Leonardo da Vinci is renowned to this day for innovations in fields across the arts and sciences. Now, new analyses published in the Journal of the American Chemical Society show that his taste for experimentation extended even to the base layers underneath his paintings. Surprisingly, samples from both the “Mona Lisa” and the “Last Supper” suggest that he experimented with lead(II) oxide, causing a rare compound called plumbonacrite to form below his artworks. (引用:10月11日ACS discover chemistry)
以前、レンブラントの名画、夜警について絵具の化学分析を行った結果を紹介しましたが、今回JACSにモナリザの分析に関する論文が発表されたので本ケムスケニュースで取り上げます。
X-ray and Infrared Microanalyses of Mona Lisa’s Ground Layer and Significance Regarding Leonardo da Vinci’s Palette | JACS @UnivParisSaclay @ESPCI_Paris @c2rmf @sciam @TheEconomist @NYTScience #Analysis #MonaLisa #daVinci https://t.co/GBrs8pVxMe
— J. Am. Chem. Soc. (@J_A_C_S) October 13, 2023
レオナルドダヴィンチは有名な芸術家であり、今回の題材となったモナリザや最後の晩餐などの作品は、多くの人が名前を聞いただけでどんな絵画なのかを想像できるかと思います。そんなレオナルドダヴィンチの絵画の技法は、現代でも謎が多く重要な研究テーマとなっています。特にレオナルドの場合、画材に関する手掛かりはほとんど残されておらず、さらに絵画によって画材が異なることが分かっています。
モナリザについては、先行研究においてマクロXRFとX線分析によって鉛の色素が使われていることが分かり、また塗料の層の構成についても明らかになりました。
そして2007年には、モナリザの絵画の端から剥がれ落ちたサンプルを使って、断面のSEM-EDSによる分析が行われ、青色にはラズライト(Na7Ca(Al6Si6O24)(SO4)(S3)·H2O)由来と考えられるAl, Si, Kが検出され、黄色からはカルサイト(CaCO3)のCaが検出されました。Pbは白の下地層から検出され、Lead white(LW)が使われていることが示唆されました。このLWは、15から19世紀のイーゼル絵画で広く普及した塗料であり、大気中の酸や二酸化炭素、水、酸素などと長い年月をかけて反応することによってPb3(CO3)2(OH)2[HCer:hydrocerussite]とPbCO3 [Cer:cerussite]の結晶が合成されることが分かっています。そのためPbの化学種を調べ、芸術家がどのようなLWを使ったかを調べる研究が行われています。レオナルドの絵画についても近年いくつかの研究が報告されており、様々なLWが使われたことが分かっています。このような背景がある中、レオナルドが絵画で使用した塗料について新たな発見を目指してシンクロトロン放射光とFTIRを用いてモナリザに加えて最後の晩餐の下地層の調査を行いました。
サンプルはモナリザの右上、木製のパネルの境界から下地層の破片が採取され、欧州シンクロトロン放射光研究所のID22のビームラインで分析が行われました。得れたXRDパターンを分析するとHCeやCer, LWに加えて、Pb5O(OH)2(CO3)3:PNの組成を持つ鉛ナクル石が含まれていることが分かりました。このPNが検出されたことは筆者らは、イタリアのルネサンス時代の絵画においては検出されたことが無く予想外であるとコメントしています。
PNが安定的に存在するにはアルカリ性での環境が必要です。例えばThéodore de Mayerneは、油の乾燥を促進するためと暑いペーストを作るためにPbOを使用しており、このPbOがけん化によってカルボン酸鉛へと変化します。同様の化学変化がモナリザで起きていないかを確認するためにFTIRのマッピングを行いました。結果、大量の鉛石鹼分を含む高いケン価の油をレオナルドは使用したことが推測されました。この点についてレオナルドが残した文章の解読や最後の晩餐をはじめとした他の作品の分析によってPbOを油の乾燥のために使用したと筆者らは推定しています。
夜警の分析と同様に、鉛化合物について主に議論されており、鉛化合物が絵具として重要だったことを認識させられます。現在では画材の入手は難しくはないため、画家が自ら絵具を調整することは少ないと思いますが、本論文の通り昔は画家が独自のいろいろな調合テクニックを持っていたと想像できます。そしてその調合を検出される化学種から推測していることは、なかなか接点が無い芸術と化学を繋げており、興味深いことです。レオナルドダヴィンチの自画像は、荘厳ですが、化学実験のようにいくつかの原料を調合していたならば、親近感を感じてしまいます。今後の有名な絵画に関する化学的な調査の続報に期待します。
関連書籍
錬金術の歴史: 秘めたるわざの思想と図像 創元世界史ライブラリー