[スポンサーリンク]

ケムステニュース

化学産業のサプライチェーンをサポートする新しい動き

[スポンサーリンク]

長瀬産業株式会社、ナガセ情報開発株式会社は、2023年2月1日より、化学品ドキュメントの配付管理ツール「DocuValue(ドキュバリュー)」の提供を開始します。化学品の譲渡や提供の際に送付される書類の一元管理を目指すクラウドサービスで、化学品サプライチェーン各社にかかる負担の軽減を目指します。 (引用:PR TIMES 2月2日)

三菱ケミカルグループと三井化学は1月27日、化学品物流の標準化・効率化に向けた共同検討を開始したと発表した。早期に着手可能なテーマは2022年度内から段階的に実行し、同様の課題を抱える化学業界の物流分野で企業の枠を超えて横断的な取り組みをリードしていく考え。これらの取り組みを通して、持続可能かつ強靭な化学品物流の実現を目指す。 (引用:カーゴニュース 2月2日)

今回は、化学品のサプライチェーンに関するニュースを2件を取り上げます。

1件目は、長瀬産業が化学品ドキュメントの配付管理ツールの提供を開始したという内容です。

化学品の安全管理・法令遵守においてSDSの確認は大変重要で、化学品を販売する場合取引量に関わらずSDSを顧客に配布する必要があります。SDSは商品ごとに作成されておりたくさんの化学品を取り扱う会社では、自社のSDSだけでなく提供された他社のSDSも蓄積されて膨大なSDSを管理し、それを顧客や内部の要求に応じて提供する必要があります。さらに、SDSは法令の改正や商品の改定などにより更新されるものであり、ドキュメント管理はリソースのかかる仕事になっています。そこで長瀬産業株式会社ではSDSを中心とした化学品ドキュメントの配布管理に特化したシステムDocuValueを開発しました。

このDocuValueでは、SDSをはじめとしたドキュメントのフォルダ管理、顧客への共有、バージョン管理、提供を受けたドキュメントの受領確認、顧客に送った送信履歴確認などがクラウド上で可能になります。DocuValueにてSDSを配布する場合、受領する企業は、DocuValueに契約していなくても受領を行うことができます。さらに契約している企業同士のやり取りでは、直接相手企業のフォルダに送信することができ、管理の手間を最小限に抑えることができるようです。もちろん企業同士がつながっていてもドキュメントの送信履歴、配信先企業名、配信先メールアドレスは秘匿化されており、営業情報の漏洩対策がしっかりと施されています。

さらにDocuValueに加え日本ケミカルデータベースが開発するSDS作成・該当法規制調査ツールのChemValueを導入することで、SDS等の作成から送付管理まで、化学品法令管理に必要な機能をワンストップで利用できるようになるそうです。

 

2件目は、三菱ケミカルグループと三井化学による共同物流に関する発表についてです。化学品の輸送は化学品の性状や運送量によって運び方は変わり、液体の量が大きくなるとコンテナやタンクローリー・ケミカルタンカーといった化学品の運搬に特化した方法で輸送することになります。そんな化学品の輸送について近年、人手不足が深刻で逼迫した状況が続いていて、さらに働き方改革関連法の施行により物流の輸送・保管能力不足がより深刻になると予想されています。

そんな中、三菱ケミカルグループと三井化学では、化学品物流の標準化・効率化に向けた共同検討を開始しました。両社は、早期に着手可能なテーマは 2022 年度内から段階的に実行し、会社の枠を超えて横断的な取り組みをリードしていくそうです。具体的には、下記のようなテーマを検討するとしています。

  • 両社の事業所・工場が立地する中京エリアで出荷製品を集約し、同エリア内および他エリアへの輸送を共同化
  • 主に中小口貨物について、三菱ケミカルグループの西日本~関東エリアの輸送ネットワークと、三井化学の東北エリアの輸送ネットワークを相互に活用
  • ケミカルタンカー(液体化学品輸送船)の貸し借りおよび積み合せを行い、積載率向上、BCP 確立
  • 貨物と車両の最適な組合せ(マッチング)を両社での試験運用から開始し、将来的には多数企業とのマッチングへ展開

両社は、物流現場の環境はより厳しくなる一方で対応が必要な要求も多くなり、化学会社各社が個々で取り組むことには限界があることを強調し、お互いが協力し課題解決とイノベーションをリードしていくとコメントしています。

1件目に関して、研究現場でもSDSの管理は煩雑で、頂いたSDSを探すのに苦労することはあります。そのため、SDSの一元管理できるこのサービスは大変有用だと考えられます。SDSは企業間のやり取りだけでなく輸出入においても使われるので国際輸送会社や税関でもこのようなサービスが活用され、手間や紙の削減につながることを期待します。DocuValueに関して紹介サイトや動画では化学ドキュメントの管理と称しており、SDSだけでなく品質証明書といった他のやり取りする文章の管理への展開もあるのかもしれません。

2件目の物流の協業ですが、状況が厳しいことはニュースなどでよく報じられています。そんな中でも共同物流に向けて検討の開始ですが、両社の荷物を一緒に運ぶということには簡単ではないと考えます。例えば、配送に間違いがあった時や車両が交通事故に巻き込まれた時、自然災害で道路が封鎖された時など非常事態はいくらでもあり、それに対する責任と役割を2社で同意するには協議に時間のかかることだと想像します。そんな困難が多い中ぜひ、現状改善のために共同物流を実現してほしいと思います

二つともたくさんの会社が契約・協力するほど大きな力になる話であり、活動が広がることを期待します。

関連書籍

[amazonjs asin=”4798172774″ locale=”JP” title=”エンジニアが学ぶ物流システムの「知識」と「技術」 第2版”] [amazonjs asin=”4621304216″ locale=”JP” title=”Q&Aで解決 化学品のGHS対応SDSをつくる本: JIS Z 7252/7253:2019準拠”]

関連リンクとケムステ過去記事

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 食品アクリルアミド低減を 国連専門委「有害の恐れ」
  2. パーキンソン病治療の薬によりギャンブル依存に
  3. 窒化ガリウムの低コスト結晶製造装置を開発
  4. FM-AFMが実現!”溶ける”を原子レベ…
  5. 室温で液状のフラーレン
  6. はやぶさ2が持ち帰った有機化合物
  7. 日本化学会第86春季年会(2006)
  8. 住友化学、液晶関連事業に100億円投資・台湾に新工場

注目情報

ピックアップ記事

  1. 積水化学、高容量電池の火炎防ぐ樹脂繊維複合材を開発
  2. 人名反応に学ぶ有機合成戦略
  3. クロスカップリングの研究年表
  4. 硫黄の化学状態を高分解能で捉える計測技術を確立-リチウム硫黄電池の反応・劣化メカニズムの解明に期待-
  5. アセトンを用いた芳香環のC–Hトリフルオロメチル化反応
  6. ヤモリの足のはなし ~吸盤ではない~
  7. マテリアルズ・インフォマティクスを実践するためのベイズ最適化入門 -デモンストレーションで解説-
  8. “クモの糸”が「ザ・ノース・フェイス」のジャケットになった
  9. 島津製作所がケムステVシンポに協賛しました
  10. トップリス ツリー Topliss Tree

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2023年2月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー