日本ゼオン株式会社と大阪大学は、2023年7月1日、大阪大学大学院基礎工学研究科に共同研究講座(講座名:日本ゼオン・カーボンニュートラル先進触媒共同研究講座)を開設いたしました。 本研究講座では、次世代型化学プロセスを支える先進的な触媒技術の研究開発を行うことで、カーボンニュートラルを実現する「ものづくり」を推進していきます。大阪大学との共同研究講座を開設するのは、当社としては初めてとなります。(引用:7月3日日本ゼオンプレスリリース)
日本ゼオン株式会社は、この度、投資子会社 Zeon Ventures Inc.を通して、アンモニアのエネルギー変換モジュールシステムを開発する米国スタートアップである AMOGY Inc.に投資いたしました。 当社は、今回の投資と並行してAmogy 社との協業の可能性を検討していきます。(引用:6月5日日本ゼオンプレスリリース)
日本ゼオン株式会社は、名古屋大学 大学院工学研究科の野呂 篤史 講師(未来社会創造機構 マテリアルイノベーション研究所及び脱炭素社会創造センター兼務)らの研究グループとの共同研究成果により、「2022 年度日本レオロジー学会技術賞」および「第 35 回日本ゴム協会賞」を共同受賞することになりました。(引用:5月12日日本ゼオンプレスリリース)
今回は、日本ゼオンのプレスリリースをいくつか紹介させていただきます。
一つは、大阪大学における共同研究講座の開設についてです。研究課題としてポリマー改質向けの次世代型ナノ触媒の開発が挙げられており、触媒活性種となる金属ナノ粒子の形状制御、金属の複合化・合金化、界面制御など様々な精密構造制御を行うそうです。それぞれの役割も決められており、大阪大学では分光学的手法に基づく構造解析で新触媒の開発や評価を行い、触媒活性種の特定とその触媒活性発現メカニズムを明らかにします。一方の日本ゼオンでは、スケールアップに向けた触媒の改良、反応条件の最適化、及び耐久性の評価を行い、今までにないコンセプトの触媒の社会実装を目指します。
共同講座の設置期間は3年間で、日本ゼオン総合開発センターと大阪大学大学院 基礎工学研究科の満留 敬人准教授が、研究代表者となっています。満留准教授が所属する反応化学工学講座では、金属ナノ粒子を用いた触媒について研究されており、環境に優しい物質変換プロセスを実現できる高機能固体触媒の開発において多くの成果を発表されています。
日本ゼオンでは、この共同研究から得られる技術や知見がのカーボンニュートラル実現に向けた施策に寄与するだけでなく、独創的な技術に更なるイノベーションをもたらすと期待しています。
二件目はアメリカのスタートアップへの投資に関するニュースです。日本ゼオンが投資を行ったのはAMOGY Inc.というスタートアップで、アンモニアを燃料とする発電システムの開発を事業内容としています。AMOGYでは、アンモニアをクラッキングによって水素を発生させ、その水素を使って燃料電池から電気を得る車載用のシステムを開発しています。液体アンモニアとして車や船に積載することでリチウムイオン電池よりもエネルギー密度が5倍大きくなることを利点として掲げ、すでにドローンや農業用トラクター、トレーラーレッドにシステムを搭載し、走行実験を成功されています。
今後日本ゼオンは Amogy 社と共に、アンモニア発電システムを進化させるための素材及び、アンモニア発電システムの化学プラントへの実装可能性を検討していくそうです。
最後は、学会賞受賞の話題です。受賞されたのは、2022 年度日本レオロジー学会技術賞と第 35 回日本ゴム協会賞で、どちらもスチレン系熱可塑性エラストマーの強靭化技術が受賞業績題目です。日本ゼオンでは、熱可塑性エラストマーを製造・販売していますが、これを化学修飾することでより強靭なエラストマーにする研究を名古屋大学と共同で行っています。特にイオン性官能基を導入したものでは、引張強度、タフネス、耐衝撃性が、従来のものと比べて3倍以上の値を示すことが分かり、この研究成果に対して論文発表や特許出願を行っており、今回この二つの賞を受賞することになりました。
発表論文に関してはケムステニュースで取り上げており、イオン性官能基の導入によって、引っ張り強度や圧縮厚さ、衝撃耐性などが修飾なしのエラストマーや他の材料よりも優れていることが論文中で示されています。
1件目と3件目は、ポリマー関連における大学との共同研究です。大学との共同研究では、開発した技術の一部を論文や学会発表といった何らかの形で発表する必要があり、開発情報を自由にコントロールすることができない点があります。そんな中でも、可塑性エラストマーの強靭化の研究では、材料の改良とその評価についての論文を発表しており、特許化や製品化が済んでいたとしてもその公開に驚きを感じました。大阪大学との共同研究でも大きな技術革新が生まれ、その成果が論文で発表されることを期待します。2件目について、車両上でアンモニアから水素を発生させて燃料とする技術はあまり知りませんでしたが、水素の欠点である貯蔵と運搬の難しさをアンモニアによって克服することは、興味深い方法だと思いました。車両への普及には充填時の刺激性や腐食性への対処が気になるところですが、日本ゼオンが目指す化学プラントでの実装ではこれらの障壁は低いかもしれません。この技術の続報に期待します。
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