産総研と金沢工業大学は、2023年7月、金沢工大・産総研 先端複合材料 ブリッジ・イノベーション・ラボラトリを金沢工大 革新複合材料研究開発センター内に整備しました。ブリッジ・イノベーション・ラボラトリは、企業ニーズを核として、産総研と地域大学等が持つ研究シーズを用いた共同研究等を実施する連携拠点で、金沢工大・産総研BILはその第一弾となります。産総研と金沢工業大学が持つ材料開発の強みを活かし、カーボンニュートラルに向けた天然素材複合材料の研究開発を行います。地元企業との共同研究を推進することで、地元企業の事業化を支援し、新産業創出・地域経済の活性化・社会課題解決を目指します。 (引用:産総研プレスリリース7月14日)
コニカミノルタ株式会社、産総研、株式会社AIST Solutionsは、本日、「コニカミノルタ-産総研 バイオプロセス技術連携研究ラボ」(以下 バイオプロセス研究ラボ)を設立しました。これにより、バイオプロセスにおけるスケールアップ時のエンジニアリング課題の解決、また微生物による高機能材料製造を志向した次世代バイオ生産マネジメントシステムの実現を目指します。(引用:産総研プレスリリース6月1日)
今回は、産総研に関するプレスリリースを2件紹介します。
1件目は、金沢工大との共同研究についてです。まずこの共同研究の背景と狙いについてですが、北陸地方は古くから繊維産業が盛んであり、現在でも化学合成繊維、特にナイロン、ポリエステルの全国シェアは非常に高くなっています。加えて高機能素材産業や機械産業も盛んであり、特に石川県は炭素繊維を含む繊維強化複合材料(CFRP、FRP)の研究開発の一大拠点地域であり、CFRPやFRPの有効活用技術の開発が地域経済活性化を促進しています。
炭素繊維は膨大なエネルギーを消費して製造されるため、カーボンニュートラルに向けた取組みが必要であり低環境負荷型の革新的複合材料の開発に期待が寄せられていました。そこでこの金沢工大・産総研 先端複合材料 ブリッジ・イノベーション・ラボラトリ(金沢工大・産総研BIL)では、金沢工大の複合材料の成形プロセス技術と産総研の木質材料の改質・成形プロセス技術を組み合わせ、資源循環やCO2排出削減に資する革新的材料を創製するための研究開発を推進します。
金沢工大 革新複合材料研究開発センターは、2014年3月に完成した研究所で複合材料の研究や企業と連携した製品開発、教育、国際連携の役割を担っています。研究設備にも特徴があり、現場の製造ライン検証や連続成形された大型構造部材を組み立て評価検証ができ、材料開発、製造プロセス、エンジニアリング、評価・分析、商品開発、製造に係る一連の技術分野を支援しています。
この金沢工大・産総研BILは、金沢工大 革新複合材料研究開発センター内に設置され、資源循環型複合材料の開発や低環境負荷で競争力のある複合材料の開発などについて研究を進め、地域経済産業の活性化目指すそうです。産総研のブリッジ・イノベーション・ラボラトリ(BIL)は、地域の中小企業やベンチャー企業等への支援強化のためのプロジェクトの一つであり、本件が最初の拠点となります。
2件目は、コニカミノルタとの連携研究ラボ設立のニュースです。生物由来の素材を用いたバイオプロセス技術は、化石燃料を原料としないで物質の生産を行うことができることからカーボンニュートラル実現のキーテクノロジーとして大きな期待が寄せられています。コニカミノルタでは自社のケミカル工場において、センシング技術、AI技術を活用したマテリアルズ・インフォマティクスおよびプロセス・インフォマティクスの導入を進めています。
このバイオプロセス研究ラボでは、従来にない複雑系物質生産におけるモニタリング技術を開発し、バイオプロセスの実用化への課題である生産プロセスのスケールアップと安定生産に向けて取り組みます。研究課題の一つ目として、ラボレベルと量産レベルでのさまざまなデータについて関連づけを行うためのセンシングデバイスの開発とそのセンシングデバイスから得られたデータについてAIによる分析とプロセス制御を行うシステムの開発を行います。さらに研究課題の二つ目として、バイオ由来の原料を用いた機能材料の製造プロセスの研究開発を行います。
このような企業の名称を冠した連携研究室(冠ラボ)は企業のニーズにより特化した研究開発を実施するため、産総研では2016年度から設置をはじめました。すでに20ほどの冠ラボが設置されており、材料系では下記の企業との冠ラボがあります。
- コニカミノルタ-産総研バイオプロセス技術連携研究ラボ
- 日本特殊陶業-産総研 カーボンニュートラル先進無機材料連携研究ラボ
- JX金属-産総研 未来社会創造 素材・技術連携研究ラボ
- DIC-産総研 サステナビリティマテリアル連携研究ラボ
この冠ラボは製造業だけに限らず、例えば保険会社であるSOMPOホールディングスとの冠ラボも設置されています。
一件目について最先端材料である炭素繊維などに木材などの天然材と合わせて複合材料とし、カーボンニュートラルに貢献するという研究内容はユニークだと思いました。複合材料となることで、単一の材料を使う場合と比べて製造プロセスが複雑になることが予想されますが、複合材料ならではのオリジナリティの高い素材が生み出されることを期待します。この連携では、大学の研究センターと産総研が連携しており、連携拠点先も大学となっています。他の場合では産総研内に研究拠点が設置されることが多く珍しいケースだと感じました。本連携に携わる研究者の方の情報は明らかになっておりませんが、産総研からの貢献が気になるところです。二件目について、コニカミノルタはプラネタリウムをはじめとした光学機器のイメージが強いですが、液晶フィルムや光学部品など機能材料の製造も手掛けています。この連携での研究ではセンシング技術を深化させて、バイオ由来原料とそれを使った製品の量産を目指すそうですが、化学に関する興味としては、バイオ由来の原料を用いた時の製造プロセス技術開発が気になるところです。この研究によってバイオ原料の製造での使用における特性が明らかになり、身の回りの製品に幅広く使えるようになることを期待します。