生活を行っている方を対象に臨床試験を実施し、減塩食を食べた際に感じる塩味が1.5倍程度に増強される効果を確認しました。
トロフィー授与は1996年にノーベル生理学・医学賞を受賞したピーター・ドハーティーが行いました。インタビュー中には中村・宮下両先生より、この技術を用いた製品が今年中に商品化されることが発表されました。宮下教授は、加えて9Vの電池を舐めたことがあるかと聞くと、ビデオダイレクターのBruceさんはいつも機器に使う前にやっているよと答え、偶然にも化学賞の内容とリンクした会話がありました。
【プレスリリース】 明治大学 総合数理学部 宮下芳明教授らがイグ・ノーベル賞(栄養学)を受賞 https://t.co/qiAtN1n8pG
— 明治大学 (@Meiji_Univ_PR) September 14, 2023
薬学賞(41:45から)
左と右の鼻に同じ量の鼻毛があるかどうが死体を用いた調査
Christine Pham, Bobak Hedayati, Kiana Hashemi, Ella Csuka, Tiana Mamaghani, Margit Juhasz, Jamie Wikenheiser, and Natasha Mesinkovska
The quantification and measurement of nasal hairs in a cadaveric population
本研究では、鼻毛に着目しその量や長さを調べ、円形脱毛症の患者が良く経験するアレルギーや上気道感染症との関連を調べました。
トロフィー授与は2007年にノーベル経済学賞を受賞したエリック・マスキンが行いました。授賞式の会話はもちろん鼻毛に関することで、マスキン教授からどうしてこのようなテーマの研究を行ったかと尋ねると、受賞者は脱毛症になると全員の毛が抜け、それは鼻毛も例外でなくそれによって更なる疾患が引き起こされてしまうことからこの研究を行っていると答えました。
Dr. Natasha Mesinkovska opened our eyes to yet another effect from #COVID19 – hair loss, from stress or COVID itself. #CalDermFallSymposium#Covid_19 #hairloss #dermatology #dermatologists #medicaleducation #dermtwitter pic.twitter.com/ZLrEFeE6sO
— CalDerm (@Cal_Derm) September 24, 2021
工学賞(19:01から)
死んだ蜘蛛のメカニカルグリッピングツールとしての復活
Te Faye Yap, Zhen Liu, Anoop Rajappan, Trevor Shimokusu, and Daniel Preston
この研究では、死んだ蜘蛛にシリンジを使って油圧装置を作り、UFOキャッチャーのように蜘蛛の足を操り物体を自由に掴んだり放したりすることに成功しました。
トロフィー授与は、2001年と2022年にノーベル化学賞を受賞したバリー・シャープレスです。Necroboticsという名前の由来などについてシャープレス教授は受賞者らに尋ねていました。
物理学賞(1:10:02から)
ニシンの生殖活動による海洋水が混合される範囲の測定
Bieito Fernández Castro, Marian Peña, Enrique Nogueira, Miguel Gilcoto, Esperanza Broullón, Antonio Comesaña, Damien Bouffard, Alberto C. Naveira Garabato, and Beatriz Mouriño-Carballido
Intense upper ocean mixing due to large aggregations of spawning fish
この研究では、海洋調査によってニシンの生殖活動がどの程度海洋水を混合しているかを調べました。
トロフィー授与は、2001年にノーベル物理学賞を受賞したヴォルフガング・ケターレです。同じ物理学の専門家同士であり、研究内容に関する議論を繰り広げていました。解説動画も凝ったものでユニークな内容でした。
Premio Ig Nobel para un estudio español sobre la marejadilla causada por el frenesí sexual de las anchoas
Beatriz Mouriño-Carballido está encantada con el premio. “Esta es la investigación más sexy de mi carrera” https://t.co/tsZ13rHDjE
por @rlimong en @el_pais— Borja Adsuara Varela ⚖️ (@adsuara) September 15, 2023
公衆衛生学賞(31:19から)
スタンフォードトイレ:様々な技術を持つデバイスを搭載したトイレの発明
Seung-min Park
A mountable toilet system for personalized health monitoring via the analysis of excreta
Digital biomarkers in human excreta
Smart toilets for monitoring COVID-19 surges: passive diagnostics and public health
この研究では、トイレに尿検査や排便を分析するためのコンピュータービジョンシステム、お尻の穴で個人を識別するためのカメラ、通信リンクを搭載し、人の排泄を迅速に分析するシステムを発明しました。
トロフィー授与は、2021年にノーベル生理学・医学賞を受賞したアーデム・パタプティアンです。パタプティアン教授はトイレのTシャツを着て登場し、受賞者もノリノリでトロフィーと賞金授与に参加しており、両者ともこのイグノーベル賞を楽しんでいることが分かる内容でした。
🎉🚽 Honored to win the #IgNobelPrize2023 in Public Health for our smart healthcare toilet! Gratitude to mentors & visionaries like Prof. Gambhir. Here’s to finding profound solutions in unlikely spots, with a sprinkle of laughter. #HealthcareInnovation #UnexpectedResearch pic.twitter.com/2oKDWyaQvO
— Seung-min Park (@SeungminPark_) September 14, 2023
ここまでが、理系の受賞でした。ここまででも面白い発表がたくさんありますが、もちろん文系の発表も見ていきます。
文学賞(15:05から)
人が同じ単語を何度も繰り返した時に感じる感覚についての研究
Chris Moulin, Nicole Bell, Merita Turunen, Arina Baharin, and Akira O’Connor
The the the the induction of jamais vu in the laboratory: word alienation and semantic satiation
この研究では、被験者に対して同じ言葉を繰り返し唱えてもらい、どこかで違和感を感じたかどうか調べました。
トロフィー授与は、2012年にノーベル経済学賞を受賞したアルヴィン・ロスです。授賞式の最後には、研究内容に因んでマークが受賞者に対してTheと言い続けてと提案し、それに応えて二人がTheと言い続けて終わっています。
コミュニケーション賞(36:05から)
逆さ言葉のプロの精神活動に関する研究
María José Torres-Prioris, Diana López-Barroso, Estela Càmara, Sol Fittipaldi, Lucas Sedeño, Agustín Ibáñez, Marcelo Berthier, and Adolfo García
Neurocognitive signatures of phonemic sequencing in expert backward speakers
この研究では、逆さ言葉を自由に操るプロの脳でどのようなことが起きているのかニューロイメージングなどを用いて調べました。
トロフィー授与は、2019年にノーベル経済学賞を受賞したエステル・デュフロです。授賞式では終始、各国の逆さ言葉事情について話し合っていました。
教育賞(1:01:41から)
退屈な生徒と教師の系統的な研究
Katy Tam, Cyanea Poon, Victoria Hui, Wijnand van Tilburg, Christy Wong, Vivian Kwong, Gigi Yuen, and Christian Chan
この研究では、生徒が想定する退屈がその後の講義中に本当に感じる退屈を強めるかどうかと、教師が感じる退屈が生徒が感じる退屈に影響が出るかどうか調べました。
トロフィー授与は、2008年にノーベル化学賞を受賞したマーティン・チャルフィーです。終始、チャルフィー教授と受賞者は、退屈な生徒について熱い議論を交わしていました。
Very honored to receive the Ig Nobel Prize with Wijnand van Tilburg and @ChristianChanHK ! Truly amazing to know that our boredom research doesn’t bore people, but it makes people laugh and then think! Thank you @improbresearch @MarcAbrahams ! pic.twitter.com/0QQt5O6uAk
— Katy Tam (@KatyYYTam) September 15, 2023
心理学賞(1:07:13から)
街で見知らぬ人が見上げていた時に何人の通りがかりの人が立ち止まったり見上げるか調べた実験
Stanley Milgram, Leonard Bickman, and Lawrence Berkowitz
この研究では、交通量の多い街路に立って建物を見上げている群衆の規模と、通行人の反応との関係を調べました。群衆の規模が増加するにつれて、より多くの通行人が群衆の行動に釣られることが分かりました。
トロフィー授与は、2018年にノーベル化学賞を受賞したフランシス・アーノルドです。アーノルド教授は、日の光を浴びるために外に出るが、学生はスマホばかり見ているとコメントしており、それに対して受賞者は、この実験は1968年に行われており(スマホはもちろん無かったので)そんな心配はいらなかったとコメントしています。
今年もたくさんの面白い発表が、このイグノーベル賞を受賞したことがよく分かりました。授賞式はオンラインで実施されましたが、コロナ前のようにMITのMuseumに受賞者が集まるイベントIg Nobel Face-to-Face 2023が11月11日の夕方に実施されるようです。イグノーベル賞を本場で楽しみたい方は、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。また2023年イグノーベル賞受賞者のより詳しい研究紹介も、後日アップロードされるようです。
2022年薬学賞の研究紹介(美味しそうなアイスを食べながらひたすら二人で説明しています。)
次はノーベル賞の発表で盛り上がりましょう!
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