[スポンサーリンク]

ケムステニュース

北九州における化学企業の盛んな生産活動

[スポンサーリンク]

AGCは、このたび北九州事業所において、グリーン水素製造に適したフッ素系イオン交換膜の製造設備新設を決定しました。投資金額は約150億円、稼働開始は2026年6月を予定しており、さらなる能力増強を経て、2030年度に売上高約300億円を目指します。(引用:1月30日 AGCプレスリリース)

日本パーカライジング株式会社は、この度、金属表面処理薬剤生産工場を福岡県北九州市若松区に新規に建設することを決定し、事業展開を円滑に進めるため、本日、北九州市と立地協定を締結しました。(引用:1月29日 日本パーカーライジングプレスリリース)

国内では、どちらかというと工場の閉鎖や統合といった残念なニュースが多いですが、今回は北九州市において工場の新設や再稼働が決定したニュースをお伝えします。

まず一件目は、AGCのプレスリリースについてです。AGCでは、北九州市戸畑区に北九州事業所を有していますが、2002年に重曹の製造を終了、2009年に自動車用ガラスの製造を終了しており、近年では物流拠点として使用していたようです。その北九州事業所にてフッ素系イオン交換膜の製造設備新設を決定しました。製造するフッ素系イオン交換膜は、水を分解して水素を発生させる水電解装置に使われる材料で、世界トップレベルの消費電力を抑制する電圧性能およびガスバリア性能を有しているそうです。

稼働開始は2026年6月を予定しており、能力増強を経て、2030年度に売上高約300億円を目指すそうです。別リリースで発表されている中期経営計画では、パフォーマンスケミカルズとして他業界向けに高機能フッ素製品を集中展開することを発表しており、この水電解装置向けのフッ素イオン交換膜も注力していくと予想されます。太陽光や風力など様々な再生エネルギー電源が実用化されていますが、電気は大量に貯蔵することが難しく、現在でも九州地方では、太陽光発電を出力抑制する事態になっています。そこで余剰電力で水の電気分解を行い水素に変換して貯蔵するシステムが検討されています。水電解装置としては、アルカリ性溶液を使うアルカリ型と固体高分子膜(Polymer Electrolyte Membrane : PEM)型があり、このPEM電解装置において、AGCのフッ素イオン交換膜はコアの部位となります。

二件目は、日本パーカライジングによる、金属表面処理薬剤生産工場の新設に関するニュースです。日本パーカライジングのコア事業の一つに表面処理が挙げられ、塗装の下地として皮膜形成剤や鋼を圧延する際の潤滑油、防錆のためのメッキ剤などの製造・販売を行っています。

日本パーカライジングでは、福岡県鞍手町と広島県福山市に金属表面処理薬剤を生産する工場を有しておりますが、福岡県北九州市若松区に統合再編を行うそうです。新工場は、2025年 4 月から工場建設を開始し、2027 年 4 月稼働の開始を予定しております。

一件目に関して、AGCとしては建設コストや原料、製品の物流コスト、働く従業員など総合的に判断して、他の工場の増設ではなく生産工場を一度閉鎖し物流拠点になった場所に、再度化学品の製造拠点を作ることにしたと考えられます。マップで見る限り、隣にはDNPの大きな工場があり、その隣には産業ガスを取り扱う工場もあるようです。そのため、工場を稼働させるのに必要な環境が揃っていたため再建設を決めたのかもしれません。二件目は、統廃合で拠点を新設するというパターンですが太陽光、再生エネルギー、AI、二酸化炭素排出量実質0、作業負担軽減、バリアフリーと今時のトレンドを盛り込んだ工場を構想しており、これを達成するために既存の工場にまとめるのではなく新設する決断を下したのかもしれません。似たようなプレスリリースが二つ重なったのは偶然ですが、他社においても北九州市の拠点の増強などが近年行われています。事情は各社異なるかと思いますが、物流や人材の面で北九州市が有意な模様です。

関連書籍

全国新工場・プラント計画 (2023年版)

全国新工場・プラント計画 (2023年版)

重化学工業通信社
¥22,100(as of 02/11 19:56)
Amazon product information
新版 まるわかり職場巡視 工場編 (Howto産業保健)

新版 まるわかり職場巡視 工場編 (Howto産業保健)

加部 勇
¥2,200(as of 02/11 19:56)
Amazon product information

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. L・スターンバック氏死去 精神安定剤開発者
  2. カクテルにインスパイアされた男性向け避妊法が開発される
  3. 田辺製薬、エイズ関連治療薬「バリキサ錠450mg」を発売
  4. 吸入ステロイド薬「フルタイド」の調査結果を発表
  5. ユニバーサル・フェーズセパレーター発売
  6. イチゴ生育に燃料電池
  7. 第54回国際化学オリンピックが開催、アジア勢が金メダルを独占
  8. 「サンゴ礁に有害」な日焼け止め禁止法を施行、パラオ

注目情報

ピックアップ記事

  1. メーカーで反応性が違う?パラジウムカーボンの反応活性
  2. ブヘラ・ベルクス反応 Bucherer-Bergs reaction
  3. 【書籍】タンパク質科学 生物物理学的なアプローチ
  4. 科学予算はイギリスでも「仕分け対象」
  5. 役に立たない「アートとしての科学」
  6. 谷口 透 Tohru Taniguchi
  7. ニコラス-ターナー Nicholas Turner
  8. 複雑な生化学反応の条件検討に最適! マイクロ流体技術を使った新手法
  9. 高橋 雅英 Takahashi Masahide
  10. イスラエルの化学ってどうよ?

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2024年2月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
26272829  

注目情報

最新記事

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

モータータンパク質に匹敵する性能の人工分子モーターをつくる

第640回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所・総合研究大学院大学(飯野グループ)原島崇徳さん…

マーフィー試薬 Marfey reagent

概要Marfey試薬(1-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル-5-L-アラニンアミド、略称:FD…

UC Berkeley と Baker Hughes が提携して脱炭素材料研究所を設立

ポイント 今回新たに設立される研究所 Baker Hughes Institute for…

メトキシ基で転位をコントロール!Niduterpenoid Bの全合成

ナザロフ環化に続く二度の環拡大というカスケード反応により、多環式複雑天然物niduterpenoid…

金属酸化物ナノ粒子触媒の「水の酸化反応に対する駆動力」の実験的観測

第639回のスポットライトリサーチは、東京科学大学理学院化学系(前田研究室)の岡崎 めぐみ 助教にお…

【無料ウェビナー】粒子分散の最前線~評価法から処理技術まで徹底解説~(三洋貿易株式会社)

1.ウェビナー概要2025年2月26日から28日までの3日間にわたり開催される三…

第18回日本化学連合シンポジウム「社会実装を実現する化学人材創出における新たな視点」

日本化学連合ではシンポジウムを毎年2回開催しています。そのうち2025年3月4日開催のシンポジウムで…

理研の一般公開に参加してみた

bergです。去る2024年11月16日(土)、横浜市鶴見区にある、理化学研究所横浜キャンパスの一般…

ツルツルアミノ酸にオレフィンを!脂肪族アミノ酸の脱水素化反応

脂肪族アミノ酸側鎖の脱水素化反応が報告された。本反応で得られるデヒドロアミノ酸は多様な非標準アミノ酸…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー