ENEOS株式会社と株式会社Preferred Networks(PFN)は、2023年1月に石油精製・石油化学プラントを自動運転するAIシステムの常時使用をENEOS川崎製油所石油化学プラント内のブタジエン抽出装置で開始し、手動操作を超える経済的で高効率な運転を達成しましたので、お知らせいたします。同AIシステムは、大規模かつ複雑であり、長年の経験に基づいた運転ノウハウが求められるプラントを自動運転するシステムとしてENEOSとPFNが共同開発したものです。 (引用:8月10日Preferred Networksニュースリリース)
サンスターグループは、化学物質が皮膚に接触した場合にアレルギー反応を引き起こすリスクを評価する試験(皮膚感作性試験)において、アレルギーが誘発される強度を予測するAIを独自に開発しました。皮膚感作性は従来、動物実験によって評価されてきました。しかし近年では、動物愛護の観点から、動物を使用しない試験方法の開発が強く求められています。今回開発したAIでは、動物実験を実施せずに化学物質の皮膚感作性強度を予測することができます。(引用:8月21日PR TIMES)
データケミカル株式会社は、同社が展開する化学分野のAI・機械学習クラウドサービス「Datachemical LAB(データケミカルラボ)」にて、汎用的に変数重要度を計算する機能を2023年8月17日よりリリースしました。(引用:8月22日TECHABLE)
1件目のプレスリリースは、2022年3月にケムステニュースで紹介したブタジエン抽出装置の自動運転の続きについてです。ENEOSとPFNでは、化学プラントのAIによる自動運転に取り組んでおり、2021年12月にはブタジエン抽出装置の2日間の自動運転に成功しました。そして2023年1月に手動操作を超える経済的で高効率な運転を達成しました。
この自動運転では、プラント内の温度、圧力、流量および製品性状などの13個の運転重要因子の常時監視9個のバルブ同時操作に加えて、363個の入力センサーを用いた予測を行うことでプラントの自動運転を行いました。
下の図はプラント自動運転AIシステム稼働前後の運転重要因子(製品性状値)の制御性ですが、手動操作とAI操作を比べると運転重要因子の振れが小さく、バルブ開度の変動も細かいことが分かります。結果、装置全域に対して運転変動を安定化させると共に、手動操作を超える経済的で効率的な運転を達成しました。
現在は、常圧蒸留装置などの他プラントの自動最適化AIシステムの開発も実施しており、今後ENEOSの他製油所への展開とシステムの他社への販売を計画しているそうです。
2件目は、オーラルケアや日用品を製造しているサンスターからのプレスリリースです。化粧品の開発において、化学物質が皮膚に接した場合に皮膚アレルギーを誘発するリスク、皮膚感作性は重要であり、従来は動物実験によって評価されてきました。一方で、動物実験の禁止が進んでおり、動物を使用しない皮膚感作性評価法の開発が強く求められています。そこでサンスターでは皮膚感作性リスク評価を実施可能なAIを構築し、その予測精度を検証しました。
具体的には、動物実験で皮膚感作性の強さを示すEC3値が判明している195の物質を学習用、内部検証用、外部検証用の三つに振り分け、AIを構築しました。AIは皮膚感作性の有無にかかわらず予測可能な機械学習モデルAに加え、皮膚感作性のある物質に対して、特に予測精度の高いモデルBの2種類を組み合わせました。入力データは細胞実験の結果や分子構造に加えて、類似物質に関する数値も使用しました。類似物質に関する数値とは、対象物質に似ている物質のEC3値や、似ている度合いなどを示します。
結果、予測精度の指標であるR2値として(1)学習用物質で0.995、(2)内部検証用物質で0.787、(3)外部検証用物質で0.824であり、良好な予測精度を示しました。
このAIの活用により、アレルギー誘発リスクの低い安全な処方設計への貢献が期待でき、今後は本AIの実用化に向けて、適用範囲の明確化や他データでの充分な検証を実施する予定だそうです。この研究成果は「第50回日本毒性学会学術年会」(2023年6月19日(月)~6月21日(水))にて発表されました。
3件目は、化学分野・化学工学分野を専門としたデータサイエンス事業を展開しているデータケミカル株式会社のプレスリリースについてです。データケミカルでは、化学分野のAI・機械学習クラウドサービス「Datachemical LAB(データケミカルラボ)」を展開しており、このサービスでは実験条件の統計的な選定からアシストされ、得られたデータに基づいて20種類以上のアルゴリズムを自動的に最適化され、少ない実験回数で高い予測精度を実現することができます。
今回、予測モデルにおいてどの変数がより予測に影響を与えているかを測る“変数重要度計算”を行う新機能が追加されました。この新機能では、CVPFI(Cross-Validated Permutation Feature Importance)と呼ばれる独自のアルゴリズムを使用していて、従来の変数重要度の計算手法が抱えていた、特定の機械学習モデルしか対応できない、データが少ないときなどでは安定的に計算できない等の課題を改善し、汎用的に計算することができます。
新機能により予測モデルの解釈性が大幅に向上し、様々な技術テーマの研究開発に機械学習をより活用しやすくなるそうです。
1件目のAIによるプラントの運転について、運転効率が人間を上回ったということで、将棋におけるAIの進化と重なる部分があると思いました。ただしプラントの運転をAIが行うことにより、バルブなどの動かし方の傾向が人間と変わることで、部品の劣化度合いなどが変わるのかが気になるところです。長期的な運用によって、運転効率だけでなくプラントのメンテナンスなどについても評価が行われることを期待します。2件目の皮膚感作性の予測は、動物の犠牲をできるだけ減らしながらも新しい製品の開発が続けることができる方法ではないでしょうか。AIがはじき出す予測値の活用については、規格や規制を管理している業界団体や国際機関で活発に議論を行ってほしいと思います。3件目の変数重要度計算は、得られた予測モデルの解釈を行う際に役立つのではないかと思います。モデルの精度はもちろん重要ですが、どの変数が重要なのかを知ることは科学現象の理解には必要なことだと思います。
関連書籍
デジタルトランスフォーメーション 生産プラント設計の改革: DXによる新しい設備投資とその手法 (ATP出版)