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ケムステニュース

トムソン・ロイター:2009年ノーベル賞の有力候補者を発表

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米国の情報提供会社トムソン・ロイター(本社・ニューヨーク)は24日、今年のノーベル賞の有力候補25人を発表した。(引用:YOMIURI ONLINE)

今年もノーベル賞のシーズンです。気になるノーベル化学賞は、日本時間2009年10月7日18時45分に発表予定です。

Chem-Station内のノーベル賞関連情報は、特集企画「ノーベル化学賞への道2009」にまとめてあります。そちらもご覧いただけると幸いです。

さて毎年この時期の恒例行事ですが、トムソン・ロイター社によるノーベル賞予想が発表されました。これもいつものことですが、日本のマスメディアは国内ニュース価値がある日本人候補者(=小川誠二 東北福祉大教授・医学生理学賞候補)だけしか大々的に取り上げません。 5人ほど一緒に挙げられているハズの化学賞候補(日本人おらず)については、おかげで詳しいことが全く分からない始末・・・。

化学をアイデンティティとするケムステニュースとしては、こういった大手メディアが放り投げる重要ニュースこそ拾わねばならない・・・そんな使命感を持つところですね。

何はともあれ、今年予想に上がったのはどんな人なのでしょうか?

【色素増感太陽電池「グレッツェルセル」の発明】

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マイケル・グレッツェル (スイス ローザンヌ工科大学 教授)

グレッツェル博士は色素増感型太陽電池(Dye-Sensitized Solar Cell)と呼ばれる、次世代型太陽電池の実用モデルを実際に作成し、そのポテンシャルを示した人物です。

 

gratzel_cell.png その原理自体は古くから知られていましたが、色素からの電子移動効率が非常に悪く、大きな注目を集めてはいませんでした。しかし、1991年彼らによって変換効率が10%に達する系が報告されて以来、世界中の研究者がこぞって開発競争に参入するようになりました。このため、色素増感型太陽電池は別名グレッツェルセルとも呼ばれています。

近年の潮流である「環境調和型化学を奨励する社会情勢」の後押しも受けて、現在最も注目を浴びているエネルギー関連技術の一つでもあります。ただ、変換効率がまだまだ低く、実用化には至っていません。実用主義が強まる傾向にあるノーベル化学賞授与となると、もう少しの進展が必要な印象を受けます。

 

【DNA内の電子電荷移動に関する先駆的な研究】

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ジャクリン・バートン (米カリフォルニア工科大学 教授)
ベルント・ギース (スイス バーゼル大学 教授)
ギャリー・シュスター (米ジョージア工科大学 教授)

バートン教授・ギース教授・シュスター教授はDNA鎖の塩基対を介して電子移動が起こる現象、つまりDNAに電流が流れる事実を示した科学者たちです。これはすなわち、極小の分子を導線として用いるという学術コンセプトの提示になります。
さらに近年では他の研究者たちによって、自己組織化によるDNAの自在配列研究(DNAオリガミetc)が盛んに報告されてもいます。これらの研究を組み合わせることによって、分子を導線として自在に用いることが出来るようになれば、当然ながら今以上のレベルで機器回路の微細加工・集密化が可能となります。ボトムアップ式電気回路設計を思想レベルで刷新してしまう技術となるのは間違いないでしょう。

そのための研究は各所で行われていますが、あまりに途轍もないアイデアゆえか、いまのとこ基礎研究の域を出ておらず、応用・実用にはほど遠い印象を受けます。とはいえ、夢のある研究の一つであることは確かです。

 

【エナミンを使った有機不斉触媒反応の発展】

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ベンジャミン・リスト (独 マックス・プランク研究所教授)

近年勃興した有機分子触媒研究の火付けである、「プロリン触媒による分子間直接的不斉アルドール反応(List-Barbasアルドール反応)」を初めて報告した人物です。

list_barbas_1.gif 有機合成で用いられてきた触媒は、金属を活性中心とするものがほとんどでした。しかしながら金属の種類によっては、高価・有毒・廃棄困難であったり、水や酸素に不安定であったりと、困った点も少なくありません。
有機分子触媒(organocatalyst)とは、金属を使わずに有機化合物のみを触媒として用いるというものです。取扱いや構造チューニングが簡単であり、安定・安価・環境に優しいなどのメリットがあるとされ、上述の金属触媒における問題点克服に有効なアプローチの一つとして注目を集めています。
近年世界で激しい研究競争が進められており、金属触媒ではどうやっても進行させられない反応すら進行させることが可能となりつつあります。
仮にこの領域でノーベル賞が授与されるとなると、原始論文の共著者となっているスクリプス研究所のBarbas教授、斬新な触媒設計コンセプトでこの領域の世界第一人者となっているであるプリンストン大学・MacMillan教授も候補からは外せないところでしょうか。
実用化という観点では、最も達成容易そうな印象の分野です。とはいえノーベル賞となるともう少し先のこと――というよりも、有機合成分野にはこれに先だって授与されるべき研究が他にもあるのでは、というのが筆者の感想ですが。

以上、人物紹介と研究内容を簡単にまとめてみました。
全体的に見て、受賞にはやや時期尚早なチョイスが多いように思えます。もちろん以前に選んだ候補者と同じものを何度も選ぶのも何なので、あえて違った人物をチョイスしているのでしょうが。

やはりこうしてみると手前味噌ながら、ケムステ予想の「パラジウム触媒によるクロスカップリング反応」が濃厚だと思うのですが、読者の皆さんのご意見はいかがでしょう?

 

関連書籍

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関連リンク

  • ノーベル化学賞への道2009 (Chem-Station特集企画)
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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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