[スポンサーリンク]

ケムステニュース

ファンケルの身近な健康に関する研究開発

[スポンサーリンク]

ファンケルは、体内の微量栄養素を非侵襲的に分析し、充足状態を判定する技術の研究を行っています。当社で開発した、「βカロテンの充足状態を少量の尿を用いて推定する技術」を活用し、自宅から送っていただいた尿を用いた検査で体内のβカロテンと生活習慣との関連を調査しました。その結果、先行研究で報告されている血液を用いた調査結果と同様、自宅で採取した少量の早朝第一尿に含まれるβカロテンを分析することで、簡単に体内のβカロテン量を把握できることが分かりました。  (引用:ファンケルプレスリリース6月29日)

ファンケルは、ニキビが繰り返し発症する肌の改善を目的とした研究を、当社独自の肌解析方法「角層バイオマーカー」で行っています。今回、繰り返すニキビと皮膚の炎症の関係について研究し、皮膚の炎症に関わるタンパク「NGAL(ゼラチナ
ーゼ関連リポカリン)」が、ニキビ発生時のみならず、肌の表面上にニキビ症状がない時にも、皮膚内で過剰に増加していることを発見しました。さらに、過剰に発生した「NGAL」を抑制する成分として、皮膚細胞を用いた実験で「トラネキサム酸」を見いだし、トラネキサム酸および抗炎症成分を配合したスキンケア製品を用いた連用試験において、赤ニキビ(炎症性皮疹)の数が減少し、ニキビが改善されることを確認しました。  (引用:ファンケルプレスリリース6月23日)

ファンケルは、化粧品やサプリメントなど美容と健康に関する製品を製造販売している企業ですが、商品開発だけでなく基礎研究にも力を入れているようです。今回2件のプレスリリースが発表されましたので紹介させていただきます。

1件目は、体内のβカロテンについてです。緑黄色野菜に多く含まれているβカロテンは、体内でビタミンAに変換されることで皮膚や粘膜を強化するなどさまざまな健康維持増進作用を持つことが知られています。そのためβカロテンを積極的に摂取すべきと言われていますが、自分がどれくらい摂っているかを客観的に調べることは困難です。そこでファンケルでは、尿から体内のβカロテンの量を分析する技術を開発してきました。具体的に2021年の12月には、尿から効率よく抽出・濃縮することに成功し尿と血中の濃度に相関があることを確認しました。

そして今回、ファンケルの従業員260人の尿を調べ、βカロテンの濃度と喫煙歴、飲酒習慣、βカロテン強化食品摂取習慣との相関を調べました。すると、喫煙や飲酒している人は、尿中のβカロテン量が低いことが分かりました。これは血清βカロテン量を調べた場合と同じで喫煙や飲酒によるβカロテンの消費を尿でも確認できることが示されました。逆にサプリメントや野菜ジュースなどのβカロテン強化食品を摂取している人は尿中のβカロテン量が高く、尿中βカロテン量がβカロテンの摂取量を反映する指標であることも示唆されました。今後は、体内の状態を確認してサプリメントを提供するサービスへの活用を目指すそうです。

この調査結果について、喫煙や飲酒をしていてもβカロテン強化食品を摂取すると尿中のβカロテン濃度が向上するのかが気になるところです。サプリメントには摂取目安が書かれていますが、食べ物からも摂取しているわけであり自分がどの栄養素をどれくらい摂取したほうが良いかは分かりません。βカロテンだけでなく他の栄養素についても簡便に調べることができれば、サプリメントのマーケティングとしてだけでなく、健康状態の管理にも役立ち、さらには体内の栄養素と病気予防の相関も詳しくわかるようになると考えられます。

2件目はニキビについてで、ファンケルでは肌角質のタンパク質を調べる技術「角層バイオマーカー」を開発し店頭でのカウンセリングと肌の改善を目的とした研究に活かしてきました。

今回のプレスリリースでは、NGAL(好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン)とニキビの関係の解明を行いました。一定期間ごとにNGALの量を調べたところ、頬部の各角層中にあるNGALがニキビができにくい人の頬部と比較して高いことが分かりました。また、ニキビが肌の表面上から消えた 7 日後においても、NGALは依然として高いことが確認されています。つまり、ニキビができやすい人は、ニキビが消えている時も肌内部でNGALが過剰に増え、炎症状態であることが示唆されました。

次にニキビを防止するためにNGALを抑制する成分の探索を行ったところトラネキサム酸に、NGALを抑制する効果を確認しました。

そして実際に人の肌でテストしたところ、トラネキサム酸および抗炎症成分が配合された使用後においては赤ニキビ(炎症性皮疹)の数が減少し、ニキビが改善されることが確認されました。今後、NGALとニキビ発症の関連について詳細を調べ、ニキビの悩みに寄り添う研究成果を創出していくそうです。

ファンケルでは、このNGALに対して別の発表を行っており、熟成ホップエキスと呼ばれる素材を含む乳液を使用したところ、NGALの量が抑制されることが確認されています。

もちろん、このNGALだけがニキビに関連しているわけではないと思いますが、化学品の使用に対応して原因物質が抑制されたことは、興味深い結果だと思います。たくさんのニキビケアに関する商品が販売されていますが、効く効かないは人によって異なるようで、このような研究によって科学的に効果的な商品が選べるようになることを期待します。

ファンケルのホームページは、研究開発のコンテンツが充実しておりニュースリリースだけでなく簡潔にまとめられた研究開発レポートや、詳しいデータが貼り付けられている研究開発ストーリーなどはサプリメントや化粧品に詳しくなくても楽しめる内容になっています。今後もファンケルの研究開発から目が離せません。

関連書籍

[amazonjs asin=”4872426525″ locale=”JP” title=”分子栄養学のすすめ (健康自主管理システム1)”] [amazonjs asin=”4894793121″ locale=”JP” title=”化粧品成分ガイド 第7版”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 1回の実験で高活性な金属ナノ粒子触媒
  2. 第32回 BMSコンファレンス(BMS2005)
  3. iPadで使えるChemDrawが発売開始
  4. 味の素と元社員が和解 人工甘味料の特許訴訟
  5. 「副会長辞任する」国際組織に伝える…早大・松本教授
  6. 5歳児の唾液でイグ・ノーベル化学賞=日本人、13年連続
  7. 三洋化成の新分野への挑戦
  8. 科学論文を出版するエルゼビアとの購読契約を完全に打ち切ったとカリ…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 水が決め手!構造が変わる超分子ケージ
  2. エーザイ 巨大市場、抗ガン剤開発でライバルに先行
  3. 米陸軍に化学薬品検出スプレーを納入へ
  4. 第35回 生物への応用を志向した新しいナノマテリアル合成― Mark Green教授
  5. 2012年分子生物学会/生化学会 ケムステキャンペーン
  6. 金属スカベンジャーを試してみた
  7. バイオ触媒によるトリフルオロメチルシクロプロパンの不斉合成
  8. 【朗報】HGS分子構造模型が入手可能に!
  9. 有機合成化学協会誌2019年5月号:特集号 ラジカル種の利用最前線
  10. マイクロ波によるケミカルリサイクル 〜PlaWave®︎の開発動向と事業展望〜

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年7月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー