アメリカ科学振興協会(AAAS)と科学誌Scienceが開催する論文ダンスコンテスト「Dance Your Ph.D.」では、科学論文の内容をダンスで表現し、そのクオリティを競います。そして2023年、栄えある「Dance Your Ph.D.」で総合優勝を果たしたのは、アメリカ・オレゴン大学(University of Oregon)の化学者チェッカーズ・マーシャル氏でした。彼女は青い風船や黄色の扇子を使って、自身の金属有機構造体(MOF)に関する研究を表現しています。 (引用:ナゾロジー3月19日)
研究内容の発表といえば、プレゼンテーションやポスター発表、論文投稿が一般的ですが、博士論文の研究をダンスで表現し動画を投稿するコンテストが開催されました。
コンテストの名前はDance Your Ph.D.で、今年でなんと15回目の開催と歴史のある大会です。参加資格は科学に関するPh.D.を持っているかPh.D. studentであることで、参加者がダンスに参加する必要があります。開催者はAAAS and Scienceで、AI技術を開発しているPrimerがスポンサーとなっています。Physics, Chemistry, Biology, and Social Sciencesのカテゴリーに分けられており、科学的な美点と芸術的な美点、 独創的な科学とアートの結合の3点で審査されます。賞金も用意されており、カテゴリーごとのWinnerには750ドル、総合優勝者には2000ドルが授与されます。
冒頭の紹介の通り今年の総合優勝は、Nanoparticles of Metal-Organic Frameworks: A General Synthetic Method and Size-Dependent Propertiesという内容でアメリカ・オレゴン大学のCheckers Marshall博士となりました。おめでとうございます!
Marshall博士の動画は、オリジナルのラップ調の音楽に合わせてMOFのフレーム模型や電子を見立てたうちわを使って踊りながら反応を中心に解説しています。映像と歌の両面から研究がわかりやすく紹介されており、特に動画中盤でMarshall博士と研究室メンバーを鉄イオンに見立て、電子を示すうちわを投げ合って電子の授受を表現している部分は圧巻です。ダンスだけでなく実験中の作業も時折登場し、バランス良く化学を楽しめる動画となっています。
個人ページによるとMarshall博士はFlow artsと呼ばれるアートに精通しており、特にファンの回転を専門としてパフォーマンスの様子掲載されています。そのため、Dance Your Ph.D.の動画でもうちわを使った表現を採用した様です。彼女は、Brozek Groupで研究を行ってきましたが、昨年末にPh.Dを取得しSvanteでMaterials Synthesis R&D chemistで次のキャリアをスタートされるようです。企業でもこの才能が活かされればと思います。
BiologyカテゴリーはNational Institute of Amazonian ResearchのIsrael Sampaio Filhoさんが“Leaf abscisic acid (ABA) biosynthesis: the main source of Amazon rainforest response to warming”という内容で受賞しました。
大グループでの情熱的なダンスが印象的ですが、動画の後半には関連する分子の模型が登場します。
Physics categoryはSwiss Federal Institute of Technology LausanneのEvgenii Glushkov博士が “Exploring optically active defects in wide-bandgap materials using fluorescence microscopy”という内容で受賞しました。
この動画にはTango of The Protonという副題が付けられている通り、タンゴで結晶中の電子の振る舞いを表現しています。気になるのはタンゴを踊っている場所であり、よくこの研究にふさわしいタンゴを踊れる場所があったなと驚きます
Social scienceカテゴリーでは、Stony Brook UniversityのHuy VuさんがArtificial Intelligence with Personalityという内容で受賞しました。
この動画では、Huyさんが語りながら色々なスタイルのダンスを披露しています。論文のリジェクトのメールを受信するところから始まり、研究紹介を間に挟んでチームミーティングでアクセプトのメールを受信して物語は終わります。
今のところ、Dance Your Ph.D.で受賞した日本に関連する方はいないようですので、日本人初受賞を目指してダンスを特訓し、来年応募してみてはいかがでしょうか。